表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/65

57 時事は大事

 持林、芳井、織田に住吉ダンジョンにてダンジョン攻略の指南をしてから数日が経った。世間はゴールデンウィーク真っただ中で、一たび都会に赴けば、どこもかしこも人でごった返している。もちろんちらほらと攻略者もその中に混ざっており、中には外国からの旅行客に写真を撮られているような人もいた。そんな光景を見ていると、着々と世間にダンジョン攻略者というものが浸透していっているなと肌で感じることができる。


 そしてなぜ俺がそんなことを知っているかというと、わざわざ大阪にあるダンジョンまで遠出しているからだ。もともとの予定として、5/4~5/7の4日間、目星をつけていたレベル12と13のダンジョンを攻略するため、せこせこ都会までやってきたのだ。


 苦労してきただけあり、ダンジョンレベル12と13では、初めて生で見る種族の魔物との戦闘や、新しく手に入れた『ふるすとーかー』の検証など、今後もダンジョン攻略を進めるための経験と知識を手に入れることができた。もちろんダンジョンボスも倒し、次からはダンジョンレベル14に挑めるようにしておいた。


 そして現在、そんなこんなでゴールデンウィークも終わり間近の5/7の夕暮れ時のこと。

 遠出先の宿で帰宅の準備をしている中、たまたまつけていたテレビにダンジョン関連のニュースが流れ始めた。


『続いてのニュースです。今年二月以降、全国のダンジョン攻略記録が不正に書き換えられる事案が相次いでいた問題で、本日、警察は会社員の男を電子計算機使用詐欺および不正アクセス禁止法違反などの容疑で逮捕したと発表しました。

 警察によりますと、男は日本ダンジョン委員会が管理する攻略記録システムへ不正にアクセスし、攻略階層や討伐記録、ダンジョン内取得品履歴などを改ざんした疑いが持たれています。

 これまでに確認されている改ざん件数はおよそ1,000件に上り、一部の記録では実際には存在しない攻略実績や討伐実績が登録されていたほか、反対に実在する記録が削除されるなどの被害も確認されています。

 取り調べに対し男は容疑を認めており、『特に目的はなかった』『遊び感覚だった』などと供述しているということです。』


 俺は気づけば食い入るようにニュースを聞いていた。そういえばそんな話もあったなと思うも、俺の記憶ではせいぜい数件程度の被害だったはずだ。多分水面下でほかにもいろいろ改ざんが行われていたのだろう。


 SNSでこのニュース関連の投稿を見てみると、やはりというか、多くの攻略者の人が反応しているようだった。特にクランへの加入のためにこいつを雇ったのでは?という憶測が多く、男の供述に疑念持っている人が多そうだ。


 実際のところ、言うに及ばない事柄ではあるが、クランに加入する際には十中八九攻略者としての実力を示す必要がある。実際に模擬試合をして実力を測ったり、ダンジョン攻略に帯同して間近で腕前を見られるほか、今回話題に上がったように受験者のダンジョン攻略履歴をJPDCに閲覧申請する場合もある。もしその記録が改ざんされていたのであれば、本来の実力であればクランに入れない攻略者が入団できたり、逆に入団を見送られたケースもあるだろう。

 俺は今のところソロ攻略を続けているので問題はないが、いつかダンジョン攻略の壁に阻まれたときはクランに入ることも視野に入れている。その際にダンジョン攻略が改ざんされていて加入条件を満たしていない扱うを受けるのはごめんこうむりたい。


「ひでえことする奴もいたもんだな。下手すりゃ他人の人生壊してる可能性もあんのか。怖いなあ、もう」


『一方、警察は改ざん件数が1,000件に及ぶことから、単独犯かどうかを含め、犯行の動機や経緯について慎重に捜査を進めています。

 この問題を受け、日本ダンジョン委員会およびシステム運営に関わる関連企業は本日記者会見を開き、『利用者ならびに関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます』と謝罪しました。

 また、現在も改ざんされた記録の解析および復旧作業が進められており、正確な攻略データの再構築には相当な時間を要する見込みだということです。

 攻略記録は攻略者の評価や報酬、さらにはクラン運営にも影響する重要な情報であるため、今後の影響が懸念されています。』


 ニュースの続きを聞きつつ、まあそうだよなとペットボトルの水を一口飲む。もしかしたら俺も被害を受けていたりするんだろうかと思いながら。どうせなら詳しくはダンジョンチャンネルで聞こうかなとチャンネルに切り替えてみる。ダンジョン系の話題であればダンジョンチャンネルが一番だ。


『——以上、ダンジョン攻略記録改ざん事件でした。』


「あー、ちょうどこっちも終わったところか」


 気になる内容だっただけに、ダンジョンチャンネルの方でより詳しく聞きたかったが、タイミング悪く、こちらでもトピックが終わったところだ。しゃーないなと頭をかいて水をもう一口口に含む。次は何のトピックだろうかとちらりとテレビを見てみる。


『続いてはダンジョン研究に関する速報です。

 世界的に著名なダンジョン生態学者であるマルク・シュタイン博士らの研究チームが、本日発表した論文の中で、ダンジョン生態系の常識を覆しかねない新たな事実を報告しました。

 それによりますと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということです。』


「ぶっ!!げほっ、がはっ……は?!」


 盛大に水を拭き散らし呆然とする俺。なんだかすごく聞き覚えのある内容に、俺は開いた口がふさがらない。旅行鞄からタオルを取り出し、撒いてしまった水を拭きながらニュースの続きをおとなしく聞く。


『研究チームは多岐にわたる魔物の行動を観察。特定の刺激に反応するよう条件付けを行った魔物を、攻略者ではなく別の魔物によって討伐させた後、再出現した同種個体を調査しました。

 その結果、本来存在しないはずの行動傾向が再び確認され、死亡前に獲得した特性の一部が保存されている可能性が高いと結論付けています。

 シュタイン博士は会見の中で『これは単なる生態学上の発見ではない。ダンジョン攻略そのものに影響を与える事実だ』と述べました。現在、研究内容は複数の研究機関によって検証が進められています。』


「おいおい、まじかよ……。ははっ、こりゃあ傑作だな」


 今になって数日前のステアの言葉が脳裏によぎる。


『希少魔物は賢いから逃げるんだよ』


「あれ、まじだったのか。ってことは、ダンジョン攻略は本当に一筋縄じゃ行かねえな」


 あらかた水を拭き終わり、ダンジョンニュースをさらに食い入るように見入る。


『それではここで、ダンジョンチャンネル解説員の久我さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。』


『よろしくお願いします。』


『今回の研究、かなり驚きな内容になっていますね。』


『ええ。正直に言って、もし再現性が確認されれば攻略者社会に与える影響は極めて大きいですね。』


『それはいったいどういうことでしょうか?』


『簡単に言えば、魔物が学習結果をダンジョン内に蓄積している可能性があるということです。』


『蓄積、ですか。』


『例えばですよ。ある攻略者、またはクランでも良いですが、5年間にわたり同じ戦術を使い続けたとします。従来の考え方では、倒された魔物は誰に倒されたとしてもそこで終わりでした。しかし今回の研究が正しければ、特定条件下で魔物の戦闘などの経験がダンジョン側に保存され、次に出現した魔物へ受け継がれる可能性があります。魔物の中には同種個体同士でコミュニケーションをとれるものもいますしね。』


『つまり、攻略者への対策を覚えると。』


『極端に言えばそうです。もちろん人間のような知能を持つという話ではありません。しかし、回避行動が洗練されたり、特定の攻撃への警戒心が強まったりする可能性はあります。』


『SNSでは『攻略者の強さを学んだ魔物が現れるのではないか』という声もあります。』


『完全に否定はできませんね。特に長期間攻略され続けている高難度ダンジョンでは注意が必要です。例えば盾役を真っ先に狙う魔物。あるいは魔法攻撃を優先的に回避する魔物。さらに言うのであれば、見破りにくい待ち伏せ行動を取る魔物が確認されるかもしれません。」


『かなり恐ろしい話ですね。』


『ただし現時点ではまだ研究段階です。慌てる必要はありません。しかし逆に言えば、『魔物はただ湧いてくるだけの存在』という従来の常識は見直すべき時期に来ているのかもしれません。』


「ためになるなあ。そっか、そんなことまで起こりえるのか」


 改めてステアに凄まじい知識に畏敬の念を持ちつつ、それが事実であることがどれほどダンジョン攻略に影響するのかを実感する。のんびりしていたら誰もダンジョンを攻略できなくなる可能性さえ芽生えたこの状況に身震いする。それは恐れによるものか、それとも武者のような闘志によるものか、今の俺にはわからなかった。


「あ、やべっ!もうこんな時間じゃん!早く福岡に帰らないと!」


 ふと時計を見るとすでに夕方の5時半を過ぎていた。明日からまた学校なので、慌てて荷物の準備を進める。そしてあっという間に準備を終わらせ、急いで俺は宿を出るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ