60 下関ダンジョン その2
「——」
「やるじゃねえか!『かうんたーばらんす』!」
マチェットマン相手に何度目かの防御スキルを発動する。人型の魔物故、攻撃の軌道に突拍子のものは少なく、『かうんたーばらんす』のシビアな発動タイミングを見極めるのも難しくない。しかし、俺より小柄なのに放つ攻撃が見た目とは裏腹に重い。まるで攻略者と同じようにステータスで能力が底上げされているように感じる。
「っぶな!」
マチェットマンの斧のような鋭い手先が俺を袈裟に斬り裂こうと振るわれるも、なんとか身体を引いてギリギリで回避する。数センチ動きが小さかったら、コンマ数秒回避の動きが遅れたら、それは致命傷になりえただろう。そう思うと冷や汗と、純粋な闘気が湧いてくる。
「『ふれいるすいんぐ』!」
「——!」
攻撃終わりで体制の整っていないマチェットマンの横っ腹にアイアンバンブージャベリオンを叩きつける。しかしそれでもクリーンヒットには僅かに足らず、マチェットマンに片腕を滑り込まされ、寸でのところで受けられる。結局今回の攻防でも決着はつかなかった。
俺的にはかなり良い動きができたはずだが、それでも会心の一撃を入れることすら出きず、長期戦になるのを覚悟する。
「まだ届かないか……!しばらくは、ん?」
「グギャアアア!!」
その時、先ほども聞いた鳴き声が聞こえてくる。攻防終わりにマチェットマンから距離を取るのと同時にちらりと後方に目をやると、そこには1体のゴブリン剣闘士が大きなハンマーを振りかぶりながらこちらに向かってくる姿が見えた。
「ここで乱入かよ。本当一筋縄じゃ行かねえな」
はたから見れば挟み撃ちの形だ。マチェットマンとゴブリン剣闘士が連携を取ってくることはないと思うが、偶然攻撃が合えば対処できないかもしれない。一瞬の逡巡の後、俺はゴブリン剣闘士へ向かって走り出す。
どうせなら試したいこともあるし、マジックバッグから『クレッセントダブルダガー』を取り出しながらゴブリン剣闘士と先に相まみえることにする。
「ギャアァァ!」
「振らせるか!」
相手の攻撃を馬鹿真面目に待つつもりはない。大きく振りかぶっていたのが仇になり、射線も切れていない、ハンマーを握るゴブリン剣闘士の拳を狙い撃つ。飛んでいくクレッセントダブルダガーは見事ゴブリン剣闘士の手の腱を斬り裂き、ハンマーを落とさせることに成功する。
「2本目はいらなかった、な!」
念のため2本目も投擲の準備はしていたが、その必要はなさそうだ。どうせ余ったのならと、俺を追ってきているであろうマチェットマンに向け、目測もせず手首のスナップだけで放る。
「んで、お前はちょっと落ちとけ!『ふれいるすいんぐ』!!」
「グオオオオオ!!」
己の斬り裂かれた手を押さえていたゴブリン剣闘士の太い足に向け、攻撃スキルを放つ。戦闘中に戦闘以外に意識を向けていたらダメだろと思いつつ、足を粉砕させる一撃を叩き込み、そのまま叫び声を浴びながらもゴブリン剣闘士を地面へと伏せさせる。
「これ、借りるぞ」
俺が試したあかったことはコレ、敵の武器を一時的に分捕る戦法だ。あまり行儀はよくないが、敵の戦力を削ぎながらこちらの戦力をあげることができる策。同レベル帯の敵であれば実践するのはなかなか難しいが、ゴブリン剣闘士相手なら今の俺でも十分可能である。当然元の持ち主が倒されていない間だけ可能な戦法ではあるが、こうして脚を削っておけばしばらくは問題ない。
「あとはタイミングを合わせて――『すらむだうん』!!」
ゴブリン剣闘士の落としたハンマー『ヘビィスマッシャー』のを即座に拾い、そのまま攻撃スキルを発動させる。やはり元から打撃武器なので、俺のスキルと非常に相性がいい。樽のような形状の先端は複数の輪状の金具が巻き付けられており、重量感は前まで使っていた大金槌の倍以上はある。
「——!!」
その攻撃は背後に迫っていたマチェットマンに不意を突くように突き刺さる。振る帰りざまにほかの魔物の武器で攻撃してくるとは思わなかっただろう。マチェットマンは俺の最初の一撃を防いだ時と同じように腕をクロスして頭上で受け止める。だが、少なくともそれは無傷で受けきれるようなものではなかっただろう。顔はないが焦った表情をしているに違いない。
「オッケーオッケー!当たってるぅ!もういっちょ『すらむだうん』!」
受け止められた状態からさらにもう一度同じ攻撃スキルを放つ。停止状態からさらなる重さがマチェットマンを襲っているだろう。たまらず片膝を地面につけたのがいい証拠だ。ここで一気に決めきるため、次々と連撃を叩きこむ。
「おらおらあ!足が言うこと聞かねえんじゃねえのか!?」
「——!——!」
大振りながらも一発一発がトドメになりうる攻撃を繰り出し続ける。対してマチェットマンは安定した受けが全くできておらず、反撃しようと腕を突き出すも大きく弾かれてしまう。
「っ!ここだ!『ふれいるすいんぐ』!!」
まともに攻撃を受け、ぐらりと大きく体勢を崩したマチェットマン。その隙を見逃さず、俺は攻撃スキルを放ったのだった。最後の一撃を食らい、ついに光の粒子となったマチェットマンの後には魔石が一つドロップしていた。
「ああ、強かった。やっぱり打撃武器使いやすいな。名残惜しいけど、持ち主にお返ししないとな」
後ろを振り返ると未だ立つことも動くこともできないゴブリン剣闘士が地面に伏していた。
さて、どう返そうかなと考えていると、今度は遠くからガラガラという何か硬いものがぶつかり合うような音が近づいてくることに気づく。
「まじか、何戦目だ?まだ入り口だぞ?」
どうやらヘビィスマッシャーを返却するのはもう少し後になりそうだ。
間もなく奥の通路からぞろぞろと50センチメートルほどの身長をした骨の魔物がぱっと見で20体ほど現れる。
「『ボンボーンズ』だよな、あんなガラガラ音出してたらそりゃ分かるよ。でも数がちょっと多いな」
『ボンボーンズ』は1体1体はそこまで強くない。改心組パーティの織田でさえ時間をかければ、危なげなく勝つことができるだろう。しかし数は脅威である。
ぞろぞろと現れ、複数人の攻略者パーティを上回る数の暴力で倒すのだ。
「まあ俺には関係ないけどな。対多は常に動く!一番最初に俺に追いつけた奴から倒してやるよ!」
立て続けの戦闘に体が疲れ始めているのを感じていたが、それでも自分自身を鼓舞し、ボンボーンズからつかず離れずの速度で逃げながら1体ずつ叩き潰していく。気づけば手からヘビィスマッシャーが光の粒子になって消えていき、最後は素手ごろでボンボーンズを相手にすることになりながら。
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10時間後、俺は下関ダンジョンの折り返し地点である9階層のセーフゾーンまで来ていた。最初の4連戦を掻い潜り、それからは連戦することはなく、時々現れる魔物を倒してどうにか今日の攻略を終えられそうなところまで到達できた。
保存食を食べながら今日1日の攻略を振り返りながら横になる。喉が渇けば湧き水を飲みつつ、武器の手入れも忘れずにしておく。
「今日はもう終わり?魔石は摂らないんだ」
疲れて眠気もある俺はステアの問いかけに何も考えずに答えていく。
「終わり終わり。さすがにぶっ通しで10時間は疲れた。魔石も明日まとめて食べるよ。明日の俺は今日の俺より強いからな」
「そう、それじゃ、お休み」
「おー」
そうして会話はすぐに終わる。疲れ切った体から生まれる眠気は強力でどこか心地よく、硬いダンジョンの地面をものともせず俺を夢の世界へ連れていくのだった。




