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49 鹿児島中央ダンジョン その5

【修正】

38話にて希少魔物討伐時のステータス上昇量の話題について下記の通り修正

・セーフゾーン等にいる間の時間はダンジョン攻略時間に換算されないよう修正しました。

・その他条件により必ずマックス上昇量を得られるとは限らないよう修正しました。

「……はっ!今何時だ!?」


 いつの間にか寝ていた俺は、目が覚めると同時にそう叫んだ。辺りを見回すが目覚まし時計もなく、布団もない。もっと言えばごつごつした地面に横たわっているし、目の前には岩肌の壁が見える。


「ああ、そうか。今はダンジョンにいたんだっけ」


 一瞬自宅の部屋にいるかと思ったが、そういえばダンジョン攻略中だったことを思い出してくる。俺がダンジョンの中で眠ること自体珍しいので、勘違いしてしまったのだろう。


「よく眠れたかい?」


 なんて思っていると、頭の横で浮いているステアに呼びかけられ、意識が少しずつはっきりしてくる。痛む体を起こし、肩や首をくるりと回してほぐす。体中が凝り固まっており、打撲のような鈍い痛みも残っている。


「くそお、希少魔物を倒したはいいけど、体が万全じゃないなあ。今何時だろう」


 体から不調が訴えかけられるも、とりあえずそれは無視して、スマホで時間を確認する。

 ロック画面には大きく01:05と書かれており、ダンジョン攻略を始めたのが12時だったことを考えると、すでに半日以上が経っていた。


「えーと、このセーフゾーンに来るまでに6,7時間かかったっけ?それで希少魔物と戦って戻ってくるまでに2時間くらいか?つまり3,4時間は寝てたのか」


 詳しい時間は覚えていなかったが、大体の肌感覚で自分の行動を振り返る。時刻はすでに深夜であり、本来なら翌日にダンジョンボス戦に備えて休むべき状況だ。ただ、中途半端に寝てしまい、睡魔はそれほどではない。体も痛むものの、希少魔物を倒して圧倒的なステータスの上昇を体験し、すぐにでもその力を試した意欲にも駆られている。

 とりあえず落ち着くために石以外の武器を一通り並べ手入れをしていく。


「戻るなりすぐに寝ちゃったけど、どうするの?」


「んー、いや、行くわ。どうせもう十分ステータスはいただいたんだ。だったらこのまま最速攻略を目指す」


「寝てなかったらもっと早く行けたと思うけど……」


「いいの!いいか?今からここのダンジョンボスを最短で攻略してやるよ!」


「はいはい、頑張ってねぇ」


 投げやりな感じのステアに雑な応援をされるも、荷物をまとめ、アイアンバンブージャベリオンを片手に早々と14階層へ続く階段を上がる。


「グオオオオオ、グオオオオオ」


「出たな、『スリーピージャイアントベイビー』」


 ダンジョンボスの松14階層へ到達し、最初に目に入ったのはとんでもなく巨大な魔物だった。全身が淡い水色の肌で、横になっているにもかかわらずそこら辺の一軒家くらいはある人型の巨体だ。瞑っている眼はバランスボールくらい大きそうな一つ目であり、まさに巨人という名前がふさわしい様相を呈していた。さらに頭部には1メートルほどの平たい角を生やし、その異形さに拍車をかけている。

 これでまだ()()()()とはとんでもない化け物である。


「おまけにただのいびきでこの爆音か。倒し甲斐があるぜ」


「ぺちっと潰されないよう気をつけてよ?」


「任せろ!『ふれいるすいんぐ』!!」


「グア!?」


 相手はいまだまどろみの最中だ。ここぞとばかりにスリーピージャイアントベイビーの足を狙い、渾身の力で攻撃スキルを叩き込む。手応え的に骨までその衝撃は届いただろう。寝起きのスリーピージャイアントベイビーは目を見開き、叩かれた足を両手で抑えて悶えている。


「うーん、ちゃんと戦い方わかってるね」


「当たり前だろ。先に目なんか攻撃してみろ。万全な四肢を持った巨大な物体が暴れ始めてしまうだろ。先に動きを封じるべきだ。相手の番になんてさせるかよ!『すらむだうん』!!」


 痛みに悶えているスリーピージャイアントベイビーに追撃の一発を叩きつける。今度はベッドのような分厚さのある膨らんだ手をに攻撃を仕掛け、さらなる行動不能を誘発する。見る見るうちに青色の肌が赤に染まっていき、ひしゃげた手を痛そうに抑えている。


「行ける!最速撃破だあ!」


「あ、まずい!」


「なんだ、ステア?……あ!?」


「グオオオオオオオオオオ!!!!」


 凄まじい咆哮をあげるスリーピージャイアントベイビーがそのまま立ち上がる。見るからに骨が折れている足を庇う素振りも止め、ダンジョンフロアの天井に届きそうなその巨体を完全に見せつけてくる。


「馬鹿な!こいつが立つとか、それこそ初手に眼を攻撃しないとありえないだろ!」


「完全に起きちゃったね。タロウマル君の攻撃、思っている以上にいたかったんだろうねぇ」


「話が違う!!っぶな!!」


 ステアの推測にそんなことあっていいのかと思っていると、すぐ真横に重機もかくやという 巨大な掌が打ち付けられてくる。即座に後ろへ倒れこむように避けたが、ドゴオオン!と破裂音にも聞こえる爆音がボス部屋にこだまする。


「これじゃあ眼を失ってない分、ちゃんとした攻撃しか飛んでこねえじゃんか!くっ!」


 大きく開かれ、眠気とは無縁と言った目玉がこちらを見下ろしてくる。すぐさま俺を振りはやうような手払い攻撃が飛んでくるも、アイアンバンブージャベリオンを盾に直撃だけは避ける。しかし衝撃は殺し切れず、そのまま地面を転がり、壁を背に何とか止まる

 1発1発がとんでもない威力を秘めており、おそらく耐えられたとしても1回だけだろう。想像しただけで背筋に冷たい汗が伝う。


「ふはは、ははっ」


 しかし俺の表情は体とは真逆の反応を示す。したたかに笑い、地面に座ったままわざと大きい身振りで腰のナイフをスリーピージャイアントベイビーの、いやジャイアントベイビーの目ん玉の真ん中目掛けて投げる。

 それに対し、ジャイアントベイビーは無事な方の手でナイフを受けた。浅く刺さるも、ダメージというには小さすぎる。しかしダメージを与えることが目的ではなかった。俺はさらに笑みを深め、独り言のようにつぶやく。


「その巨体でなんて速さだよ。でもな、攻撃は1発じゃ終わらないぜ?」


「グア?グアアアアア!!」


「ッしゃっ!命中うう!」


 俺はナイフを投げた後、ごくわずかな動きで『クレッセントダブルダガー』を2本とも投げていた。それもジャイアントベイビーの頭上から目を狙うようなカーブを描いて。

 自身の手によって俺の2、3発目の存在に気づけなかったジャイアントベイビーは薄いクレッセントダブルダガーにより、目の半分ほどに切り傷を負ってしまう。視界が不良になり、まともに攻撃も当てられないだろう。


「ゴアアアアアア!!」


「こうなるなら端から目を狙えばよかったぜ!」


 相手はもう暴れるしかできない。あとは大ぶりの攻撃を避けつつ、隙を窺えばよい。手足も1本ずつ使えない中で、どこまでできるか見ものだ。


「おらあ!『ふれいるすいんぐ』!」


「ガア!」


 相手の攻撃が飛んでこない怪我した部位側から攻撃スキルをぶち当てる。弱点に充てればそれだけで相手は怯んでくれる。ヒットアンドウェイを繰り返し、次第にジャイアントベイビーの動きを鈍らせていく。


 そうして十数分も経てば、ジャイアントベイビーは息も絶え絶えながら、なんとか腕を振るうことしかできなくなる。

 次第に叫び声や攻撃音も減り、まだ寝ていた方がうるさかったのではないかと思うほど辺りに静寂が広がる。


「そろそろあれが来るか。ならもうトドメだな。1発、いや2発で落とす!!」


 俺はアイアンバンブージャベリオンを固く握り、ケガをしている半身の方から一気に攻め込む。水色だった肌はそこらじゅうが赤くなっており、その痛々しさが激闘を物語っている。しかし、俺は知っている。その肌のさらに下にはまだ闘気が宿っていることを。


「グウウウアア!!!!」


 静かにしていたジャイアントベイビーが俺の方へ一気に振り向き、赤く腫れあがる手を最短距離で当てるために振ってくる。0から一気に加速するそれに対し、俺はあらかじめ用意していた防御スキルの名を叫ぶ。


「『かうんたーばらんす』!」


 一振りでジャイアントベイビーの拳を受け止め、いったい何が起こったのかわかっていないジャイアントベイビーの正面に立つ。ジャイアントベイビーの最後の攻撃は死んだふりからの不意打ちなのだ。タフが故にできる芸当ではあるが、魔物の知識を持つ俺からすれば対応も簡単だ。もし『チャイルドジャイアント』のような攻撃をしてこられたら危なかったかもしれないが、お前は『スリーピージャイアントベイビー』だ。

 こうなるのは自明だったのだ。


「『かうんたーばらんす』はお前に初めて見せたスキルだ。残念だったな!どりゃあああああ!」


「グアアアアア……!!」


 最後は足を素早く前後に開き、即座にアイアンバンブージャベリオンをジャイアントベイビーの見開かれた目に向けて放つ。あっという間に届いたアイアンバンブージャベリオンはそのままジャイアントベイビーの頭を貫き、一気に光の粒子へと変えていった。


「しゃああああ!完全勝利!」


「途中想定外のことが起こったけどね」


「でも全然余裕だったけどね。あれかな?あふれ出る戦闘センスかな?」


「ま、まあ確かにあのナイフ投げは上手かったけど」


「……え?ステアがほめてくれたんですけど、こわ」


「うるさいなぁ、死にたいの?」


「いえ、何でもございません。至極恐悦のいたりです。お褒めいただきありがとうございます。今後も日々精進いたします」


「最初からそう言いなよぉ、『いれぎゅらーいぐじすと』に現を抜かすタロウマル君?」


 あかん。ステアは今日機嫌が悪いの忘れてた。今までで一番怖いステアの表情(?)と雰囲気に俺は土下座する勢いで首を垂れる。あと、なんで起こっていたのか分かった気がする。あれだ。希少魔物を見つける『いれぎゅらーいぐじすと』にはしゃぎすぎて、階段を見つけてくれる『すてあさーち』をないがしろにしたせいだ。


「あ、もうすぐダンジョン脱出ですので、私はドロップアイテムだけ回収して退散いたします。それでは失礼します!今後ともぜひ階段まで案内お願いしまあす!」


「ふん、分かったから。じゃあまたねぇ」


 何とかステアの怒りは静まったようだ。よし、しばらくはおとなしく、調子になんて絶対乗らない。ステア含め、ちゃんと特殊スキルに感謝を込めていこう。そう自分に言い聞かせ、投げた諸々の武器とスリーピージャイアントベイビーの『魔物の装備品』ドロップである『眠れる巨人の赤子の角』を回収してダンジョンを脱出したのだった。

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