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45 鹿児島中央ダンジョン その1

 本日は4/29の土曜日、時刻は朝の7時ではたから見れば健康的な生活を送っているように見えるだろう。しかし俺は命を懸けたダンジョン攻略に精を出す攻略者である。長かった授業や平日の学校を何とか乗り越え、待ちに待った週末の到来を喜んでいた。

 今週学校であったことと言えば、持林と芳井が最後のいじめっ子取り巻きだった織田を俺の前に連れてきて謝らせたり、流川があの生放送の後、遠征としてダンジョンレベル21の『志布志ダンジョン』にパーティの仲間と攻略に向かったりと、ダンジョン関連の話題が多かった。そんな中、毎日次のダンジョン攻略を楽しみにしていた俺はさっそく家を出発し、博多駅まで出向く。

 今日と明日の目的はダンジョンレベル11の『鹿児島中央ダンジョン』だ。九州新幹線の終着点である鹿児島中央駅から少し離れた市街地の真ん中にあるダンジョンである。片道3時間かかるうえ、出費もかなりかさむので、ここいらで稼ぎと成長の両方を目指したいところだ。


「ああ、楽しみだなあ。ふふ~ん」


 新幹線の中でダンジョン情報をあさりつつ、鼻歌を歌いながら到着を待つ。窓の外は雲一つない晴天。まるでダンジョンを楽しみにしていた俺の心模様そのもので、より一層気持ちが高ぶる。

 4月最後の休みはいいスタートを切れそうだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ですから!1人でダンジョンに行くなんて信じられません!」


「でで、でも、僕はダンジョンレベル10もクリアしていて、な、中に入れるので、何も問題ないと思うんですけど」


「知らないのですか?ダンジョンレベル10以降はレベルが1上がるごとに魔物の強さも格段に上がるんですよ!」


「それでも攻略者に対する規制で『1人でのダンジョン攻略は許可されない』なんてものはありませんよね?なので通してください」


「ダメです!せめて臨時でもいいのでパーティを募集してください!」


 前言大撤回だ。俺は今、鹿児島中央ダンジョンの受付にいる。そこで1人でダンジョンに入ろうと攻略者証明書を出したところ、このありさまになっている。女性の受付の方に激しく注意され、他の攻略者からもなんだなんだと注目されている。

 何も悪いことをしていないのにこの仕打ちはすごく恥ずかしい。穴があったら入りたい、できればダンジョンの中がベスト。


 なんて現実逃避をしていると、受付のさらに奥のスタッフルームから別の係員がやってきた。


「すみません!いったい何の騒ぎでしょうか!」


 ひどく慌てた様子で、状況を聞いてくる。視線は俺と俺のダンジョン入場を阻む受付とを行ったり来たりしている。


「え、あ、あの、この受付の人がダンジョンに入場させないと言ってくるんです。変じゃないですか?どうにかしてもりゃえませんか」


「!申し訳ありません!ほらあなたも謝りなさい。攻略者相手に意地張っちゃダメっていつも言ってるでしょう?」


「ですが、この子はまだ子供です!それに一人でダンジョン攻略するなんて危険です!」


「~~!はあ、ええと、小野寺様ですね。こちらデバイスと攻略者証明とです。入場列に並んでお待ちください。それでは失礼しました!」


「あっ!先ぱ……!」


 後から来た受付の人は俺を引き留めていた受付の人の腕を引っ張りながら奥へと引っ込んでいく。すぐに別の人が受付に着いたが、その場のダンジョン施設には変な空気になってしまった。俺と受付の人の騒がしいやり取りが終わると同時に、なぜかひそひそというささやき声が増えた気がする。

 高校でも同じような状況になったことがある気がするが、深く考えないようにする。とはいえ、当事者となってしまった俺はそそくさとデバイスを装着し、ダンジョンの入り口の方へ移動する。列に並び、チラチラ見られていることに気づきながらも顔を伏せて早くダンジョンの中に入りたいと願い続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あはははは!君、ダンジョンに入る前から何してるんだよ。あははは!」


「あれはどう見ても俺が被害者だろ!なんであんな目に遭わないといけないんだ……。まだ寒気がする」


 ダンジョンに入りすぐ、ステアの高い笑い声が耳に届く。純粋そうな笑い声なのに小ばかにされたように感じるのは俺がおかしいのだろうか。


「しかも話すときに噛んでるし、慌てようだけで言えば君も負けてなかったよ」


「きえええええええ!」


 せっかくスルーしていたことを掘り返すんじゃない。甲高い奇声を上げ、アイアンバンブージャベリオンをマジックバッグから出した俺はもう何も聞きたくないと、一目散にダンジョン攻略を開始した。己の羞恥を抑えるため、今までよりも力を込めて走っていく。


 そしてそれから2時間ほど過ぎ、3階層の攻略中、気持ちの整理もつかないまま、鹿児島中央ダンジョン初の魔物と遭遇した。


「グオオオオ!!」


「おおおおお!!」


 4本腕の不死者の『ゾンビ』である。いつぞやのダンジョンボスがフロアを彷徨うゾンビとして目の前に現れた。しかし、今の俺には相手が何だろうが関係ない。即座に投擲の姿勢を取り、気合とともにアイアンバンブージャベリオンを撃ち込む。


「グオオ……!」


 それに対し、とっさに4本の腕で身を守り、ゾンビは致命傷を防いだ。しかし、約2本の腕を貫かれ、即座に次の動きに移るのも難しい姿勢になってしまう。そしてそんな隙を見逃す俺ではない。もうすでにナイフを2本ゾンビの目に向けて放ち、距離を詰めている最中だ。


「グォッ!」


「だあああああああ!!」


 ナイフを避けきれず、両目にナイフが刺さったゾンビは苦しそうに悲鳴を上げるが、すでに俺はインファイトの間合いまで近づいていた。先ほどの恥ずかしさを拳に込め、『すとろんぐあーむ』で強化された両の腕で乱雑に殴り掛かる。一発一発撃つごとにゾンビの硬さやタフさを感じるも、それ以上の猛攻を続け、ついには拳での討伐に成功した。


「はあ、はあ、はあ」


「あはは、そ、そんなに気合い入れなくてもいいんじゃない?」


 ちょっと引き気味のステアが声をかけてくるも、俺は気持ちのいいくらいの笑顔だけを返す。矢印の方を向き、俺の笑顔から逃さない。さすがに居心地が悪くなったのか、ステアは話を逸らす。


「あ、ほら、魔石が落ちてるよ。拾った方がいいんじゃない?」


「ソウダネ。魔石イイネ」


「この分だと今日はたくさん魔石が手に入るんじゃないかなぁ?」


「ソウダネ。魔石イイネ」


「うわあぁ、タロウマル君がおかしくなっちゃったぁ。しばらく1人にしてあげるから落ち着くまでまたねぇ」


 しかし片言でしか話さなくなった俺に恐れをなしたのか、ステアは急に引っ込んで(?)いった。


「しゃああああ!勝ったああああ!ステアにいいいいい!」


 ついに一言も発さなくなったステアに向けて俺は奇声の勝鬨を放つ。ステアはすでに引きこもっているのか、ただ淡い光を放つ矢印だけがそこにあった。

 少しだけやりすぎてしまったかと罪悪感に襲われたが、まあ勝ちは勝ちだなと多少満足感を得る。魔石を拾い、駆け足程度の速度でダンジョン攻略を再開するのだった。

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