55 不運か必然か
希少魔物を探し始め3時間半が過ぎた。『いれぎゅらーいぐじすと』の便りをもとに、右へ左へとあちこちフロアを探し回っていた。道中で『ビッグヘッジホッグ』や『コマンドラビット』など、出会えば片っ端から戦い、そして勝利を挙げてきたが、希少魔物はなかなか見つからない。
そんな中、希少魔物にまつわるいろいろなうわさを思い出す。
例えば自身の適正レベルのダンジョンに潜らないと出会う確率が低くなるだとか、他の魔物を取り込んで強くなるとか、挙句には階層を行き来できるなどという眉唾な話も聞いたことがある。
「なあ、ステア。地球上での一般的な希少魔物の情報と、実際の希少魔物の生態やらなんやらには差があったりするのか?」
俺はやんわりとだが、俺自身がこのダンジョンの適正レベルではないことが起因してなかなか出会えないのではないか?という意味を含めてステアに尋ねてみる。どうせステアならそういった知識も持っているだろうし。
「うーん、まぁこのくらいならいいかな」
「え?教えてくれるの?」
すると意外にも何か思案するように考えこみ、なんとなく教えてくれそうな雰囲気を醸し出すステア。ダメでもともと、何かしらダンジョンの情報を得られたらラッキーぐらいな気持ちだったので、少しびっくりしてしまう。
「僕から何かの情報を得るのは控えようっていってた君が困っているようだからね。本当に欲しいかい?」
「ぐう」
なんて驚いていると急に刺してくるこの矢印。なんとかぐうの音は出したが、痛いところを突かれてしまう。確かに俺は以前からそういうスタンスを取ろうとしていたが、面と向かって言われると唸ってしまう。
「とは言っても、この情報はいずれ君たち人間が明らかにするものだから、君のそんなに遠慮する必要はないよ」
「ええ?そりゃあまあそうだとは思うけど。でもそれっていつになるか分からないだろ?」
「若干フライングだけどね。それでどうするの?聞く?」
何か隠してそうな口ぶりをしているステア。その部分を問い詰めたいと思う気持ちがありつつも、藪蛇になってしまうかもしれないという不安と甘いささやきによって俺は懇願する方を選んだ。
「教えてくれ!」
「まいどぉ~」
階層攻略は進めつつ、マッピングの終わっていない区画を進みながらステアの話に耳を傾ける。
「まず魔物ってどんなものかな?」
「魔物はダンジョンに生息する生物だと言われているな。ただ生物というには死んだ後にすぐ光の粒子になるっていう摩訶不思議な性質を持っていて、一概に生き物って括りにはできないって意見もある」
「そうだね。じゃあ魔物ってどこから生まれてくるんだい?」
なんだか講師や指導者と言った話し方になるステアに、俺は己が培った知識を次々開いていく。
「確か4年位前に『魔物は無から生まれる』っていう説が提唱されたっけ。実際に多くの攻略者によってその無から生まれる瞬間をとらえた映像があるし。今じゃあ定説になりつつあるけど」
「無からねぇ。それじゃあ逆に死ぬときはどうだい?」
「死ぬときはたいてい攻略者か、別の魔物にやられたときだよな?だったら光の粒子になる、が答えじゃないか?」
「そうだよね。はたから見れば・それ以上でもそれ以下でもない、そんな存在なんだよ。魔物って」
「??つまり何が言いたいんだ?」
俺の頭が回っていないのか、ステアの言っていることの真意が理解できない。希少魔物と出会えない現状と魔物の出現・消滅の話がどうつながるのだろうか。
「まあまあ、次は希少魔物について。希少魔物の生態は有名だよね」
「それはそうだけども。異質な特性を持ってたり、きわめて出現率が低かったり、あとは倒すとステータスがものすごく上がるとか?」
「それもそうだけど、一番特徴的なのは知性があるってことだよねぇ」
「ああ、忘れてた。確かにそうだな。戦い方もほかの魔物よりもクレバーだし、何よりピンチになると物凄い速さで逃げていくしな」
「じゃあさ、逃げる目的は何だと思う?」
ここにきて難しい問いが出てきた。知性のある魔物が逃げる目的など普通に考えて命が惜しいからだろう。しかしわざわざそんなことを聞いてくるということは普通の理由ではない、またはそれ以外にも別の目的があったりするのだろうか。
ただ、うんうんと考えるもそれ以外の理由を思いつかない。そろそろ降参して教えてもらおうとするとそれよりも前に先にステアが話し始めた。
「答えは『生まれ変わるため』だよ」
「は?」
まるで予期しなかった回答に呆然としてしまう。ここにきて輪廻転生に関わる話が来るとは思わず、危うく眼前に壁に突っ込むところだった。直前で急ブレーキをかけ、なんとが激突だけは避ける。そんな俺を笑っているステアに、笑われていることも無視してさすがにそれは論理を端折りすぎだろうと抗議しようとすると、視界の端に見たことがある木目の美しい魔物が映った。
「ギャ?」
希少魔物『跳ね回る鞘』とのご対面だ。まさかのタイミングだったが、落ち着いてアイアンバンブージャベリオンを構える。
「話はあとだ!先にあいつを倒す!」
「いいタイミングだねぇ、答え合わせの時間としようか」
「ギャギャギャ!」
跳ね回る鞘は俺に狙いを定めると、己の特性を熟知したかのような動きで間合いを詰めてくる。右に注意を寄せておいて、逆の左側に切り返し、俺の反応を遅らせようと巧みに移動する。
しかし、以前よりもステータスが追加された今であれば、その攻撃を受け止めることができる。アイアンバンブージャベリオンの柄で跳ね回る鞘を押し返し、不規則な動きで再び攻めてくる多段撃を躱し、即座に押し返す。
「戦い方上手くなったねぇ」
「ある程度ステータスがあればこいつはそれほど手強くないねえ!」
跳ね回る鞘の強い点は攻撃や動きが事前に予想しにくいことだ。だから後手後手に回ってしまい、大きな隙を見せればそこを突かれておしまいという寸法だ。
なら予想できない動きが来る前提で俺の行動を作っておけばよい。反応が遅れそうになってもそれをステータスでカバーすれば必然的に隙が減る。
「よくもまぁそんな無茶苦茶な方法で戦えるよね。普通集中力が持たないでしょ」
「やるまでやればやれるんだよ!!『ふれいるすいんぐ』!!」
相手の攻撃に耐えて忍び、受け止めて、ついに訪れた絶好のチャンス。跳ね回る鞘が空中で停止する。それではベクトルを操ることもままならないだろう。好機を逃さず、俺は大技を叩き込んだ。
「ギャア!!」
叫び声をあげた跳ね回る鞘ははるか後方へ吹き飛んでいく。
「どうだ、見たか!」
「あー、追った方がいいんじゃないかな。さっき話、覚えてる?」
「あっ!アイツ逃げる気か、クソっ!」
あまりに気持ちよく攻撃スキルを当てて高揚感に浸っていたが、よく考えれば相手が逃げるには絶好のチャンスではないだろうか。かなりの速度で離れていく跳ね回る鞘の意図に気づき、俺は全力で駆けだす。
「逃がすか!」
せっかくのステータスアップの機会を見逃すつもりは毛頭ない。クイッと起用に跳ね曲がり、距離を詰められないよう器用に逃走していく跳ね回る鞘をしっかり追随していく。
ダンジョン内で全力で走っても全く疲れないという『あじゃすとうぉーく』がなければ誰にもまねできない芸当だろう。基本的に希少魔物の逃走に追いつける攻略者は上位攻略者を除いてほとんどいないしな。
何度か見失いかけるも、ダンジョン構造を予想し、跳ね回る鞘の気持ちを考え、何とかその背後の影を追い続ける。そして30分にも及ぶ追跡劇は何とも非情な結末を迎える。
「あ!あいつ、袋小路に逃げ込みやがった!馬鹿め!この俺から逃げられるとでも思っちゃったかい??」
「君、だいぶキマッてきてるでしょ」
「これがキマらずいられるか!!どんだけ逃げ続けるねん!全力疾走半時間とか人としてありえないじゃん!」
激しく叫ぶもステアはうるさいなぁと一蹴し、そう言われたら冷静にならないといけなくない?と落ち着いて跳ね回る鞘を追う。
そしてついにマッピングにも記載されている通り、逃げ道のない行き止まりの区画に跳ね回る鞘を追い詰めた。
「今度こそ、トドメだああ!」
アイアンバンブージャベリオンを両手でシンプルに構え、脇の下から勢いよく突き出す。間違いなく勝った!と思った瞬間、なんと跳ね回る鞘は俺の攻撃が当たる前に光の粒子へと変わっていった。
「え?」
よくよくその場を注意深く見ると、足元に1匹のビッグヘッジホッグがいた。位置的にビッグヘッジホッグの針が跳ね回る鞘に当たり、それによって倒されたのだろう。
「ステータスオープン。ええええええ!!!???」
そしてその予想は大いに当たり、そこには全くと言っていいほど希少魔物討伐によるステータスアップは発生していなかった。あまりにひどい仕打ちに己の不幸を嘆きつつ、とりあえずビッグヘッジホッグを倒し、行き止まりの壁を背にへたり込む。疲れていないはずの体がどっと重く、悔しさと絶望の沈んでいったのだった。
「こんな結末あるかい」
「あるんだよねぇ、それが」
非情な結末と非情なステアのトドメに、その場で休憩という名の放心の時間を過ごすのだった。




