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63 【我才視点】 大峰組の氷山の一角

俺の名は我才万真(がさいばんま)


俺は世間一般で言う、極道という立場の人間だ。

一昔前までの主な仕事はヒトやモノの売買が中心だった。もちろん今でもそうやって地域周辺を取り仕切る輩もいるが、最近は色々変わってきている。


その要因は、5年前当時世世界中に出現したダンジョンにある。

俺の仕事の舞台も廃墟や港の倉庫から、人気の無いダンジョンや管理団体に知られていない山の中のダンジョンなどに移り変わってきた。

それに伴い、裏稼業の人間は自然と魔物と戦うことも増え、対人能力だけじゃなく対魔物の戦い方も学ばなきゃなんねえがな。

とにかく極道のあるべく姿は世間と同様、ダンジョンの出現によって大きく変わっていったのだ。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は我才って言うんだ。短い付き合いだろうがな」


「んー!んー!!」


そんな世界に身を置いている俺は今、福岡のとあるレベル5のダンジョンにある男と来ていた。いや、正確にはロープで縛り上げて身柄を押さえた上で無理やり連れてきた、が正しいか。

右手でその男の首根っこをつかんでいたが、ここまで潜れは十分だろうと判断し、乱暴に男を地面へと放り投げる。


「それでお前、なんでここに連れて来られたか分かるか?」


地面に這いつくばって体を痛そうに捩らせている男の口に貼っている粘着テープを一気に剥がす。ビリビリと粘着質な音とともに呻き声を出しながらも、その男は涙ながらに訴えかける。


「すみません!すみません!許してください、お願いします!」


「謝れなんざ言ってねぇ。質問に答えろ」


「……借金、です」


この男はダンジョン攻略者の債権者だ。そこそこ高いレベルのダンジョンまで攻略していたが、調子に乗って金を散財。その結果、武器や防具の修理に金が回らなくなり、俺達『大峰組』に金を借りるようになっていた。

しかし半年前から借りるだけ借りて全く音沙汰が無くなり、組の調査部隊が調べた上でこのように取り立てをしているわけだ。

端から逃げきれるわけがないのに、つい最近まで九州を転々として何とか逃げようとしていたらしい。全く持ってふてえ野郎だ。


「そうだ。じゃあ次だ、いつ返す?」


俺はその男の髪を掴み上げ、俺の自慢の強面をこれでもかと近づける。涙と鼻水とよだれで汚い顔面の男は、その短い人生で最も恐怖に満ちた表情をしていただろう。


「ど、どうか勘弁を!無理です!もう、もういくらになってるかも分からないし……」


嗚咽を漏らしながらも、その男は懇願を繰り返す。

一般人からすれば同情の気持ちが一つでも湧いてくるだろうが、生憎そんな気持ちはずいぶん昔に捨て去った。

俺は拳を構えつつ、最後の忠告を伝える。


「いつ返す、と聞いた」


「もう俺に金なんてないんです!明日の飯にも困っているんですから、どうか、どうか、お情け、を……?」


「そうか」


ゴキリという不快な音とドサリと何か重いものが地面へと倒れこむような音が鳴る。その正体は、先ほどまで涙ながらの訴えをしてきた男が事切れる音だった。

首があらぬ方向に向いている以外はきれいな姿のそれは、僅かに痙攣を起こしているようだ。


「おい、俺が担当していた奴は、返済の目処なしだった。もうバラ終えたからすぐ持ち出す」


そんなすでに物言わぬ肉塊をよそに、俺は手短かに外へ連絡を送る。そしてただのタンパク質の塊となったそれをマジックバッグへ詰め、俺はそのまま『脱出のスクロース』を使ってダンジョンを脱出した。


脱出先には先ほど一方通行の連絡を送った相手が待っていた。

気の良さそうな青年のようにも見えるが、その正体は俺と同じで『大峰組』の構成員だ。さすがに階級は違うが、大峰組の一員として大峰組のために動いていることには違いない。

JPDC指定のダンジョン施設職員の制服を身にまとい、不敵な笑顔を浮かべるその青年はこちらへ手を伸ばしてくる。


「さすがですね、我才さん」


「ほら、荷物だ。一応そいつの身元はお嬢が洗っているが、もし誰かがそいつを訪ねたりすると面倒だ。しっかりと()()()()()の準備を進めておけよ」


「承知です。それではお疲れさまでした、我才さん。私はJPDC職員の『乙野聡(おとのさとる)』として、これから帰宅するので、我才さんはゆっくりご帰宅してください」


そう言って青年はマジックバッグを肩に担いで足早に去っていく。これから部下と合流し、『渡邉麗也』となる人間の最終調整に入るのだろう。その後、本物だった渡邉麗也は物理的にこの世から去る手筈だ。


「ふう、いつまでこんなことをすればいいんだか」


俺の呟きは誰にも届かず、ダンジョン管理施設に虚しくこだまするのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それから幾度か似たような仕事をこなす日々が続く。その数が2桁を超えてからは正確に回数を把握できなくなっていると、宿舎に一本の伝言が届く。


「何?お嬢の元に集まれだと?」


「はい、なんでもようやく見つかったらしく、お嬢に指名された方にはこれからの計画を伝えるとのことです」


「アレか。成功目算が馬鹿みてえに低いくせに何故かお嬢が固執してるやつか」


部屋の真ん中で俺は顎を摩り、部下との会話を咀嚼する。

取り合えず部下を座布団に座らせ、これからの動きを思案する。

部下曰く、どうやらお嬢が以前から準備していた計画が動き出そうとしているらしい。詳しい話はお嬢にしか分からないが、前に薄っすらとだけ聞いた概要から、かなり突拍子もないような計画だったことを記憶している。


「大峰組の一人娘のお嬢が一体なんで我才さんを呼び出すんでしょうか。お嬢はどちらかというと頭脳担当と言われているのに」


「だからだろう。計画を組み立てる奴と遂行する奴は得意領域が違って当然だ。それに計画がデカくなればなるほど、それを支える荒事の重要性は増す」


「ご存じなんですか?」


「少しだけな。俺は今から向かう。お前は来週のターゲットの情報でもまとめておけ」


「はい、承知しました!」


ハンガーにかけているスーツを無造作に羽織り、お嬢の元へと向かう。

お嬢は宿舎の一番上のフロアを丸々使っている。エレベーターに乗り、目的の部屋へと向かう。


「あれ?我才さんじゃないですか?もしかしてあなたもお嬢に?」


するとその途中で、いつぞやのマジックバッグを受け渡していた青年と出会う。


「そうだが、お前は……」


「ああ、私のことは乙野聡と呼んでください。何やら成り代わりも次のフェーズに移るそうなので」


丁寧なお辞儀をする青年である乙野。いつもはマジックバッグの受け渡しでしか会っていなかったが、じっくり動作を観察するとかなりの手練れであることが分かる。

ただ重心の高さから、対魔物よりも対人に特化した部類の強さを持っているのだろうが。


「分かった。乙野、お前はお嬢の部屋は知ってるか?」


「いえ、それが初めてでして……。ここまで来たのはいいんですが、どうしようかと思っていたところで」


「なら俺について来い。今回の計画はずいぶんと話がデカいらしい。そんな話に遅刻なんざ、お嬢が一番嫌う」


「いやあ、助かります。では案内お願いします」


そこからはお嬢のいる部屋へ向かっていく。道中の至るところに配線が伸びており、お嬢らしさが垣間見えるが、物珍しさに乙野も興味深そうにそれを観察している。


「お嬢はIT屋だ。俺には難しくて何も分からんが、ありとあらゆる情報を操るらしい」


「噂通りですね。イマドキって感じがプンプンします」


話相手にちょうどいいので乙野と雑談をしながら移動すると、ようやく1つの扉の前に到着する。

その扉の左右の小窓には集約するように何本もの線が伸びている。

組長曰く、投資やら事業やらにも手を伸ばしているらしく、お嬢1人でこの要塞を作り上げたのだとか。

にわかには信じがたいが、現に実物が目の前にあるので信じざる得ない。


「ここだ」


「随分な様相ですね」


「まあな。かれこれ数年はこの有様だ」


その普通ではない部屋周りに乙野が驚きながらも俺は静かに3度扉を叩き、入室の許可を待つ。


「我才、乙野。入れ」


一体どこから見ているのか、扉の前胃にいる俺と乙野の存在を迷わず言い当ててくるお嬢。

そのツンと耳を劈く高い女性の声が俺と乙野の耳に届く。

俺は一息間を置き、失礼しますと声をかけて扉を開けた。

軽く10台を超えるモニターと床に適当に置かれたいくつものPCに埋め尽くされた部屋が目に入る。

その中心に自身の背丈よりも大きいソファに身をゆだねた1人の女性がこちらを向いていた。


「さあ、作戦を伝えるぞ。おそらく最終目標達成のための最初の一歩となる、『小野寺太郎丸捕獲大作戦』だ」


シルクのような白い肌がモニターに照らされ、深紅に染めたロングヘア―が無造作に地面へと広がっているが、本人は少しも気にする様子はない。それどころか、分厚い眼鏡を光らせ、素っ頓狂な作戦名を自信満々に告げ、舌なめずりをするその女性——お嬢はすでに並々ならぬオーラを放っているのだった。

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