65 【我才視点】 料亭の一幕の裏側 その2
俺の名前は――乙野聡だ。
今は大峰組の『成り代わり』という仕事の1つで上山田ダンジョンの受付をやってんだ。
仕事上多くの攻略者を見ることになって、偶にそこで気になった攻略者の情報を大峰夕夏——お嬢に渡したりしている。今回はそのうちの1件の『小野寺太郎丸』に関するものがお嬢の目に留まったようで、こうして呼び出されることとなった。
お嬢の部屋で諸々の話をした後、お嬢の意向と我才の指示のもと、さらなる小野寺太郎丸の情報収集が続くことに。とは言っても俺は上山田ダンジョンでの受付との業務と並行での調査となり、それほど良い情報は得られなかったけどな。
一応、俺には俺だけの伝手があるので、何とか限られた時間で小野寺太郎丸を調べていく。
その結果、追加で分かったことと言えば、ダンジョンに憑りつかれたように傾倒していることと弟とはそこまで仲が悪くないということ。そして学校でも1人でいることが多く、常にダンジョンのことを考えていることくらいだ。
ちなみにだが、北南高校には最前線攻略者である二階堂剛一の息子が通っていたり、ダンジョンコースの臨時講師に若き天才攻略者の流川天馬が着任していたりと、ちょっとした攻略者の宝庫となっていた。
ダンジョンコースを導入している学校なだけあって名のある攻略者とつながっているのだろう。
今回の件に関係なくこれからもしばらくは調査を続けてもいいかもしれないな。
とはいえ、本来の目的である小野寺太郎丸の情報は学校まで調べたというのに少ない。そもそも彼はネットだろうが図書館だろうが、ダンジョンについての調べものしかしていない。健全な高校生ではないその生態に若干心配になるくらいだ。
「……それで打ち止めか?」
「学校で得られた情報か。小野寺太郎丸は交友が広くないから、そこまで重要な情報は出てきにくいだろうな」
そして今、前回作戦を連携されたときから2週間ぶりの会議が始まっていた。モニターに囲まれた部屋にてお嬢と我才との情報時間だ。
「もう少し掘れると思ったんですがね。ダンジョンがものすごく好きだということはわかりましたが」
気づけば世間ではゴールデンウィークも終わり、小野寺太郎丸は順調にダンジョンレベル13まで攻略を進めていた。お嬢が言うにダンジョンレベル10まではあっという間という話であったが、それ以降も順調に快進撃を続け居ているように思える。
それ自体は特に思うことはないが、その間確かに有益な情報を俺は得られなかった。もっと伝手を広く持った方がいいだろうかと思いつつも、その場では苦笑いしかできない。
「とはいえここまで洗って何も出ない方が異常だ。それだけ小野寺太郎丸はダンジョンを中心に生活をしているということだろう」
たが我才は小野寺太郎丸が枠にはまらない存在であることを認識しており、そこまで俺の仕事にケチをつけてはこない。その柔軟さは前の仕事場とは違って非常に助かる。
「次はあたし達の番だな。とりあえず判明した事実だけモニターに移す。作戦はここから立てるぞ」
なんて思っていると、お嬢がモニターの1つを遠隔で操作し、小野寺太郎丸の情報が列挙され始めた。
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・親からの仕送りは食費のみ→ダンジョンで得た金は基本的に移動費やダンジョン攻略用品に充てている
・中学生のころからアルバイトをしていた→普段使用しているスマホはバイト先の先輩のお古でWiFiがないと使えない
・二階堂に強請られていた→ダンジョンコース修了後はあまりかかわりがない
・『攻略者相互危険承認制度』が流川名義で申請されており、二階堂の元仲間との間でのいざこざをなかったことにしている→二階堂の元仲間と一緒にダンジョンに潜った過去あり
・ダンジョン関連の情報であれば基本的に食いつく
・やはり篭絡は難しそう(受付として近づくが取り付く島もない)
・自分の実力を隠そうとしている?(二階堂とのやり取りや一時帰宅した両親の様子から)
・流川パーティとのダンジョン攻略経験あり→流川パーティは途中で離脱した模様
・コミュ力低め
・使用武器は大金槌だったが、最近は投擲の可能性大(河原で石集めと投擲能力の開示)
・防具は初心者同然だった→さすがに武器は高品質→ダンジョンドロップ産の可能性あり→『ゴブリン剣闘士』のドロップが一番可能性が高い
・次はダンジョンレベル14のダンジョンを攻略→深堀ダンジョン、下関ダンジョン、串間ダンジョン
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「メモだ。各方面の仲間の情報も統合し、以上の結論が導けた」
「そんなことまで調べられるんですね。恐れ入りました」
さすがお嬢だ。この書き方を見るに、おそらくJPDCの攻略記録だけでなく、自身で小野寺太郎丸と会ったり、他の部隊の仲間に接触させたりしたのではないだろうか。情報源はうやむやに書かれているが、この場で大事なのは過程よりも結論だ。
「なかなかちぐはぐな部分もあるが、大方どんな人間かは分かった。ダンジョン攻略を最優先に物事を考える理論タイプだ。ただその成長環境故か、コミュニケーションに関して難ありと言ったところだな。同様に金や生活必需品など、満足に準備できていない一面もある」
「私から見れば、精神面もおそらく戦闘面もまだまだ大半が子供のままでしょう。今はまだ、そのダンジョンへの知識と何らかの秘密によってダンジョン攻略が進んでいるが、何がきっかけで転落するか分からない、と言ったところです」
お嬢に続き、我才も調査結果を総括する。その口ぶりからかなりの自信を持っているようだ。実際、その言葉に間違いはないのだろう。それほどまでに大峰組の調査は正確無比なのだ。
「とはいえ、あまり悠長にしている暇はない。正直、改ざんが保つのももう長くないだろう」
「ああ、そういえばしていましたね、そんなニュース」
実際問題として小野寺太郎丸自体が優秀な攻略者であることに疑いはない。そのため、お嬢が行っている改ざんがバレてしまえば、最低でもJPDCがその存在に気づいてしまうだろう。もし、JPDC専属攻略者などになってしまえば手出しはほとんど不可能となってしまう。
それを避けるためにも早めの行動に移したいのだろう。
「ですがすぐにというわけにもいきません。最近中四国の牛耳る例の組からのちょっかいが増えてきています。小競り合いで済めばまだよいほうかもしれませんが……」
「ああ、あいつらか。さすがに事を構えるとなると、この計画以外にもほかの事業に影響が出るからな。ここは引き延ばしをしつつ、7月中には小野寺太郎丸を確保できるように調整するか」
気づけば議題は小野寺太郎丸から計画の進め方へと移っていった。さすがにその領域に俺は口を出せないので静かに見守りつつ、モニターに映る小野寺太郎丸の情報から何か良い作戦がないかを考えておこう。
まず、お嬢と我才の話では可能ならばもっと早く小野寺太郎丸の確保に動きたいが、それが難しそうと話している。であれば俺が考えるべきことは、元々人間的に孤立気味な小野寺太郎丸が他に助けを求めにくくするようなアクションを伴うものよさそうだ。
「お嬢、我才さん。一つ、手があります」
「ほう?どんな作戦だ?」
我才との話がひと段落下お嬢に俺は話を持ち掛ける。
「小野寺太郎丸の行動次第にはなりますが、もし次、下関ダンジョンを攻略するのであれば、最低でもスマホの奪取と連絡手段の遮断。上手くいけばダンジョン攻略自体も遅らせられるかと」
「むっ、それは良いな。ダンジョン攻略自体を止めることができればダンジョンで死んでしまうこともない」
お嬢が俺の作戦に興味を示した。
我才は本当にそんな作戦があるのかと疑っているようだが、頭の中で作戦の詳細を整えながら話す。
「下関ダンジョンのダンジョンボスは『ボンボーンズ』の対多型。ドロップ品も攻略者としてはすぐ瑠璃に出すようなもの出る。そしてそのドロップ品の買い取り額はおそらく数万円になるでしょう。小野寺太郎丸の性格からお金に余裕があれば攻略先で食事をするのは間違いないでしょう。その食事場所をうちの組で襲撃し、どさくさにまぎれでスマホを奪い取るという作戦です」
「ふむ」
「もしその場でほかの攻略者がやられる姿も見せられたら、小野寺太郎丸もダンジョン攻略への足が伸びにくくなるのでは、という考えもあります」
お嬢がまとめた情報をもとに、俺なりの最善策のたたき台を作り上げる。組の最も得意なことは荒事と情報の遮断である。それを最大限生かせば、俺が今はなした作戦もほぼ実現可能だろう。
「なるほどな。分かった。あいつらとの緩衝地帯での作戦となるが、まあ具体的な方法については私が引き継ぐ。乙野は我才とともにその作戦のメインを張れ」
「承知しました」
「え、あ、はい」
ただ、まだまだ粗の多い作戦だとも実感していた手前、あっさりと決まったことに拍子抜けしてしまう。それでもこれからさらに忙しくなるのは間違いないだろう。
ここからお嬢によって作戦がさらに練り上げられ、それに沿って俺も我才も動くことになる。とりあえずは作戦決行日に上山田ダンジョンの受付の仕事を休めるよう、準備だけはしておこうと思うのだった。
大峰夕夏
「この料亭を使うか。であれば攻略者専用のコース料理でも用意して、若干価格も低めに、と。ああ、検索で上位に来るようにあれをこうして……。これで間違いなく釣れるな。ただ他の攻略者は必要ないな。多分その程度じゃ小野寺太郎丸のダンジョン攻略は止められないし。で、ここはこうしてと。よし、あとはあいつらの演技次第だな」




