表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

5 百道浜ダンジョン その3

 試験官の後に続き、百道浜ダンジョンの2階層に着いた。階段を登りきると目の前は1階層と同じ岩肌の洞窟が続いている。ふと後ろを振り向くとそこにあったはずの登り階段が消失し、行き止まりの区画へと変貌していた。しゃがんで触ってみると、階段の痕跡一つ残っていないのがわかる。一度進むと退くことができなくなる。知識にはあったが、実際にその場面を見ると一層気を引き締めなければという気持ちになる。

 先についていた二階堂たちは、後から階段を上ってきた2人の試験官と俺をちらりと見るとすぐに歩き出してしまった。俺もそれに遅れないよう慌てて動き出す。すると二階堂たちの方から声が上がる。


「二階堂さん、右の方から来ますよ!」


「おらあああ!」


 2階層早々魔物が襲ってきたらしい。二階堂はさらりとそれを迎え撃ち、あっさりと一刀両断する。今回はドリルモグラらしく、真っ二つとなったその体が徐々に光となって消える。


「魔石ですよ!ラッキーですね」


「次はお前らが倒せよ。あいつらの指示だから仕方ねえけどよ」


「えっ、わ、分かりました!」


 魔石を拾いちらりと俺を見た二階堂は魔石を俺に向けって無造作に投げる。そのまま剣を腰に戻し、次からはドロップアイテムはお前が拾えよとぶっきらぼうに言ってくる。投げられた魔石をキャッチしすると俺が了承の返事をする暇もなく、取り巻きを先行させて進んでいった。


 触らぬ神に祟りなしと手にある魔石を眺めつつ、俺も二階堂鯛の後を追っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「やあああ!」


「はあああ!」


 2階層の攻略も1時間ほど経ち、魔物の出が悪かったものの、二階堂の取り巻き達全員が魔物の討伐を果たした。二匹のマッチラットが二階堂の取り巻き達の攻撃を食らい、火を出すこともなくやられる。そして両方が消えたのち、片方だけ魔石が出てくる。取り巻き達が嬉しそうにしつつも、二階堂は俺が魔石を拾うよう顎で命令してくるので、そそくさとその魔石を拾う。


「あとはお前だけだ、がり勉野郎」


 ダンジョンに入っていった時の勢いはないものの、自然と感じる覇気は大きくなりつつある二階堂。おそらくダンジョンに入ったよりも強くなっている。ダンジョンにいるだけでもステータスは伸びるが、戦闘を誰よりも熟しているのも要因の一つだろう。再び二階堂がパーティの先頭に立ち、全員を引っ張る形で探索が再開される。


 初めの頃のピクニックのような雰囲気はどこへやら、若干重苦しい雰囲気に包まれながらダンジョンを進む。まあ、ダンジョンに潜るべき姿勢は一般的にはこんな感じだよなと俺は思いつつ、歩みを進める。


 その時だった。


「あぶない!」


「あ?」


 二階堂の頭上、通路の天井に張り付いていた一匹のスライムが落ちてくる。透明な体が二階堂の頭に張り付こうとしたその瞬間、俺は大金槌を降り抜いた。パシャンと小気味いい弾け音と共に、スライムはそのまま消滅した。


 ついでに魔石がドロップし、見事二階堂の頭に落ちていく。こつんと小気味いい音を出してそれが二階堂の頭に落ちると、取り巻き達の顔がみるみる青ざめていく。俺も青ざめる。


 俺も大金槌を振りぬいた後の姿勢で固まり、汗をだらだら流し始めるが、二階堂は何もしてこない。ずっと怖張っていると、二階堂は足元の魔石を拾いこちらに投げてくる。そして一言だけボソッとつぶやいた。


「これで俺様以外全員魔物倒したな。もう一匹たりともやらねえからな」


「も、もちろんです!」


「あとは全部お任せします!」


 いつも以上にドスの効いた声に取り巻き達は慌手ふためきながら機嫌取りに走る。俺もできるだけ刺激を与えないよう何度も頷く。二階堂はそれで一旦は良いのか、そのまま進んでいく。一触即発を感じていた面々は何とか何事もなく進めることに安堵しつつ、二階堂について行ったのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 2階層の探索も順調に進み、3階層につながる階段手前まで着いた。


 湧水の側は二階堂と少し疲れが見える取り巻きが占拠しており、それを横目に少し離れた位置で俺は自分の武器の手入れをする。

 一度だけとはいえ魔物を討伐したという実感。その時の衝撃と感覚に浸りつつも、これからもダンジョン攻略を進めていけそうな手ごたえを感じていた。


「きついな。腰がちょっといてえな」


「はあはあ、それな。……あ、二階堂さん、武器が汚れていますよ。俺たちが掃除します」


「……いやいい。これは俺様が自分でやる」


 弱音を吐く取り巻きの横で意外なことに二階堂が自分で武器の手入れしている。その時の表情はやけに哀愁が漂っていたようだが、その思考は安藤さんと内藤さんの声によって遮断される。


「残る階層は実質あと1階層です。次の3階層を踏破したら、その次の4階層でいきなりボス戦が始まります。そのため現時点での皆さんの評価とアドバイスを個人ごとに行いたいと思います」


 安藤さんと内藤さんはいつの間にかバインダーを手に持っており、それに何か記入しながらそういった。おそらく評価シートのような物だろう。試験に落とされることはないとダンジョン攻略開始前に伝えられているので、本当に評価とアドバイスをしてもらうだけなのだろう。


「それじゃあ初めは、小野寺さんから始めます。こちらにどうぞ」


 1番初めに呼ばれた俺の心臓が跳ねるが、表情には出さず、試験官の元へ行く。


「おい、俺様たちは休憩中なんだ。見えねえとこでやれ」


 二階堂は剣を拭きながら、こちらを見ずそう言い放った。試験官も二階堂の横暴さに慣れてきたのか、苦笑いしながら少し離れた場所まで移動する。俺は若干の疲れから二階堂のことを気にせず試験官についていく。


「では、小野寺さんのダンジョン内での行動について評価させてもらいます」


 二階堂からは見えず、声も届かなそうな場所まで来た試験官はさっそくとばかりに、手元の評価シートをぺらぺらとめくる。


「まず、全体的な評価として、問題なくダンジョン攻略者になれると判断しました。理由はいくつかありますが、最も大きかったのはダンジョン内の移動についてです」


「あ、ありがとうございます」


「ダンジョンに入ってからおよそ2時間以上。休憩をはさんだとはいえ、荷物を抱えて集中しながらの移動は初心者にはかなり大変なものです。二階堂さん達のマジックバッグも持っているようですしね。しかし小野寺さんは他の皆さんと比べても大きな疲労を見せず、スライムの二階堂さんへの不意打ちも見事対処しました。それらを考慮すれば、少なくとも低レベルのダンジョンであれば問題ないと思います」


 とてもうれしいことを言ってくれる安藤さんと内藤さん。実際にダンジョンに入ったことのない人はこういったことで躓いた入りするので、俺もそこは外さないよう努力していた。


「戦闘面も十分通用するレベルです。威力も正確性も申し分なし。これからも追加ステータスは増えていくでしょうし、慢心しなければどんなパーティでも活躍していけると思います」


「今回は二階堂さんと一緒だったからいろいろ不自由な部分もあったでしょうが、これからはその力を思う存分ふるってほしいです」


「ありがとうございます!」


 ここまで言ってくれるのは本当にうれしい。今まで青春をかなぐり捨てて鍛錬に励んだ甲斐があった。俺はダンジョン攻略者として大きな一歩を踏み出すことができたのだ。


「じゃあ次は二階堂さんの番です。手間かけさせて悪いですが、二階堂さんを呼んできてくれませんか。どうやら私たちがいると休憩中の皆さんはゆっくり休めないようですので」


「もちろんです!」


 自嘲気味にそういった安藤さんに俺は元気よく返答する。先輩攻略者から太鼓判を押された俺は上機嫌で、セーフゾーンへと戻っていく。何ならスキップをしたいぐらいだ。しかしそんな姿を二階堂たちに見せたらどうなるか分からないので、平静を装っておく。そして元の場所に戻るとそこでは、


「おう、がり勉。お前の持ってたジャーキーなかなかうまいな」


「うめー。これ噛んだらしっかりうま味出てきますよ」


「うまさが染みるわー」


 俺のカバンを漁り散らかしている二階堂たちがいた。その食料は保存食専門店のビーフジャーキーだぞ、食べやすく美味いことで有名なそれを何勝手に食べてんだ。という言葉をぐっと飲みこむ。


「なんか文句あんのか?ああ?」


「……いえ、ありません」


 二階堂の眼力に先ほどもまでの良い気分は霧散した。すでに食べられた保存食の残骸から目をそらしながら、手っ取り早く用件だけ伝える。


「試験官が次は二階堂さんの番だって言ってました。あの角の先で待っています」


「ああ、俺様の番か。さっさと終わらせるか」


 ずしずしと進んでいく二階堂を見送り、俺は自分の荷物の側に座る。散々荒らされた荷物からスクロースや救急セットが顔をのぞかせている。本当に食べ物だけ抜き取ってあるな。


「なあ、マジックバッグってマジックバッグの中に入れられるん?」


「さあ?でも入れられたらめちゃくちゃ便利だよな」


「じゃあ入れてみねえ?もしできたら大発見じゃね?」


 俺が自分の荷物の整頓をしていると取り巻き達が不穏な話を始めた。気づけば彼らは自分たちと二階堂のマジックバッグを持っている。どうやら俺の荷物から取っていたようだ。本来なら彼らが何をしようとどうでもいいが、俺はつい口を出してしまった。


「やめた方がいいですよ。マジックバッグの中にマジックバッグを入れたら一つのマジックバッグになるだけですから」


 マジックバッグは未解明の原理に基づいて成り立っているらしい。観測結果から判明していることは、ダンジョンと同様な異次元空間へと接続されているということ、ダンジョンと違い中は風船のように伸び縮みするということ、そしてマジックバッグを別のマジックバッグに入れると一つのマジックバッグになってしまうということ。特に最後の特性は別に容量が増える訳でもないらしく、さらに入れられたマジックバッグの中身が消滅するという害悪機能付き。知らずにそんなことをやってしまった人は相当悲しんだだろう。


「ああ?急に何言ってんだ?」


「せっかく人様が楽しくやってるのに水差すんじゃねえよ」


「お、すんなり入っていくぜ。ほら、この中に……。あれ?マジックバッグどこ行った?え?」


「はあ。何言ってんだよ。入れたならマジックバッグの口の側にあるだろ?」


「な、ない!どこにもない!俺の荷物しかねえよ!」


 ほら、言わんこっちゃない。どうやら消えたマジックバッグは二階堂のもののようだ。ちらっと見たとき、マジックバッグに入れられていたのはほつれのあった古いものだったからな。取り巻き達の慌てようからも間違いないだろう。


 正直に俺の言ったことを聞いていればよかったのにと、俺は自分の武器の手入れに戻る。


「な、なあ。これマジでやばいんじゃね」


「どうすんだよ。二階堂さんのが消えちまったなんて、口が裂けても言えねえよ」


「おい、こうなったらがり勉野郎がやったことにしようぜ」


「はあ?」


 なぜか責任の押し付けられそうな事態になり、危うく武器を落としかけてしまう。


「ちょ、待てよ。俺は忠告もしましたよ。それでも馬鹿な事をした挙句、それを俺がやったことにしようっていうんですか」


「へへ、どうせお前は二階堂さんを恨んでいるだろう?」


「お前がやったことにした方が好都合なんだ」


「悪く思うなよ」


 汗をかきながら引き攣った笑みを浮かべる二階堂の取り巻きに対し、何を勝手なことを、と言い返そうとしたその時、ちょうど二階堂が戻ってきた。両目を細め、頭をがりがりと搔いている。明らかに今日一番の不機嫌さを醸し出す二階堂に、俺が硬直していると取り巻き達が我先にとまくし立てる。


「に、二階堂さん!こいつ、二階堂さんのマジックバッグを消滅させてました!」


「ああ!?」


「武器もアイテムも全部なくなってます!」


「二階堂さんが行ってからすぐこいつがやったんです!マジックバッグの中にマジックバッグを入れると消滅するって自慢げに言ってました!」


 何のためらいもなく俺をスケープゴートにした取り巻き達。二階堂はもう鬼どころではない形相でこちらを見てきており、いつ襲い掛かってきてもおかしくない。なんで魔物より魔物らしいんだよ。


「織田、試験官のうぜえ説教、次はお前の番だ。できるだけ引き延ばせ。その間に俺はこいつをぶん殴る。持林と芳井はがり勉野郎を押さえとけ」


「あ」


 最悪だ。俺が放心している隙に持林と芳井は俺の両腕を押さえる。抵抗してはみるものの、力だけはある二人には敵わない。身動きの取れなくなった俺の腹に、二階堂の拳が突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ