66 波紋の終わりと次の波紋
俺は今、恐怖と悲哀に満ちた表情をしているだろう。
下関ダンジョンからの帰りの新幹線の中、そこに下関ダンジョン攻略達成の余韻はなかった。
嵐のごとく現れた極道の皆々様。
食事後の俺を襲ったその暴風は、住む世界の違いをまざまざと感じさせつつも、一筋に光る尊き魔道具の可能性を見せてくれた。
ただし、その代償として元バイト先の先輩から譲り受けたお古のスマホと俺の自尊心を破壊していった。スマホが無くなれば日々の情報収集も弟との連絡も絶えてしまい、自尊心が無くなればメンタルへの影響とダンジョン攻略への不安が湧いてきてしまう。
更には当然のごとく口封じらしき言動もされる始末。おそらくだが、今回の出来事を誰かに話したが最後、どこからともなくあの方々がやってくるだろう。
そうなれば生きながらえるかもどうか定かではないだろう。
それに最悪、俺がどうなろうと俺が覚悟を決めればいい話だが、事が転じて弟まで厄介ごとに巻き込んでしまうかもしれない。
流石にそうなるのは俺の矜持が許さない。
「スマホとか諸々の件、結局泣き寝入りしか、ないよなあ。にしてもとんでもないタイミングだよなあ。はああ、不幸だああ」
とはいえ、起きてしまったことをひっくり返すすべなど俺は持ち合わせていない。
ダンジョンの中でいくら強くてもダンジョン外ではちょっと強いだけの一般人だ。
見るからにガタイが良く、『奇跡保管装飾品』によってさらに強化もされる極道の方に勝てる通りはない。
帰りの新幹線の間、せめてもの救いであるダンジョンバッグやお金を失わずに済んだことをありがたく思いながら、俺は疲れた心を休ませるのだった。
「『奇跡保管装飾品』、俺も欲しいなあ」
そんなうつつを抜かしながら。
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その後の平日の1週間、極道乱入事件を何度か夢に見ながらも、若干寝不足気味な体に鞭を打って学校へと通う。
そろそろ期末テストが近づいてきており、授業中の先生の口からは「この辺りはテストに出るぞー」なんてよく聞くようになってきた。
だが、常にダンジョンのことしか考えていない俺には関係のない話であり、次に挑むダンジョンの目利きに乗り出していた。
「んー、ダンジョンレベル15かあ。あそこは魔物のドロップ品もあまり高くないし遠いしなー」
授業中もダンジョン知識を引っ張り出し、今の自分に最も適していそうなダンジョンを見繕う。
そんな事をしているから友達もできないと言う事実に目を瞑りながら、候補を1つずつ絞っていく。
そんなこんなで週末の出来事が徐々に風化され、いつもの1日、いつもの日常に戻っていった。
昼休みには図書館の隅からダンジョンコースをのぞき見たり、改心組の3人を久しぶりに高校で見かけてたり、比較的平和な日々が過ぎる。
そして5月は19日になり、極道の抗争に巻き込まれたことも忘れかけた金曜日の夜のこと。
学校帰りに自宅の玄関前にて、タイミングよく俺宛に1通の宅配物が届いた。
「はい、サインありがとうございます。それでは!」
「ありがとうございます。……珍しいな。あっちから郵便なんて」
配達員から手渡された黄色を基調としたテープの貼られている1つの郵便物。丁度大きめの水筒がすっぽりと入りそうな大きさだ。
配達員が去っていくのを尻目に何かが入ってるとわかるような重量感のそれをつぶさに観察する。
よくわからない建物の切手が貼られており、宛名宛先ともにアルファベットで書かれている。黄色い包装はとある海外企業のロゴ入りだ。間違いなく海外からの郵便物である。
配達員から確認された通り、差出人はKotaro Onoderaとなっており、弟がわざわざ俺へ送ってくれたらしい。もしかすると弟名義なだけで親からの可能性も無きにしもあらずといったところだろうか。
ただ、スマホがない今、事前連絡もなしのサプライズ感のあるその箱を、とりあえず持ち運んで家へと入る。
「いったい何だろう?ドイツ土産とかだったりするのかな?」
リビングのテーブルに置いて包装を丁寧にはがし、小さなその箱を開封する。するとそこには一通の手紙と古めの機種のスマホ、そしてすでに宛先や住所がアルファベットで記載されている封筒が同封されていた。
「まずは手紙だよな。えー、なになに?
『最近連絡が届いてないようなのでこういった形で連絡しちゃいました。もしかしてスマホがついに壊れちゃった?だとしたら不便なので一緒に入れているスマホを使ってね。あと、お礼はダンジョンで手に入る何かでよろしく。
追伸
多分来週か再来週に、また親の気まぐれで日本に戻るっぽいので、準備しといたほうがいいかも
太郎丸』
だって?めっちゃありがたいけど、なんと言うか、まあそうなるよな」
手紙読んで弟からの贈り物だったと確定する。
手紙もさることながら、いつもメッセージのやり取りをしているからこそ気づいただろう弟のプレゼントに確信を持つ。
少なくとも親はそんな事をしてくれるような間柄ではないし。
とりあえずスマホを起動すると、難なくいつも使っていたスマホと同じように動く。どうやらシリーズも同じらしく、入っているアプリくらいしか違いはない。
セットアップの手間もなく、自宅のWi-Fiに繋げておく。
「大きな貸しが出来ちゃったな。まあいつか攻略者として大成した暁には、恩を返していこう」
いつも使っているsnsで弟を検索し、そこにメッセージを送っておく。おそらく弟は時差もあり、現在炎天下の中サッカーをしているだろうが、それでもお礼の一言は残しておく。
ついでに明日のダンジョン攻略で魔石を一つ食べずに残しておこうかなと心に刻む。ダンジョン攻略後にそのまま魔石を弟に贈れるように。
「これでよし。あとは明日のダンジョン攻略の準備だな。スマホもタイミングよく揃ったし、これでまた潜れそうだ」
テレビでダンジョンニュースを流し、博多ダンジョン攻略の最前線が27階層を超えたという吉報を聴きながら、俺は寝る準備を整えるのだった。
本当の悲劇はまだ始まってすらないことに気づけないまま。




