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38 流川たちの離脱と現状確認

「ごめんなさい」


 頭を下げ、お断りの返事をする。


「……そうか。そうだな。ソロ攻略を志すくらいだ。仕方ない、今の話は聞かなかったことにしてくれ」


 少し残念そうだが、どこか達観した表情にも見える流川。前髪を書き上げ、大きく息を吐くと、赤城と青崎を呼ぶ。


「2人とも、僕たちはここまでだ。小野寺君ならソロ攻略でも、これからやっていけるだろう。これ以上は彼のステータスアップの邪魔になってしまう。ここでお暇させてもらおう」


「ちッ、しゃあねえな。小野寺!テメェぜってぇ途中でくたばるんじゃねえぞ!」


「頑張ってね、小野寺君」


「は、はい!!」


 彼は、彼らは、強い。それはただ力が強いだけでなく、心に芯が通っている精神的な強さも持ち合わせている。おそらく本気の勧誘だったのだろう。それを断られても悪態の一つすら、言い訳の一つすらつかない。何なら激励までしてくれる。そのおかげか、少しだけ罪悪感がすく。


 最後に感謝の一つくらい言わなければ、そう口を開きかけた時、先に流川が何かを思い出したようにポーチ型のマジックバッグに手をかける。


「そうだ。今回はすでにダンジョンレベル10をクリアしている僕たちと一緒に攻略を始めてしまっている。だから、このまま君がダンジョンボスを倒してもドロップはなくなるはずだ。そのお詫びと言っては何だが、武器を一つあげようと思う」


「えっ!?」


 そう言い終わると流川は腰につけていたポーチから剣に槍に棍にと、色々な武器を取り出す。どれも高レベルのダンジョンでしかドロップしないようなものばかりだ。


「ちょちょちょ、いいんですか?」


「もちろんだ。君は遠距離にはめっぽう強い力を持っている。ただ見たところ、普通の武器は持っていないのではないか?」


 どうやら流川にはお見通しのようだ。肯定の返事を返すと、フッと笑い、好きな武器を一つ選んでくれと爽やかに言い放つ。その言葉を前に、いつの間にか罪悪感はすっと消え、憧れの武器たちが並ぶ景色に見とれる。まるで百貨店のショーケースをウィンドウショッピングしているかのような気分に浸る。

 俺の良心が、断った方がいい、せめてもっと遠慮した姿を見せろ、と訴えかけてくるが、目も前のお宝たちに目を奪われて仕方がない。どれもこれも今の俺では到底手に入れられないものばかりで悩んでしまうも、自分の武器との相性を考えて1つの武器を指差す。


「じゃあ、この『アイアンバンブージャベリオン』でお願いします!」


「ふむ、博識だな。だが、この武器はかなり重い。それで本当にイイのかい?」


「はい、ちょうど受けにも使えそうな長物が欲しかったので。本当にありがとうございます!」


「承知した。それではな、小野寺君。いつかもっとレベルの高いダンジョンで会おう」


「じゃあね」


「またな」


 『アイアンバンブージャベリオン』を俺に手渡した流川は青崎と赤城とともに俺から少し離れると『脱出のスクロース』を使い、ダンジョンから脱出していった。最後に手を振ってくれた3人に頭を下げ、ダンジョンに1人になったことを確認した俺は、複雑な感情の狭間に揺られていた。


「流川パーティの一員とか……なればよかったかなあ?でも特殊スキルのことなんて言えないし。でも槍くれたし絶対いい人だったし言っても……」


「だああああ!全く、君は終わったことにいつまで悩むんだい!」


 自分の選択に疑問を持ったり、特殊スキルを最後まで隠したことを悔いたりしていると、ステアから喝が入れられる。今までに聞いたことがないほど大きな声に、背筋を反射的に伸ばしてしまう。


「で、でも……」


「君は、何がしたかったの?どうしてその選択をしたの?」


「それは、その……」


 そこから怒涛の勢いで詰められる。言葉に詰まり、いい年して目頭が温かくなってくるのを感じる。


「いろいろ考えてたのは知ってるし、僕は君がどっちを選んでも良かった。ただ、君がその選択をしたのは僕たち(特殊スキル)が関係しているのは明白だ」


 ステアの言っていることはまぎれもない事実だ。俺は、特殊スキルなんていう世間どころか世界中を探しても出てこないであろうダンジョンの秘密を持っているのだ。それが他の誰かとダンジョン攻略するときの大きな足かせになっている。

 じゃあどうすればよかったのだろうと考えこんでしまう。


「違う、君が考えるべきは過去じゃない。未来だ!」


 しかし、ステアの力のこもった声に、俺ははっとさせられる。


「君はもう後戻りできない選択をしたんだ。特殊スキルという秘密を1人で抱え込むことと引き換えに、力の獲得と単独でのダンジョン攻略を続ける道を選んだんだ。なら、君はその選択を疑わず、道に迷わず、だた愚直に進むことをだけ考えるんだ」


「……!」


「……いい顔になったじゃないか。うじうじ悩まれるより、今まで通りやってくれるなら、僕も大歓迎だよ」


 頭の中の霧が晴れたようだ。最近はダンジョン外のイベントが次々起き、そちらに思考を引っ張られることも多かった。だが、俺はダンジョンを進み続け、ダンジョンの未知に触れ、いずれはニールセンのような英雄になりたいのだ。そして今の俺は、確実にそこへ至るための道の上にいる。


「ありがとうステア。何だが目指すべきゴールがはっきりしたよ」


「これは貸しだからね。それじゃあ出発するかい?」


「いや、その前にダンジョンについて振り返っておこう。どうやら流川さんの影響で全く何も考えずここまで来たようだからね」


 俺は『アイアンバンブージャベリオン』を振るい、槍の感触を確かめながら、ダンジョンレベル10という存在を思い出す。


「ダンジョンレベル10はこれまでと比べ、魔物の強さがさらに上がる。特にダンジョンボスは人間と同じく、何らかの『スキル』を持っていることが多い。しかもランダムで、たとえダンジョンレベル10とはいえ、『大一閃』のような攻撃スキルを使ってくる可能性がある」


「いいよ、その調子だ。まだほかにもあるだろう?」


 ステアは機嫌よさそうに合いの手を入れてくる。


「ダンジョンはレベル10ごとに何らかのギミックが追加される。ダンジョンレベル30では罠ギミックだったが、ダンジョンレベル10では『希少魔物』の追加と言われている」


『希少魔物』はその名の通り、めったにダンジョンに現れないが、どのレベル10以上のダンジョンでも出現する魔物であり、倒すとそのダンジョンを1回攻略した並みのステータスアップが発生する。この1回分の攻略とは、そのダンジョンを攻略したすべての攻略者の平均攻略時間×ダンジョンレベルN×10である。もっともこの式は本来ならもっと複雑らしく、セーフゾーンや『結界のスクロース』による結界内で過ごした時間は攻略時間に加算されなかったり、攻略者同士がフロアに散って希少魔物を探すと「×10」ではなく「×6」になったりするなど、研究によってさまざまな行動がステータス上昇量に関係してくるらしいが。

 まあそんなに難しい過程を考えなくても、ダンジョンレベル10の平均攻略時間は20時間弱になるらしいということさえ知っていればいい。しかもパーティでダンジョンの潜っているのにわざわざバラン¥バラになるということも滅多にないだろう。要するに、ダンジョンレベル10で出現した希少魔物を倒すだけで、ステータスは合計で2000程度上がるということなのだ。

 遭遇確率こそかなり低いが、倒せた暁には圧倒的な力が手に入る。


「やっぱりダンジョンはレベルが上がるごとに難易度も恩恵も上がってくるな」


「ふふ、おじけづいちゃったぁ?」


「そんなわけあるか。せっかくステアに思い出させてくれたんだ。最高速度で攻略再開だ!」


「じゃあ頑張ってね。いつも通り道案内は任せてよ」


 周りを気にせず、ただただ最短距離を進む意志を定め、俺は2階層へと進んでいく。その歩みに迷いはもうなかった。

『希少魔物』

ダンジョンレベル10以降のダンジョンすべてで極稀に出現する魔物。普通の魔物とは違い、表皮や眼など、金色に輝くため、容易に見分けることが可能。また、攻撃や反応速度、知能などが同種の魔物よりもひっやく的に向上しており、中にはダンジョンボスと互角の力を持つ場合があるため、注意が必要。倒すことで、そのダンジョンを1回攻略した際に期待できるステータスアップとほぼ同等のステータスアップが発生する。注意点として、形勢不利を判断すると逃げに徹する個体が多い。長期戦よりも短期戦を狙うことが希少魔物討伐の近道である。


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