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40 大濠公園ダンジョン その2

 2階層を駆けていく。

 重量感を感じる『アイアンバンブージャベリオン』を両手でがっしりと握り、索敵は怠らず、ただひたすらに進む。

 宙に浮かぶ矢印の指す先にたどり着くため、入り組んだフロアを右に左に曲がり、およその階段の場所の検討をつけながら先に向かう。1階層、また1階層と順調に魔物と会敵することもなく4階層まで攻略していく。

 しかしダンジョンレベルも上がり、徐々にフロアが広くなっているせいか、階段までの道のりが長く感じるてくる。疲れはしないが、常に気を張る必要はあるので、集中力はなるべく切らさないようにしたい。

 そうこうしているうちに1階層攻略が終わって流川が脱出していった時から1時間ほどが経ち、5階層へ続く階段のあるセーフゾーンまで到着した。荷物を置き、軽くストレッチをしようと地面へと座る。


「ん?魔物だな。あれは、『コマンドラビット』か」


 すると今来た通路に2匹の魔物がいることに気づく。以前小倉駅前ダンジョンのダンジョンボスとして戦った『コマンドラビット』だ。2匹ともピョンピョンと跳ねており、臨戦態勢を整えている。


 しかし、セーフゾーンの効果で、魔物はこちらに来ることはできないはず。遠巻きに見られてはいるが、危険がないなら無視でもいいだろう。せっかくの休憩時に休憩できないのはもったいないし。

 そうして目を閉じて集中力でも回復させようとする、その直前だった。


 コマンドラビットたちは右前足をクイクイと招くように曲げ伸ばしする。


 その動きはまるで、挑発のような――


「あぁ、挑発だね、あれは」


「珍しいな。魔物には個体差はあるが、あんなことしてくるのは初めて見たな」


 コマンドラビットの行動を挑発と判断したステアの意見に俺は同意する。どこで学んだのか、2匹して手をクイクイしている様子はかわいらしい反面、少しだけ頭にくるものがある。


「どうするの?好き放題されているけど、放っておくのぉ?」


 ステアは意地悪そうに聞いてくる。そんな言われ方をされたら、俺がとる行動は1つだ。


「はあ、じゃあ戦ってくるよ。この『アイアンバンブージャベリオン』の初陣だ」


 荷物を下ろし、アイアンバンブージャベリオンを握ってセーフゾーンから出ていく。


 セーフゾーンとそうでない場所の境目は正確にはわからないが、コマンドラビットが襲い掛かってくればそこから戦いは勝手に始まる。一応、投擲をうまく使えばセーフゾーンからでも戦えるが、挑発された相手にそんなみみっちことをするつもりはない。


「正面から叩きつぶす!」


「「フォウウ!!!」」


 セーフゾーンから俺が出たと見た2匹のコマンドラビットがさっそく間合いを詰めてきた。それぞれ俺の頭と腹に狙いを定めて鋭い蹴りは放ってくる。それに対し、頭への蹴りは屈んで躱し、腹への蹴りはアイアンバンブージャベリオンの太い柄で受け止める。


 躱した方のコマンドラビットは勢いそのまま俺の後方へ流れていき、止めた方のコマンドラビットはちょうど目線を合わせ睨み合う形になる。


「攻撃を受けられたらすぐ離れるべきだぜ、おらああ!」


「フォウ!?」


 動きを止めたコマンドラビットへ雑に裏拳と当てる。たったそれだけで30センチメートルほどのその生き物は遠くへ弾き飛ばされ、ぐったりと地面に倒れる。


「フォウウ!」


「っと、死角から攻撃するってわかれば反応できるな」


 息つく間もなく、最初の攻撃を躱されたコマンドラビットが死角から、再び俺の頭を狙って回し蹴りを当てようとしてくる。俺は素早く振り返り、アイアンバンブージャベリオンを捩って、先端をコマンドラビットの蹴りに合わせて攻撃を受け止める。そしてそのまま手首を返して突きの攻撃に移る。


「フォウ」


 しかしそのコマンドラビットは自身の攻撃を受けられるやいなや、踵を返して距離を取る。先ほどの個体と同様に攻撃後の硬直を狙おうとしたが、見当が外れる。


「フォウ、フォウ、フォウ!」


「なめんな!おらッ!」


 しかしそんなことで放心している場合ではない。コマンドラビットは攻め方を先ほどとは変え、通路の壁や天井を跳ねながら予測が難しい軌道でこちらに迫り、蹴りを放ってくる。おれはそれをすべてぎりぎりで躱し、攻撃間のわずかな猶予でナイフを投げつける。


「くそ、ここは前のダンジョンボスのフロアみたいに広くないからな。そんな攻撃もできるんだったよな、確か」


 忘れかけていたダンジョンボスとしてのコマンドラビットと普通の魔物のコマンドラビットの戦い方の違いを思い出しながら、牽制したナイフを大きく避けたコマンドラビットを見据える。


 いつの間にか裏拳を食らわせたコマンドラビットも戦線に復帰しており、2匹でこちらをうかがいながら跳ねている。しかし、ダメージを受けている個体は跳ねる高さが若干低くなっているが。


「じゃあちょっと試させてもらうぞ。今度はこっちから、だッ!」


 もう1本のナイフを弱っている方のコマンドラビットに向けて投げつつ、距離を詰める。


「フォウ!?」


 動きが鈍っていたせいで、そのコマンドラビットは体をナイフに突き刺さり、今度こそ力なく地面に伏す。そしてそれとほぼ同時に攻撃スキルを使う。


「『ふれいるすいんぐ』!」 


 残ったコマンドラビットに向け、槍であるアイアンバンブージャベリオンをまるで棍棒のよう振るいながら『ふれいるすいんぐ』を繰り出す。

 ダンジョンで得られるスキルは基本的に武器や対象を選ばない。

 たとえ槍であっても『ふれいるすいんぐ』は発動するし、盾だとしても『大一閃』は発動する。あとはその武器の形状や質量などによって、攻撃スキルの効果の大小が決まるのだ。


「フォウ!」


 俺の『ふれいるすいんぐ』に合わせ、コマンドラビットは蹴りを返してくる。しかし、攻撃スキルの前には無防備も同然だ。コマンドラビットの足から嫌な音が鳴り、そのままボールのように壁へ叩きつけられる。

 そして地面に落ちると同時に光の粒子となり、その場に魔石を残して消えていく。


「あとは残りの方だけど。まあ勝ちだな」


 ナイフが刺さったコマンドラビットも一突きし、そのまま光の粒子に変える。運がいいことにこちらの個体からも魔石がドロップした。


「おお、ツイてるな。挑発に乗って戦ってよかった」


 ナイフと魔石を回収し、セーフゾーンに戻る。


 武器の手入れと魔石の鑑賞をしつつ、今の勝負を振り返る。


「力も反応速度も上がっているな。2匹のコマンドラビットだったけど、ダンジョンボス戦よりも余裕を持って戦えた」


 それに『ふれいるすいんぐ』のお試しもできた。使い心地は少し重さを感じるも、大金槌を使っていたころと大きくは変わらない。耐久の面でも丈夫で頑丈なので、しばらくは安心して武器として使っていけそうだと思う。さすがここよりも高いレベルのダンジョンでドロップするだけある。


「その武器良いね。とても頑丈そうだし、さすがレベル20越えのダンジョンで手に入るだけあるねぇ。突きも打撃もできるから敵ごとに使い分けもできそうだねぇ。まあ君がそんな器用なことができるかどうかわからないけど」


 ステアが、アイアンバンブージャベリオンの評価をしてくれる。なぜか俺への評価も添えて。コマンドラビットの時と同様に挑発に乗ってやろう。


「本当に流川さんには感謝しかないよ。こんないいものを無償でくれるなんて。俺がこれを使いこなせるって信じてくれたんだろうね。誰かと違って」


「ふぅん。じゃあ、武器がちゃんと使えるかどうか僕に見せてくれるかい?ああ、もちろん自信があれば、だけど」


「全然余裕ですけど?」


「じゃああそこにいる魔物倒してきてよ」


「全然いいですけど?って魔物?……またセーフゾーンのところに魔物がいるじゃん」


 自分できますけど?の方向でステアに抗議していると、ステアから魔物の情報が伝えられた。先ほどま俺がコマンドラビットと戦っていた場所に、生で初めて見る魔物が浮いていた。


「『シルバーバルーン』か。初めて見るが、結構明るい銀色に光っているなあ」


「あの魔物は打撃が効かないんだよね?ダンジョンに詳しいタロウマルくん?」


「本当、なんつータイミングだよ……。分かった、行けばいいんだろ、行けば」


「頑張ってねぇ」


 無駄に笑顔になっていそうなステアの声に心の中で畜生と叫びながら、先ほどと同様セーフゾーンから出ていく。


「——!」


「おらあ!」


 連続となる戦闘だが、負けるわけにはいかない。俺を認識し、『シルバーバルーン』は俺に向かって突進してくる。それに対し両手で腰に構えたアイアンバンブージャベリオンを勢い良く突き出す。

 キインと甲高い金属同士の接触音が響き、シルバーバルーンは浮いたままわずかに後ろへ下がる。


『シルバーバルーン』は薄いの椀状の金属が2つ組み合わさった外殻を持ち、その中にコアを持つ、浮遊している非生物の魔物だ。大きさは半径20センチメートルほどで、敵を見つけると等加速度運動をしながら突進してくる。距離があればあるほど速くなっていき、最終的には音速を超えることもあるとか。

 倒し方は外殻のどこかにある金属のつなぎ目をこじ開け、露出したコアを破壊すること。そのつなぎ目は非常に小さく、一点への集中攻撃によって壊れやすいので、突き攻撃が推奨されているのだ。


「とりあえず様子見だ、『ふれいるすいんぐ』!!」


 再び金属同士の激しい接触音が通路に響く。しかし肝心の手ごたえは全くなく、10メートルは吹き飛ばしたシルバーバルーンはいまだ綺麗な球面を保ちながらこちらに向かってくる。


「ぐっ!重い!」


 遠くまで飛ばしたせいでシルバーバルーンの速度が上がり、アイアンバンブージャベリオンの柄で受けるも、相当な重さがかかる。危うく押し飛ばされになるも、寸ででこらえ、次の攻撃スキルを発動する。


「『すらむだうん』!」


 シルバーバルーンを打ち落とし、地面へ叩きつける。硬い外殻に阻まれ、またしても出応えはないが、一時的に動きを止めることに成功した。


「今がチャンス!つなぎ目さえ破壊できれば!」


 しかし、何度か刺そうとしてみるもつなぎ目にはヒットしない。先にどこを狙うべきかを探そうとシルバーバルーンをのぞき込む。すると浮遊状態に戻るシルバーバルーンの上昇とかち合い、そのまま顎にシルバーバルーンの体当たりがヒットしてしまう。


「——!」


「ぐぅ、『ふれいるすいんぐ』!」


 頭が反らされるが、食いしばり転倒をこらえる。そこへシルバーバルーンの追撃が迫るが、何とか咄嗟に攻撃スキルで弾き飛ばすことに成功した。数メートルの距離まで後退するシルバーバルーン。しかし距離があればシルバーバルーンの攻撃力は上がる。こちらに向かって加速してくる。


「まだだ……!」


 俺はアイアンバンブージャベリオンを左手で根元を握り、右手で中ほどを支えるように添える。そしてこちらに向かってくるシルバーバルーンの右側面にアイアンバンブージャベリオンの先端を沿わせ、勢いは殺さず、突進の方向を左斜め後ろへ反らせる。咄嗟の判断だったが、相手から目を離さずしっかりと手を固定すれば意外とできるものだ。


 攻撃が外され、俺の後ろまで飛んで行ったシルバーバルーンは方向転換してまた俺に迫ってくる。


「見えた!そこかあ!」


 そして相手をちゃんと見ていたおかげか、シルバーバルーンのつなぎ目を見つける。顎が痛むが関係ない。あとはそこへ突きを叩き込めばいいだけだ。シルバーバルーンも速度を出し始めているので、つなぎ目にジャストで当てれば確実に外殻を破壊できるはず。


 つまり命中させればいいだけだ。


 俺は右手一本でアイアンバンブージャベリオンを逆手で握り、肩に担ぐように構える。


「いけえええええ!」


 見つけたつなぎ目目掛け、迫るシルバーバルーンに向けてアイアンバンブージャベリオンを投擲する。まっすぐ鋭く飛んでいくそれは1本の線となり、狙った場所に突き刺さる。


 ガイン!と激しい破裂音が鳴り、シルバーバルーンの外郭がきれいに真っ二つになるのが見える。さらに、アイアンバンブージャベリオンは勢いそのまま、シルバーバルーンのコアまでの破壊する。コアが破壊されたことでシルバーバルーンはそのまま光の粒子となって消えていった。


「うお、そこまでいくとは」


 戦闘中に若干の劣勢を強いられたが、結果だけ見れば圧勝と言えるだろう。地面を滑っていくアイアンバンブージャベリオンを拾いつつ、セーフゾーンへ戻り、少し痛む顎を湧き水で冷やして休憩をとる。


「やるじゃん。突きというか槍投げっていう攻撃方法だとは思うけどね」


「投げるほうが性に合っているんだよ。それに、突きの動作よりも投擲の動作の方が力が入っているような気もするし」


「まあ、それはそうだね。だって――」


 戦いの振り返りをしているステアが不意に黙る。何か言いかけようとしていたような気もするが、とりあえず問い詰めてみる。


「何か知ってるのか?ていうか知ってるだろ。言いなさい」


「あれぇ?なんて言うとしたか忘れちゃったぁ。ごめんね」


「……」


 俺は今物凄い顔をしているだろう。いい加減情報を出さないことに慣れた方がいいのだろうが、ステアは本当に何をどこまで知っているのだろうか。気になるが、どうせそれすらも教えてくれないだろうし、ここはさっさと打ち切って攻略を再開した方がいいだろう。こうしている間にも時間は過ぎているのだから。


「分かった。それじゃあ出発するぞ。一応今の戦闘でこのダンジョンに出てくる魔物は全員戦ったし、ダンジョンボスも行けるだろう」


「はーい、じゃあ残りも頑張ってねぇ」


「へっ」


 そうして俺は5階層への階段を登っていき、また走りながらの攻略を始めるのだった。

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