42 二階堂との鉢合わせ
ダンジョンから脱出すると、いつもの施設に転送される。やはりダンジョンレベル10にもなると、脱出後の攻略者の雰囲気もがらりと変わる。前までは報酬の話ばかりであったが、今日聞こえてくる話は戦術やダンジョン攻略の進め方についての話も入り混じって聞こえる。
確かに複数体のコマンドラビットが狭い通路に現れたり、索敵に絶対漏れがあってはならないビッグヘッジホッグがいたり、突撃してくる金属の塊がいたりと、油断ができなくなっているのはひしひしと感じるところだ。
もし何かあれば大けがや、下手すれば生命の危機になってしまうので、ダンジョン攻略後の振り返りは大事だろう。それこそ報酬の話に現を抜かす暇もないほどに。
もっとも、俺には話し相手はダンジョン外には居ないので一人反省会をするくらいしかまねできないところである。1階層で流川パーティと一緒に攻略したことを少し思い出し、パーティについて少し考えながらも、足は受付へと向かっていた。
「デバイス返却と魔物のドロップ品の買取りをお願いします」
「はい、承知いたしました。『ビッグヘッジホッグ』の『大針鼠の若針』が14点ですね。査定にお時間がかかりますので、こちらの番号札でお呼びしましたら、お越しください」
「はい、ありがとございます」
受付のお姉さんから「100」の数字が書かれた札を受け取り、例のごとくほかの攻略者の邪魔にならないように端っこの方に寄っておく。軽く伸びをしてリラックスをしてから、待ちの姿勢になる。
待っている間、せっかく攻略者らしい攻略者が施設にたくさんいるので、失礼ながら装備やら武器やらを拝見させてもらおう。少し離れたところにダンジョンの入場待ちの列が見えたので、前から順に観察してみる。やはり皆良さそうな装備を纏っており、その姿から攻略者としての本気度がうかがえる。
「あれは鱗系の装備だな。爬虫類っぽい魔物の素材から作ったんかな。お、あっちは甲冑じゃん。結構年季の入ったものだな、カッコいい」
俺は自分の装備を見て、さすがにそろそろアップグレードしなければと思う。もうこのレベルのダンジョンの魔物には対して防御性能を発揮できなくなっているだろう。『魔物の装備品』ドロップでいきなり防具を狙うことも視野に入れつつ、他の攻略者の装備の観察に戻る。
「おお、全身防具に固めた完全武装の人がいるじゃん!珍しい~。そしてその隣の攻略者は、ってなんだあれ?傷1つない銀色のメタルアーマー?おいおい、なんだってあんな高級そうな防具を着たやつがここに——」
「ああ?何見てんだてめえ。……がり勉野郎か?」
最悪だ。高級そうな防具を纏うその人物——二階堂傑と目が合ってしまった。
よく見ればダンジョンコース最終試験や小倉駅前ダンジョンで見かけたときと同じ格好ではないか。もっと早く気づいて隠れたらよかった。
しかし公開してももう遅い。二階堂は、おそらく同行者である隣の攻略者たちに並んでろと指示を出してこちらにやってくる。その一歩は防具の重さとともに、ドスドスと重さを感じさせる足音を奏でている。
「よお、お前なんでこんなところにいんだ?ダンジョンの勉強のし過ぎで入ることもできねえダンジョンに来ちまったかあ?」
「あ、あはは。まあそんなところです」
がっちりと肩に腕を回され、簡単には逃げられなくなってしまった。太い腕に首がわずかに圧迫され、若干の恐怖を感じてしまう。ただ、ここまで近づいて分かったのだが、今の二階堂からはあまり怒気を感じない。どちらかと言えば機嫌がよさそうな方だ。
理由は何でもいいが、それならと俺は申し訳なさそうな表情でつらつらと嘘を吐き出す。
「やっぱりダンジョンレベル10ともなると皆さん凄い強そうですね。二階堂さんも一瞬誰かわかりませんでした。いい装備着てますね、うらやましいです」
張りぼての笑顔を張り付け、二階堂にはよりいい気分になってもらい、そのままさっさとどこかに行ってもらおうと画策する。
「だははは!がり勉野郎のくせに見る目あんじゃねえか!実はさっきレベル9のダンジョンを攻略してきたところだからな。毎日学校に行ってばっかりの野郎じゃあもう追いつけねえよ!」
バシバシとかなり強く叩いてくるが我慢だ。もう少し耐えればきっとその時が来る。
二階堂の自慢話を耳半分で聞きながら適当に相槌を打つ。そしてものの数分も経つと、二階堂の連れの攻略者が、列の方から声をかけてくる。
「二階堂さん!そろそろ番が来ます!戻って来ていただけませんかあ!」
「ん?もう順番が来てんのか。じゃあながり勉、お前もこんなところじゃなくもっとレベルの低いダンジョンから地道にやれよ」
ようやく二階堂が離れてくれるようだ。ほっと一息吐きたいところだが、それはまだ堪え、先ほど同様張りぼての笑顔で見送る。
「はい、ダンジョン攻略頑張ってください!」
「あ、そうそう。前に俺のマジックバッグを無くしたってやつ、持林とか芳井とか、アイツらのせいだったからぶん殴っといたからな。これで水に流したってことにしてくれや。じゃあな」
「……はい、ありがとうございました」
そしてようやく二階堂から解放された。最後の最後でツッコみたくなうようなことを言っていたが、何とか乗り切った。二階堂がそんな暴力を振るったせいで俺に暴力が流れてきたんだぞ、という言葉は最後まで飲み込みながら。
二階堂が戻っていく中、買取り受付近くに設置されているモニターに100という数字が表示されているのに気づく。二階堂に絡まれている間に査定が終わっていたらしいので、二階堂がダンジョンの中に入っていくのをしっかり確認してからカウンターへ向かう。
もし俺が買い取りしてもらっている姿を見られたら二階堂の勘違いに乗っかった意味がなくなるからな。
こうして二階堂との鉢合わせは何とかやり過ごし、ドロップ品の『大針鼠の若針』は1つ700円で合計9,800円で売れ、約1万円弱の収入を得ることができた。十分な収益を確保しつつ、ほくほく顔で俺は大濠公園ダンジョンを後にする。この調子で次のダンジョンへ向かう準備をすることにし、そのまま一度家に戻ることにしたのだった。
二階堂の連れの攻略者たち
「なあ、二階堂さんと話しているあの少年、おそらくこのダンジョンを攻略した後だよな」
「ああ、あの少年さっき買取りでビッグヘッジホッグのドロップ品を大量に出してたぜ」
「てことはさすがにダンジョンボスの初回攻略のボーナスとしか思えねえよな」
「どうする?二階堂さんに伝えるか?」
「いや、やめとこう。せっかく上機嫌なんだ。変に機嫌を損ねるようなことは言うまい」
「「ラジャー」」




