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54 余った時間で何しよう

 3人組を見送った後、住吉ダンジョンの脱出者用の施設へと転送される。すると、その場所はいつもよりも慌ただしい雰囲気に包まれていた。それは攻略者というよりも、受付やら係員やらの方がバタバタと絶え間なく連絡を取り合っているような、そんなせわしなさを感じる。


「俺初めて見たわ、アレ」


「いやあ、そういうこともあると知ってはいてもなあ」


「受付みんな駆り出されるから受付できなくなるのは嫌なんだよなあ」


 近くにいたほかの攻略者は事の成り行きを知っているのか、そんな話をしている。断片的な情報ではあるも、俺のダンジョンに関する知識がそのシチュエーションに合致する、とある出来事を頭から引っ張り出してくる。


「『救援のスクロース』かな」


『救援のスクロース』はスクロースの中でも一際異彩を放つ効果を持つスクロースだ。

 その名の通り、破ることでダンジョンの外に特殊な形で救援を求めることができる。特殊な形とは、一度ダンジョンに別々で入ると同じ構造のフロアには飛べないという常識を覆し、その攻略者がいる構造にいるダンジョンへとつながる小さいサイズのダンジョンの入口門が出現することを意味する。

 その代わり破った攻略者がいるフロア以降へ続く階段は消え去り、本当に救助されるまでそのフロアから移動できなくなる効果も存在する。どちらにせよ、救援を呼ぶような状態でダンジョンの奥に行くことはないだろうが、他にもいろいろな効果があったりする。

 このような効果を持っている、ダンジョンの常識を壊すようなスクロースは、実はニールセンによって生まれた過去を持つ。


 ニールセンと謎の声との会話の中にこういうやり取りがあったそうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『他には何かダンジョンの不満はないの?』


『あとはやっぱりダンジョンの隔絶性が高すぎる気がするな。ああもきっぱり冒険者同士を分けて攻略させられると、いざって時に助け合えない。地球なら電話一本で警察や消防士が駆けつけてくれるのに、ダンジョンにはそれがない』


『ふーん、つまり外部に救援を求められるようなシステムが欲しいってことかい?』


『そうとってくれても構わない。ただ、俺はつらつらと不満を言っているつもりだからな。不満にはその先を見据えるような意味はない、だろ?』


『了解。それじゃあその不満が解消されるように、少し、いじってみるよ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それ以来、ダンジョンから『救援のスクロース』なるドロップアイテムが増えた。

 破った時の効果も、概ねその時の会話から予想できるものだったし、ゆえにニールセンの偉業と今日まで伝えられている。実際、俺が最初に購入した大きな荷物入れにも入っているほど有益だと周知されている。


 とはいえ、そういった新しいアイテムが増えると、現場での対応も大きく変わったりするものだ。

 日本ではそのダンジョンで『救援のスクロース』が使われると、そのダンジョン管理施設に勤務中のほとんどの職員が救援対応にかかりきりとなる。


 ある人はJPDCへの迅速な報告のための準備を始めたり、ある人は倉庫から『脱出のスクロース』を手配したり、またある人は他の攻略者や別ダンジョンの管理施設に連絡を入れて救助に向かってくれる人材を探したりする。


「すみません!現在住吉ダンジョンにて救援を求めている攻略者の方がいらっしゃいます!どなたか救助者の資格を持つ方はいらっしゃいますか!?」


 そんなことを思っているとさっそく係員から救助の依頼が周囲の攻略者に向けて発せられる。

 その係員が言っている通り、基本的に救助に行くためにはただの攻略者ではなく、別途資格を持った攻略者である必要がある。それこそが日本における救援の遅さにもつながっていたり、さらに係員たちが救援のために各々の仕事を中断しなければいけなかったりするのだが。


「私はそんな資格持ってないし……」


「俺らとか今攻略が終わったばっかでクタクタなのによ……」


 辺りからちらほらそんな声が聞こえる。もっとレベルの高いダンジョンだったり、大きな施設であれば救助者の資格を持つものが常駐していたりするらしいが、あいにくこのダンジョンにそういうものはないらしい。


 係員が苦しそうに顔をゆがませる中、残念ながら資格を持っていない俺は申し訳ない気持ちになる。

 いずれはそのような資格を取ろうかと思っていると、近くの40代くらいの攻略者が挙手しながら低い声を出す。


「俺でよければ行くぜ。資格ならこの前取ったからよう」


 その男は腰に掛けている鞄から攻略者証明書を取り出す。遠くからなのでよく見えないが、おそらく救助者の資格も兼ねているような記載のある証明者なのだろう。先ほどの係員が証明書を受け取り、何かを確認すると、ほっとして表情で、その男の人を連れて関係者しか入れないようなバックヤードへと引っ込んでいく。


 あそこで救助者の詳細やどのくらい深い階層にいるのかを聞かされるのだろう。

 生存報告デバイスの情報があればそれくらいわかるはずだし。慌ただしかったその場が少し落ち着きを取り戻す。ただ、まだ被救援者は助かったわけではない。


 少し小難しい話になるが、基本的にダンジョンの中で危険な状況になると『脱出のスクロース』が先に使われる。なのに『救援のスクロース』を使ったということは相当追い詰められている可能性がある。それこそ、荷物すら無くし、セーフゾーン近くで戦闘をこなしてようやく『救援のスクロース』がドロップした、なんてことさえ珍しくないだろう。


「明日は我が身か」


 一応俺は脱出のスクロースも救援のスクロースも持ってはいるが、追いつめられて荷物を失い、それでも生を求めてドロップアイテムを求めて戦わなくてはならないという状況にならないとは言えない。


 珍しい場面と出くわしたにしては、高揚することもなく、一旦昼ご飯を食べに住吉ダンジョンを後にするのだった。まさかあの3人が『救援のスクロース』を使ったんじゃないだろうな、と突拍子もないことを考えながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふーん、そんなことがあったんだ」


「俺には関係ないと思いたいが、油断大敵だしな。今度からはすぐ手に取れそうな場所に『脱出のスクロース』を入れておくよ」


「……そうだね。目の前でお陀仏されちゃう身にもなってほしいしぃ」


 現在、昼ご飯を食べ終わり、食後の運動を兼ねて『大濠公園ダンジョン』を攻略していた。住吉ダンジョンから30分程度歩けば着くような距離にあるこのダンジョンで、午前中とは打って変わり、ソロ攻略に精を出している。

 その際に、午前中ステアが静かにしてくれていたり、先ほどの救援のスクロースが使われた件を話したりしている。会話の節々から、やはり何らかの方法で俺の見聞きしていることをしっかりと把握しているうようだ。


「ん?どうかしたぁ」


「いや、何でもない」


 当の本人はそんなことも気にせず、いつも通りのほほんとしている。

 深く考えるだけ時間の無駄なので、ダンジョン攻略に思考を切り替える。せっかくダンジョンレベル10に挑んでいるので、どうせならまた希少魔物とでも戦いたいなあと考えながら、駆け足でダンジョンを進んでいく。


 そんなこんなで攻略開始から6時間が経ち、大濠公園ダンジョン終盤になっていた。ステータスが上がったせいか、移動速度も徐々に早くなっている気がする。そして、もう間もなくダンジョンボスのフロアに着くという頃、その階層の攻略の中頃でピキリと短い痛みが頭に走った。


「いっ……!?」


「あ、また来たね」


 痛みが引くと、今度は希少魔物がこのフロアにいるぞ、という確信が湧いてくる。まるで俺の意志を無視してポッと出てくるその感覚に違和感を覚えるも、いるなら戦わないとという感情も湧いてくる。それにしても前回


「思っている以上に『希少魔物』って出現しているのか?」


「ふふ、人は自分が知っている情報からしか判断ができないからね」


「何を意味深に言ってんだ。カッコつけてよお」


 急に自分は人知を超えているかのように言ってくるステア。確かに俺だって『いれぎゅらーいぐじすと』がなければこの階層もすぐ攻略していただろうが。ただ、全知と言われてもおかしくないステアが言っても嫌味にしか聞こえないぞ。


「タロウマル君もあの3人に向かってずいぶん偉そうなことを言ってたじゃん?」


「おっと、風向きが変わったな。俺は今から希少魔物を探すから集中させてくれないか?」


「なんだっけ?『みんな助け合うことこそが攻略者パーティに求められることだ』だっけぇ、ソロ攻略者のタロウマル君?多分あの3人もさぁ、1人のアンタが言うのかって思ってたよぉ」


「きえええええええ!」


 若干心の中で気にしていたことを言い当てられ、俺は叫び、羞恥し、気が狂ったように希少魔物を探しに行くのだった。

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