46 鹿児島中央ダンジョン その2
現在、鹿児島中央ダンジョンは4階層を攻略中だ。3階層でゾンビを殴り倒してから少し経ち、若干拳がヒリヒリする中、俺は次の魔物と会敵していた。
「「ブルルル……」」
「『ブルフォース』が2匹か。手ごわそうじゃねえか」
通路の行く手を阻むように、2匹の魔物『ブルフォース』が横並びで低いうなり声を上げている。
『ブルフォース』は牛、というよりもバッファローのような見見た目に近い魔物だ。全身が筋肉で膨れ上がっており、それを黒い皮膚で覆い隠している。さらに頭部の茶色い角は歪に曲がりながらも、太く硬く、何とも言えぬ重厚さを纏っている。性格はもちろん攻撃的で今にも襲い掛かってきそうだ。
「まあ同時に来なきゃあ余裕だ。この『アイアンバンブージャベリオン』で一突き……は?」
「「ブモオオオオオォォ!!」」
先にしかけてきたのはブルフォース側だった。それも2体同時に道に隙間を残さないよう同じ速度で突っ込んでくる。角に隠れている小さな眼は確実に俺を見据えている。
「くっ!ステータスオープン!」
口に出した最悪のシナリオが発生してしまい、慌ててステータスカードを召喚する。そしてそのまま、片方のブルフォースの視界を遮るよう、当たる直前で不規則に360度回転するよう放つ。
「ブモ!?」
狙われたブルフォースは自身へ飛んでくるステータスカードが目の前でくるりと回り、俺の目論見通り視界を奪われる。その結果、わずかにだが速度を落とす。
「角が邪魔なら無理に目を狙う必要はないねえ!んで、こっちには『かうんたーばらんす』!!」
先に俺へと到達したブルフォールにはその突進に合わせ、防御スキルを発動させながらアイアンバンブージャベリオンを叩きつける。愚直に真っすぐ来てくれるのなら、タイミングは読みやすい事この上ない。スキルの効果で全く同じ力がぶつかりあい、ブルフォールの勢いは完全に停止する。
動きが止まったのを確認し、次の獲物へと目を向ける。ステータスカードに邪魔された方のブルフォースだ。
「ブモオオオ!!」
「そんで遅れたやつには『ふれいるす……なっ!?」
少し遅れてやってきたブルフォールに『ふれいるすいんぐ』を叩き込もうとした瞬間、止まっていたはずのブルフォースが体当たりを当ててくる。威力はそこまでではないものの体勢を崩され、『ふれいるすいんぐ』も不発に終わる。加えて、遅れてきた法のブルフォースの突進をアイアンバンブージャベリオンで何とか受けるしかなくなる。
「クソッ!」
なるべく全身を小さくし、弾かれながらも一旦距離を取る。衝撃が全身に走るも、何とか係船できそうだ。
再度横並びになる2匹のブルフォースを前に、マジックバッグから『クレッセントダブルダガー』を取りだして左手で2本とも握る。さらに、体勢を低くし重心を下げ、アイアンバンブージャベリオンを右手です紙、地面に対して垂直にしておく。
「「ブモオオオォ!」」
準備を整えると同時に、2匹のブルフォースはまたもや並んで突進してくる。口の中が切れ、血の味を感じる中、俺は集中する。ブルフォースの動きを注意深く観察し、手早く片方のブルフォースに向けてクレッセントダブルダガーを2本とも投げる。投げた手が地面に擦れそうなほど低い場所を通り、2本の双短剣は地面スレスレを水平に飛んでいく。
「当たれええ!!」
期待や願いも多分に含まれた俺の叫び。確実に当てる自信はなかったものの、その想いは通じたようで、1匹のブルフォースの前足2本と後ろ脚1本を斬り裂いた。あれだけの巨体を支えていた脚を失い、勢いそのままに転倒する。
「しゃああああ!次はお前だああ!」
立てていたアイアンバンブージャベリオンを強く握り、迫りくるブルフォースを待つ。そしてもう3メートルほどという距離まで近づかれたとき、俺は素早くアイアンバンブージャベリオンをブルフォースに向け、地面についている箇所を支点に傾ける。
その先端は鋭利に輝いており、突進してくるブルフォースは自身の勢いのせいでアイアンバンブージャベリオンに首を突き刺されてしまう。ガガガっとアイアンバンブージャベリオンも地面を抉るような音を出して押し込まれながらもしっかりとその役目を果たす。そしてそのまま、ブルフォースは最後の声すら上げることができず光の粒子となって消えていいった。
「あぶなかったあー。じゃあ倒れてる方も……『すらむだうん』!」
「ブウウ……」
脚を斬られ動けなくなっていたブルフォースも倒し、ドロップした魔石と飛んでいったクレッセントダブルダガーを回収する。軽く痺れている両腕にブルフォースの突進力を実感し、一息だけ吐く。相乗以上の連携をとってきたブルフォースとの戦いを思い返し、もっと気合を入れていかねばと頬を叩き、攻略を再開した。
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4階層の攻略も進み、俺の移動に連動してステアの矢印の向きの変化も大きくなる。階段が近い合図が出てきて、そろそろ階段の正確な位置でも目星をつけようとしたその時、まだ戦ったことのない魔物が現れた。
「……」
「意外と大きいのな、『ファイブストーンズ』」
目の前にはボーリングの玉くらいのサイズの岩が5つ縦に連なる異様な物体——『ファイブストーンズ』がゆらゆらとバランスを保ちながら鎮座していた。見た目の通り物質としての性質自体は岩そのものだが、魔物である故、攻撃を仕掛けてくる。
俺がアイアンバンブージャベリオンを前方突き出すように構えると同時に、一番上の岩がなかなかの速度で飛んでくる。安直な岩飛ばし攻撃であるが、『シルバーバルーン』と同じく純粋な物量攻撃は厄介である。だからこそ、この構えをしたのだが。
「その程度の攻撃で俺に当てられると思うなよ!」
飛んでくる岩に合わせ、アイアンバンブージャベリオンの先端を沿わす。勢いは殺さず、ただ飛んでいく方向だけを数°ずらす。それだけで俺のもとに岩は届かず、斜め後ろへとあらぬ方向へ飛んでいく。正面からあたってしまえば痛いどころでは済まないが、当たらなければどうということはない。
「こいつの倒し方は岩の分断から始まる。さあ、どんどん投げて来いやあ!!」
「……」
俺の挑発に乗ってきたのか、矢継ぎ早に岩が飛んでくる。それらをさっきと同様に次々と後方へ受け流す。ついには5つあった岩はゴロゴロと俺の後ろで転がっている。
一度バラバラになってしまうと、再び1つのタワー状態になろうと集まり始める性質もあるためだ。どうしてそんな動きができるのか、原理はもちろん解明されていない。だが、その瞬間がファイブストーンズの一番の隙であることには間違いない。
「『ふれいるすいんぐ』!!『すらむだうん』!!『ふれいるすいんぐ』!!」
片っ端から岩を叩き潰していく。さすがもっとレベルの高いダンジョンから手に入るだけあり、アイアンバンブージャベリオンは傷つかず、岩を粉砕していく。そして最後の1つを割り切り、ファイブストーンズはようやく光の粒子となって消えた。
「んー手間はかかるがこの状態にしちゃえば容易い相手だな。ん?おっ、魔石じゃん。今日はツイてるなあ」
運よくドロップした魔石を拾い、マジックバッグへ入れておく。これですでに3つの魔石を手に入れており、このペースだと次の特殊スキル獲得の時間の問題だろう。いつの間にかダンジョン入場時の荒れは鳴りを潜め、いつもの調子に戻るのだった。
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それからさらに7時間が経ち、13階層にあるセーフゾーンまで到達した。道中はそれほど多くの魔物は相手にしなかったが、今日は本当にツイているらしく、魔石がすでに10個も集まっている。『すてあさーち』でほぼ最短経路で移動しているにもかかわらずコレほどたくさんの魔石を集められたのは僥倖だ。
ただ慌てて魔石を食べる必要はない。先に湧き水を飲みながら、武器の手入れといつものように魔石鑑賞を行う。せっかくだから食べる前にしっかりその美しさを目に焼き付けなければ。
「タロウマル君、元気?」
「ああ、まあ、そうだな。多分意外と元気だぞ」
そんな風に魔石を片目でのぞき込んでいると数時間ぶりにステアが話しかけてきた。心なしかしおらしさを感じる。ちょっとそんな雰囲気を醸し出されると俺もどう反応していいか分からない。なのでどもりながらも変な返しをしてしまう。しかしそんなことをしてしまうと、
「……」
「……」
ほら、気まずい時間が流れる。ステア相手にこんなことになるとは、つくづく俺は人との付き合いが下手なんだと実感させられる。
「あの、さっきはごめんね」
「な、なんだよいきなり。あれは、そう、ああいうノリだ。結局俺は1人でしか攻略者をやらないんだからああいう感じになっちゃうのはお約束なんだ。だから、その、気にすんな」
はあああ、なんで俺はこんなにも話下手なのだろうか。攻略者になることばかりに目を向け、他をおろそかにしすぎたせいなのだろう。
「うーん、何言ってるのかよくわからないけど、それじゃあ気にしないで置くことにするよ」
「お、恩に着るよ」
コミュニケーション能力の欠如に勝手に苦しんだ後、ステアからさらに追撃が来る。とりあえず何とかこの話題は終わりそうなので、俺ももう気にしないことにする。俺の目標はダンジョン攻略なのでもう好きにしよう。メンタルが持たない。
「よし、それじゃあ魔石を食べるか。ダンジョンボス戦前だが、何か手に入ればいいな」
「10個食べるの?だったらそろそろかもね」
ステアから特殊スキル獲得の匂わせを受けつつも、まずは準備が必要だ先にバフポーションをマジックバッグから取り出し、それを一気に飲み干す。そして一気に空腹が襲ってくるも、ステータスを確かめつつ、バフの効果が切れるのを1時間ほど待つ。
そしてステータスからバフ効果が切れたことを確認し、魔石と湧き水を飲み干す。ルーティンというほど熟してはいないが、この工程をスムーズに終わらせ、数分間待つ。そうしてステータスカードを確認すると新しい特殊スキルが増えていた。
『いれぎゅらーいぐじすと』
そのスキルを認識すると同時に俺はその効果を知ることになるのだった。




