52 住吉ダンジョン攻略の同伴 その1
遅くなってすみません。
1日1話ペース頑張りたいのに……!
約束の5/3の午前9時の少し前。俺はしっかり約束を守り、住吉ダンジョンを囲う施設の中にいた。なし崩し的に受けてしまった元二階堂の取り巻き3人衆との住吉ダンジョン攻略だが、やると決まった以上は情けない姿は見せられない。少しだけ気乗りはしないものの、それでも遅刻はせずこうしてやってきたのだった。
窓から街を見渡すとゴールデンウィークということもあり、待ちゆく人の姿が至るところで波を打っている。一方、今日ばかりは攻略者ではなく待ちゆく一般人になろうとする人が多いのか、意外にも住吉ダンジョンにはそれほど攻略者はいなかった。そんな中、約束の時間をぴったりに、ついに彼らは俺の目の前に現れる。
持林は赤銅のような素材の鎧に身を包み、芳井は黒装束を身にまとい、織田は灰色の鎖帷子を着込んでいる。その装備は彼らが二階堂パーティのメンバーだった頃から装備しているもので間違いなかった。レベル4のダンジョンを攻略するには少し装備に気合が入りすぎているようにも見える3人の格好に、俺はオイオイと言いたくなる。
前は二階堂のけた外れに豪華な装備に目を奪われていた。しかし、よくよく見れば周りの取り巻き達も十分高価そうな防具を持ってい多ではないか。おそらくその源はダンジョンコースのほかの受講生のお金だろう。カツアゲを繰り返して得られた益は、普通以上の防具を手に入れられるには十分だっただろうな。
故にちょっとした感嘆詞が口からこぼれそうになる。すると、そんな俺のいぶかしげな目線に気づいたのか、到着早々持林は慌てて弁明してくる。
「あ、もしかしてこの装備を見てなんか思ってますか?」
「えっ。……まあ少しはね。一体いくら位するんだろうかなって」
少し意地悪だが、言外にカツアゲで得た防具なんだろという意味を込めて言う。そしてそれをわかっているのか少しだけうつむく持林と芳井。そして残りの織田は俺にうっとおしそうな眼差しを向けてくる。まるで細かいことは気にすんなよと言わんばかりの表情だ。
昨日から思っていたが、やはり織田はまだ荒れている。俺に二階堂への復讐を強要しようとしてきた持林と芳井みたいな様子だった。
「小野寺さんの言いたいことは、わかります。でも、この防具もこの武器も今手放したら意味がないんです。みんなが俺たちを許し、認めてもらうその時まで、この気持ちを忘れないようにしたいんです」
「おそらく俺たちが小野寺さんとダンジョンに潜るのはこのゴールデンウィークだけです。ですので、どうか目をつぶってもらえませんでしょうか!」
「は、はあ。何考えがあってそうしているんですね。それなら僕はもう何も言いませんから」
ちょっとつついてみたら思った以上の信念が出てきてびっくりした。何はともあれ、自分たちで考えて意図を持ってそうしているのであれば、俺はもう何も言うまい。2人の言ってた通りそれが他のダンジョンコースの受講生うへの償いにつながるって思っているのなら、阻む理由もないだろう。
俺はこれ以上はもう何も言うまいと決意する。
「だったら最初から変なこと言うんじゃねえよ」
しかし、それを快く思わない者はいる。織田は俺に向って無駄口をたたくんじゃねえと吐き捨ててくる。織田は2人みたく何かしらの意味を持ってっその装備を着てたりはしないだろうに、よく言えたものだ。
「織田!お前は何を言っているんだ!言っただろう、俺たちは変わるんだって。だから小野寺さんに謝れよ」
「はあ?だからがり勉野郎なんかから学ぶことはないって言ってるだろ?俺をわざわざ連れてきやがってなあ、おら!」
「ぐっ!」
ついには仲間にも手を出す織田。芳井が肩を押さえてうずくまり、持林がそれを心配する。ダンジョン攻略のための施設内だからと言って、あまり暴力沙汰は起こさないでほしい。
「ちょっと、せめて続きはダンジョンに入ってからにしろって」
「はあ?がり勉野郎が何言って……いって!?」
俺のことを散々馬鹿にしていたせいか、全く警戒していなかった織田の腕を俺は容易くひねり上げる。それだけで身動きが取れなくなった織田は激しく暴れるも、なりふり構わず暴れるそれを御す。
幾つか飛んでくる力ない攻撃を躱し、最後は押し出すように掴んだ腕を離す。
「てめえ……!調子に乗るのもいい加減にしろよ!」
「はいはい、分かったから続きは中でな。すいませーん、攻略者4人分のデバイス貸してください」
「は、はい……」
さすがに騒ぎすぎたので、受付の人もこの騒ぎに気づいている。ひどく怖がらせたようで、マニュアル通り動くので精いっぱいのようだ。ただ、そんな状況の方が俺にとってはありがたい。スムーズに受付に止められることなくダンジョンの中に入れるからだ。
後ろから殺意に近い視線を浴びながら、人の少ない施設を通り抜け、俺を拭く塩田4人はそのままダンジョンへ入っていくのだった。
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「さっきはよくもやってくれたなあ!」
ダンジョンに進入するやいなや、暗闇が晴れると同時に殴り掛かってくる織田。しかしダンジョンに入ってしまえばもうこちらのものだ。そのことに気づいていないのはよほど頭に血が上っていたのか、それとも本当に俺が弱いと思っているからなのか。
俺目掛けて振るってくる拳を片手で掴み取る。地上で例えたらふんわり投げられた野球ボールを両手でキャッチするような感覚だ。しかしそれでも掴まれた方からはその俺の動きを異質に思ってしまうだろう。
「は?」
こんなことなら何度でもできる。俺はゆっくりつかんだ拳を放っしてやる。
織田は自分の手をつぶさに見るが、もちろん何の変哲もない自分の手である。
「お前、何をッしたッ!」
「質問をするか、攻撃するか、どっちかにしたら?」
「クソっ!当たらねえ」
織田の動きを見る限り、おそらく本当にダンジョンレベル3をクリアした後ダンジョンに行ってないのだろう。それほどまでに俺と比べて低いステータスをしているようだ。だとすると簡単に圧倒的差を分からせることができるだろう。
「『ふれいるすいんぐ』」
ブオンと空を切る音がダンジョンに響き渡る。
「お前、どこから武器を……!」
「マジックバッグに決まってるだろ。『ふれいるすいんぐ』」
再び俺はマジックバッグから取り出したアイアンバンブージャベリオンを振るう。しかし決して織田には当てずに。ただ空を切らせるだけで、いいのだ。
「く、クソっ!なめやがって!うおおおおお!」
いくら拳を振っても俺には当たらないし、俺はいつでもお前を倒せるんだとアピールする。
また一つ、アイアンバンブージャベリオンが空を切る音がした。
「まだまだあああ!」
まだ折れない心に少しじれったく思うも、避けては振るうを繰り返す。
「おおおおお!」
なぜか織田の気迫が上がっているが、それでも俺には届かない。やはり少しダメージを入れないといけないかと少し威力を落とし、攻撃スキルもなしに足を引っかけるようにアイアンバンブージャベリオンを当てると織田はそのままひっくり返り、地面へと転ばされる。
さすがにここまでしたらおとなしくなるだろう。
「ド根性おおおおお!」
「ひいっ!『かうんたーばらんす』!……やべっ」
あまりにもゾンビよりゾンビらしい織田につい防御スキルを発動してしまう。ちょうどアイアンバンブージャベリオンの柄の中心で織田の額を受けとけるような形になる。しかしタイミングはあっていたのか、俺よりも攻撃力の低い織田と威力が同じになり、下手に織田の脳へダメージを与えることはなかった。
逆に威力が低い攻撃に『かうんたーばらんす』を当てることはめったにないからな。意外にも変な経験をすることができた。
「くそっ!どこまでもバカにしやがって……っ!」
「ちょ、待てよ。もういい加減分かっただろ、お前じゃ俺には勝てない。さっさと認めておとなしくあの2人みたいに改心しろって」
「うるせえ!俺のこと、何も知らないくせに!」
どうやら何か地雷でも踏んだのだろう。ついに眼がしらに涙を浮かべながらた殴り掛かってくる。ここまで行くとさすがに俺が弱い者いじめをしているみたいじゃないか。持林と芳井もなんか若干引いてるような気がする。そこで、前の2人の会心の時みたいにうまくいかない理由に気づく。
「そうか、たしかあの2人の時は流川さんが来てくれて、それで丸く収まったんだっけ」
口に手を当てうわあとひきつった表情をしている2人を見ているとだんだんあの時のことを思い出してきた。確かにあの時その場を取りまとめたのは流川で、俺じゃない。相手に力の差を見せたら相手はおのずとわかってくれると思ったが、それだけじゃなく、流川のようなカリスマも必要だったのだ。
「うわあ、俺じゃ織田は改心させられないってこと?」
「何言ってんだてめえええ!!」
と冗談はさておき、若干息を切らし始めた織田の攻撃を避け、俺はナイフを腰から抜く。アイアンバンブージャベリオンとは違いゆっくりとしたその動作はさすがにほか3人の目に留まったようだ。
「な、お前、そんな武器使いやがるのか」
急に慌てだす織田。俺がぶったり叩きつけたりしかしないと思っていたのか、俺の戦闘能力を把握したうえで焦っているよううだ。俺は有無を言わさぬ速さでナイフを投げる構えを取り、フルスイングでそれを放った。
「ひっ……!」
自分の方向へとてつもない速さで飛んでくるナイフに、織田は短い悲鳴を上げることしかできない。先ほどまでの威勢のよさはとこ化へ行ったようだ。瞬きも間に合わず、まるでナイフが自分の眼前に迫って来たように見え――そしてそのまま織田の顔の横を通り過ぎていった。
「「「え?」」」
「今日俺がここに来たのは何のためだったか覚えているか」
「は、はあ?何ってそりゃ……知るかよ。何か教えるとか言ってただろ。ていうか話を逸らすんじゃ――」
「後ろを見ろ、織田」
俺は静かな声で織田に促す。先ほどまでのどこか飄々とした俺の姿はなく、そこには攻略者としての俺が見えたはずだ。素直に俺の言うことを聞いた織田はゆっくりとだが振り返る。そして自分の後ろの光景に目を丸くした。
「あれは、魔物?」
「『ウルフストレイズ』だ」
織田の後方30メートルほど先の通路に喉にナイフを刺され、体をピクピクと振るわせるウルフストレイズが倒れていた。そしてその場の全員が注目し終わると同時に光の粒子となって消えていく。
「持林!」
「は、はい!」
「『ウルフストレイズ』の特徴は何だ?」
俺は先ほどまで蚊帳の外だった持林を呼び、強制講義に徴集する。魔物が現れた以上、もう手を抜いてはいられないからな。魔物は厄介なことになる前に倒したが、そのことを理解できているか確認だ。
「えと、確かほかの魔物を呼び寄せるとかじゃなかったですか?」
「大体あってるぞ。正確には1度出会った攻略者のにおいを覚えたのち、その場から逃走。その後ほかの仲間のウルフストレイズを連れて襲ってくる、という特性を持つ。少なくとも今のパーティなら多対多の乱戦になってもおかしくないからな。こういうことを考えながらダンジョンを進むのが攻略者だ」
「は、はえー」
口をぽかんと開けた3人衆。本当にわかっているのか分からないが、まあこの攻略中にダンジョンについては叩き込んでいけばいいだろう。俺は投げたナイフを回収しに行く。
「なんか、急に人が変わったみたいだよな」
「ていうか投げナイフでウルフストレイズ倒すとかありえなく根?距離もあんのに」
「く、くそっ!俺は認めないぞ」
何やら後ろで色々話しているようだが、こうなった以上はとことんやってやる。最後は織田もある程度おとなしくなったので、俺は俺が得意領域の分野を心置きなく発揮させよう。まだダンジョン攻略始まったばかりなのだから。




