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4 百道浜ダンジョン その2

 ダンジョン攻略が開始し、1時間ほどが経った。


 道中はいたって順調そのもので、時折現れる魔物はすべて二階堂が一撃で倒していった。出てきた魔物はドリルモグラやマッチラットなど、ほとんど普通の動物みたいなものばかりだった。ダンジョン内の不壊と言われる地面に潜れないモグラも、マッチのような火を短い時間だけ出せるネズミも、二階堂の前には無力である。問題があるとすれば、その単調さゆえの二階堂の機嫌の風向きが少し良くないほうに向いていることだけだった。

 最初は退屈そうにしていただけの二階堂も、他愛ない魔物や何もドロップしない状況に、少しずつイライラが募っている。もし次の魔物でも何もドロップしなかったら、理不尽に殴られそうな気がする。


「あ、二階堂さん!ネズミの魔物です!」


「ぶった斬る!」


 取り巻きの一人が、通路の奥の方に一匹の魔物を見つけて報告する。それと同時に二階堂が駆け出す。どちらが魔物か分からないなと思いつつ、その行く末を見守っていると、やはりというか、二階堂はあっさりと魔物を倒す。そして俺たちも現場に行くと、魔物が消えた場所に一つの石のようなものが落ちているのを見つけた。


「おっ、やっと出たか、ドロップアイテム」


 魔物が消えた後、そこには直径1センチメートルほどの石が落ちていた。ぱっと見、河原にでも落ちていそうなそれを二階堂は拾い上げる。座学をサボっている二階堂でもそれが何なのかは分かっているようだ。


「ちっせえ魔石だな。しかも素材は石で見た目も悪ぃ。5、6匹やってようやく一つとか、やっぱ低レベルダンジョンはショボいな」


「これでも1番出やすいドロップ品ですけどね」


「まあ、そうだが。ん?何見てんだガリ勉?」


 愚痴を漏らす割には少し楽しそうな二階堂からガンを飛ばされた。魔石の魔性に見とれていたが、慌てて目を背ける。


 魔石とはダンジョンが産む、最高の資源の一つである。なんでも特殊な装置を使うことで電力や熱としてエネルギーを抽出できるらしい。最近の工学や化学の分野ではいかに効率よく大量のエネルギーを抽出するか世界が競い合いながら研究が進められているらしい。クリーンかつ安全、なおかつこれまでの発電方法と比べても費用がそこまで変わらないので、次世代のエネルギー資源として注目されている。ダンジョンの一般人への開放やダンジョン攻略者が認められている理由の一つでもある。

 個人的にはダンジョンから得られる摩訶不思議なアイテムという響きだけで十分魅力的だが、それが社会にも役立つのならば、なおさら興味を持って収集活動に勤しみたい。俺も早く魔物を倒して魔石をゲットしてみたいなあ。


「二階堂さん、水の音が聞こえました。おそらく2階層に続く階段が近くにあります」


 そんな妄想をしていると、安藤さんが二階堂に声をかける。


 洞窟タイプのダンジョン内で水の音が聞こえるということは、安全地帯(セーフゾーン)兼次の階層へ進むための階段があることを示す。俺や二階堂たちも気づかない水の音。それに気づくとはつくづく攻略者とは超人的な力を手に入れているなあと実感する。


「一度階段の側で休憩を取りたいと思います。現状の攻略の進捗を外の方に連絡する決まりにもなってますので」


「あー、まあいいか。でも手短にしろよ?まだ俺様は疲れてすらいないんだからよ」


「はい、なるべく早く終わらせますので」


 低姿勢の安藤さんはセーフゾーンでの休憩を提案してきた。ダンジョンは危険な場所なので、こういった安全な場所で休めるのはありがたい。それにどうやら試験官としての業務もあるみたいなので、タイミングも悪くない。戦ってすらいないから俺はまだ体力が余っているけど、ここはゆっくり休憩を取ろう。


 それからは安藤さんの案内でパーティはスムーズにダンジョンを進む。そしてほんの1,2分ほど経つと、目の前に上り階段が見えてきた。その側には安藤さんが言っていた通り、小さな湧水の水たまりがあった。このセーフゾーンの付近は魔物が寄らず、入らず、現れずの安全地帯となっている。当然湧水も安全である。ダンジョン出現当初からこの湧水は持ち帰られて研究されているが、何の毒もないいたって普通の水らしい。


 日本ではあまりないが、アフリカや南米ではダンジョン内の水源地として生活水に利用されているらしい。綺麗な水質かつ低レベルのダンジョンであれば危険も少ないと、現地の人はとても喜んでいるそうだ。


 閑話休題。


 二階堂と取り巻きは階段が見えると走りだり、水場の近くに腰を下ろした。安藤さんと内藤さんはその様子を確認してから通信機器を取り出し、電波を求めるかのような動きでその場を離れていった。


 俺も少し休憩するかとその場に腰を下ろそうとすると、


「おいがり勉!ちょっとこっち来い!」


 二階堂のやかましい声に中断させられた。これ以上機嫌を損ねたくないので足早に二階堂たちの方へと近づく。するとバッグが4つ投げつけられる。それらを落とさないよう慌ててキャッチする。ダンジョンに入った際、二階堂たちはこのバッグからそれぞれの武器を取り出していたことから、これらは所謂マジックバッグなのだろう。容量が見た目以上にあり、内容物の重さに関係なく一定の重さであり続ける不思議なバッグだ。そんなものを雑にこちらに投げてきたということは、


「……荷物持ちをすればいいですか?」


「ギャハハハ!さすががり勉、よく分かってんじゃん!」


 投げられたマジックバッグの一つを持つと1kgほどはありそうだ。内容物に重さが依存しないとはいえ、合計4kgの重荷を追加で運ばなければならないようだ。すでにまあまあの荷物を持っているので、荷物追加となると結構な重労働だ。ただ、どうせ拒否権もないので、素直に自分の荷物の中に入れ始める。


「おい!もし盗ったりなんかしたら分かってんだろうな?」


「もちろんです。ダンジョン攻略が終わったら返します」


「ああ、それとこの後も俺様が魔物を狩る。もしドロップアイテムが出たら全部拾っておけよ。もちろんそれも盗ろうなんて思うなよ?」


「はい、わかりました」


 荷物持ちどころか雑用全般をやらせるつもりの二階堂に、マジックバッグを入れながら俺は肯定の返事を返す。正直、魔石だったり魔物の素材だったり、直で触れられるのは俺にとってありがたい話ではある。こういったものはやはり自分の手で実際に感じたほうが――あれ?二階堂のマジックバッグ、他よりもなんか少しだけほつれて――


「すみません、ダンジョン1階層攻略完了の報告が終了しましたので、このフロアでの振り返りを行いたいと思います」


 安藤さんの声が届き、急いで二階堂たちのマジックバッグを荷物の中に押し込む。どうやら連絡が済んだようで、これから約1時間ほどで攻略した1階層の振り返りを始めるようだ。


 すぐに次のフロアに行けないことで二階堂の機嫌が少し悪くなっているのを後頭部越しで感じていると、内藤さんがすかさず言葉をつなげてくる。


「手短に済ましますので、どうか皆さんお聞きください。これはダンジョン攻略において最も重要なことです」


 真剣な表情の内藤さんに二階堂たちも少しは話を聞くつもりになったのか、圧が減る。


「では、二点だけ伝えます。まず初めにダンジョン内ではマッピングは基本です。今回はダンジョンに入った段階で私たちがマッピングツールを起動していまし。ですので、最初の地点からここまでの経路を把握できています」


 その説明に、俺はやっぱりかと得心する。二階堂たちはそんなものもあったなと言い合いつつもどこか上の空だ。ダンジョンにおけるマッピングは超重要事項だ。入るたびに構造が変化するとなれば、毎度そのフロアをマッピングし、階段が見つからなければまだ行っていない箇所を見つけ出して探索しなければならない。マッピングをしないということは死ぬ確率を上げることと同義である。もちろんその重要性は俺も知っており、スマホアプリでダンジョン進入前にマッピングを開始していた。もし試験官がマッピングをしない場合に備えておいたのだが、その必要はなかったみたいだ。

 そっとポケットの中のスマホを操作してアプリを終了しておく。


「本日の試験では皆さんにはマッピングを行ってもらう必要はありませんが、今後はそう言ったことも皆さん自身で行ってもらうことになります。そのことだけは覚えておいてください。最近はスマホアプリや持ち運ぶだけでマップが作成される専用ツールもありますので、適宜使用することをお勧めします」


 マッピングは紙とペンさえあればできるが、それは流石に原始的すぎる。IT技術の恩恵を受けられるなら受けた方がいい。もちろん俺もお金がたまり次第、専用ツールを購入する予定だ。


「はっ、この程度のダンジョンならいらねえよ。そういうのは雑魚が使うモンだ」


 そうして自動マッピングツールはいつぐらいには持てるかと皮算用していると、二階堂はいつものように悪態を散らし始める。うん、もう気にしないようにしよう。二階堂とダンジョン攻略なんてこれが最初で最後だろうし。


「そしてもう一つなのですが、研修生は全員最低でも一回は魔物の討伐を行ってもらいます」


 なんて思っていると特大の朗報が飛び込んできた。流れ的に二階堂が全部の戦闘を行うものだと諦めていたので、非常にありがたい話である。


「は?俺様以外にも魔物倒させるのか?」


「申し訳ありません。やはり攻略者となる者、一度はダンジョンの魔物を倒す経験はしておいてほしいのです。どんなに弱い魔物でも人を殺しうるということを理解してもらうため、たとえどれほどたやすく倒せる魔物でも、しっかり対峙して戦う経験をしておいてほしいのです。万が一ときは私たちが手助けできますので」


「……ちぃ、魔物を殺せない腰抜けなら今この場にいないだろうが」


「それでもです。どうかお願いします」


「……分かった。でも一匹までだ。お前ら、ありがたく魔物を受け取れよ、特にがり勉」


 俺は二階堂に声を掛けられはっとする。そのままありがとうございますと表面上だけ感謝する。あまりに朗報すぎたので若干呆けていたのだが、どうやら本当に俺も魔物を倒せるみたいだ。ありがとう神様、仏様、安藤様。


「さっさと行くぞ」


「二階堂さん待ってくださーい!」


「俺たちも行きます!」


 あからさまに不機嫌になった二階堂は剣だけ手に持ち、すぐに階段を上り始めた。取り巻きも急いでそのあとを追う。安藤さんと内藤さんも少し不安そうな表情のまま階段へと向かったので、俺も遅れないようついていった。

【自動マッピングツール】

正式名称:探索階層構造自動記録端末

概要:内蔵された加速度センサーおよび位置検知機構により、端末の移動を把握し、その移動経路を基にダンジョン内部の構造を自動的に地図化する装置である。腰などに取り付ける携帯型から自動でダンジョン攻略者に追従するドローン型まで豊富な種類がある。新品価格は100,000円~となっている。



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