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36 大濠公園ダンジョン その0

「それじゃあ君の力を見せてくれたまえ」


「1人でダンジョンに潜るならそれなりの実力があるんだろうな」


「お手並み拝見だね」


「どうしてこうなった(喜)」


 俺の目の前には新進気鋭の攻略者パーティの流川天馬、青崎こころ、赤城花蓮がいた。


「君、前回はよくもダンジョンレベル10にすぐ挑むなんて嘘言ったね、ん??」


「本当にどうしてこうなった(恐)」


 失礼、そしてもう1人(?)すこぶる怖いステアが並んでいた。その全員が俺を見ており、心臓がきゅっとつままれたような気分だ。流川パーティに対しては実力者と一緒に潜れるなんて、という緊張と喜びが湧き、ステアに対しては純粋な恐怖が胃を攻撃してくる。ハチャメチャな状況に俺の体はすでに負担がものすごいことになっている。


「そ、それではこれより、小野寺太郎丸の実力を証明したいと思います!」


「ンなこと言わなくてもわかってるっつーの」


「うむ、是非見せてくれ」


「頑張ってねえ」


 あまりの精神状態により、無実の潔白を声高に叫ぶ犯罪者のようダンジョン攻略スタートを宣言してしまうが、それに対して三者三様の反応が返ってくる。


「はあ。まあ僕を知らない人とパーティを組むのなら、今日はおとなしくしておくからね。案内はちゃんとするから」


「はい、お願いします!」


 この挨拶は誰に向かって放たれたものか。それすらも自分で反分からない中、ステアが何とか怒りを引っ込めてくれたことに安堵しつつ、本日4/22の土曜日の朝、ダンジョンレベル10である大濠公園ダンジョンの攻略が開始したのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時はさかのぼり、4/19の昼。水曜日の12時と言えば1週間の折り返し定点でもあり、ダンジョン攻略に精を出すまで残り半週間耐えればよい時間帯として有名だ。先週から、なぜか二階堂の後釜というあだ名がついているらしいが、そんなことは気にせずただ教室で時間が過ぎるのを待つ。


「小野寺さん!こちらパンと牛乳です!」


「あ、もしよければ靴磨きましょうか?」


 だから君たち(芳井と持林)、そうやって人に何か貢ごうとするのはやめてくれないか?さっきからほかの生徒の視線やらひそひそ声がいたたまれないくて胃が痛くなってきている。


「あの、2人ともこういうのはちょっと……」


「いえ、先週あんなことをしてしまったので、償わないといけませんので」


「靴磨きが嫌でしたら、かばん持ちでもしましょうか?」


 注意しても一向に引いてくれない2人は何とかあの時のことを償おうとしているらしい。

 あの話は結局『攻略者相互危険承認制度』によって2人ともおとがめなしになったはずだ。名前のわりにかなり緩く適用できる良し悪しの激しい制度。それによって2人は、逮捕はもちろんのこと、攻略者の資格はく奪などの罰則を受けることはなかったはずだ。


「別に2人に対して今更どう思うことはないです。僕は攻略者になるためにあの道を選んだんですから。たとえどれほど虐げられても、予定通りにダンジョン攻略者になれたので十分です」


 これは本音だ。これまでいろいろあったものの、結局全体で見ればプラスなのだ。二階堂の取り巻きだったころの彼らには金銭を取り上げらたり、ダンジョンコース最終試験では保身に走られて濡れ衣かぶせられたり、挙句真正面から脅迫暴行未遂もされたり……。あれ?なんかあまりにもひどい目に遭っている気がしてきたぞ?


「でも、そこを何とかできませんか?」


「そうです。俺たちは小野寺さんのおかげで攻略者のまま居られるので」


 過去を思い出せば、確かに彼らのやってきたことは非道だ。もちろんもう一人の取り巻き出会った織田も含めて。ただ、今はそのおかげと言っちゃなんだが、人知れぬ魔石の力を知ったり、ステアというよくわからない矢印と話すようになったり、良いことの方が多いのだ。

 それに今の2人の様子を見ていると、本当に人って変われるんだなという気持ちにもなってくる。


「じゃあ1つだけお願いをします。それでチャラってことにしてくれませんか?」


「はい!」


「なんでしょう!」


 キラキラした瞳を向けてくる2人。ホントどうして二階堂の取り巻きになんかなったのか。もし二階堂がいなかったら、どんな攻略者になっていたのか。そんな思いからか、こんなお願いをしたのだろう。


「僕らの代でダンジョンコースを修了したこの高校の攻略者の皆とともに、ダンジョン攻略に励んでください。ダンジョンコースは知っての通り、まだ開設されてからあまり時間が経っておらず、必然的に人数も少ない。なので、そんな皆と助け合ってダンジョン界隈を盛り上げてください」


「えぅ!?」


「で、でも俺たち二階堂と一緒に結構なことしてるんで、今更無理じゃないですか?」


 俺のお願いに不安そうな顔をする2人。しかし、このお願いは俺にとっても大事なものなのだ。ダンジョンや攻略者と言ったまだまだ世界にとっては新しい存在をもっと広めていくために、こういったことから少しずつ変えていかなければならない。


「何でもやると言ったでしょう。それにやったことは恐喝に金銭要求くらいでしょう。まずはお金を返し、脅したことを謝り、誠心誠意正しい道に進んでください」


「…ッ!はい!わかりました!そこまで言ってくれるなら、俺たち全力で頑張ります!(何でもやるとは言ってないけど)」


「なんで俺たちの周りはこんなにいい人が多いんだろう……!分かりました、絶対に変わって見せます!(何でもやるとは言ってないけど)」


 何とかイイ感じに話がまとまりそうでうんうんと満足気にうなづいていると、不意に後ろから声がかかる。


「やあ、元気にしてたかい?」


「あ、流川さん!」


「その節はお世話になりました!」


 すぐに流川に気づいた2人はすぐに流川へ挨拶する。すると教室にいたほかの生徒も流川がやってきたことに気づき、徐々に盛り上がり始める。


「持林君、芳井君。もう変なことはしていないだろうな?」


「はい!」


「もちろんです!それに小野寺君に新しい目標も見つけてもらいました!」


「そうか、それは素晴らしい。その調子で頑張ってくれたまえ。それはそうと小野寺君。今日は君に用があってきたんだ」


 何があったか知らないが流川になついている2人を眺めていると、流川が急にこちらへ目線を向けてくる。優しそうなイケメンフェイスを向けられなんだなんだと思っていると、思いもよらぬ一言目をかけられる。


「君、1人でダンジョンに潜っているそうだね」


「ひゅっ!」


 その声は静かではあったが、こちらを探る気配が多分に含まれていた。どこでバレた。俺は1人でダンジョンに潜っているなんて誰にも言ったことがない。ちらりと持林と芳井の方を見るとさっと顔を反らす2人。一体どこで2人にバレたんだという思考に陥ってしまう。


「ふむ、おそらく、君の中でどこでバレたという無駄な思考が走っているだろうが、今はそれは関係ない」


 ステアでもないのに俺は心理を言い当てられ、ぐうの音も出ない。じゃあいったい何が重要なんだと言いかけると、それを制するように流川が口を開いた。


「僕は君が心配なんだ。ダンジョン攻略は常に危険と隣り合わせ。それゆえに仲間が隣にいなければ、危険を跳ねのけることなどできない。僕はそう考えている」


 突如始まった流川の正論にぐうの音どころか息の根でも止められるんじゃないかと顔面蒼白になる。確かにダンジョン攻略は複数人が大前提であり、よっぽどの理由がない限りは皆パーティを組む。ただ俺にはそのよっぽどな理由(特殊スキル)があるわけで。なんて必死で頭の中で言い訳をしていると、その様子に気づいた流川は慌てて謝ってくる。


「すまない!別に君のやり方を全否定したいわけではない。ただ本当に心配なんだ。君が本当に1人でもダンジョンを攻略できるのか。だから、これは僕のお願いだ。今君がいける一番レベルの高いダンジョンに僕のパーティもついていかせてほしい!」


「え?」


「え」


「「「えええええええええ!!」」」


「ま、マジですか!?小野寺さんうらやましいです!」


「いいなあ!これは腕の見せ所ですよ、頑張ってください!」


 突然の流川の頼みに思わず叫ぶこちら側の3人。なんとあの流川と一緒にダンジョン攻略できるのだ。ダンジョン攻略者冥利に尽きる申し出に、俺は先ほどまでの陰鬱さをすっかりと忘れる。


「い、いいんですか!?皆さんとダンジョン攻略なんて!」


「もちろんだ。君が1人でもダンジョン攻略を続けられるかどうか、見極めさせてもらう」


「は、はい!!」


「それじゃあ今週の土曜日の朝、君の指定するダンジョンに集合だ。どのダンジョンが良いか決めてくれるかい?」


「え、じゃあ大濠公園ダンジョンでお願いします!」


「え?」


「え」


「「えええええええええええ!!」」


 流川と一緒にダンジョン攻略できることで有頂天になっている俺は特に何も考えず条件反射でそう答える。するとそれを聞いた持林と芳井が二度目の驚愕の声を上げる。


「大濠公園ダンジョンってレベル10じゃあ……」


「いや、でもあの小野寺君の喜びそう。マジっぽいよな……」


「……なるほど、確かにこの早さでダンジョンレベル10に挑めるとは、さすがにソロ攻略をしているだけあるね」


 俺は周りの声など気にもせず、週末のダンジョン攻略に何を持っていくか考え始めていた。憧れの攻略者とダンジョン攻略など一生を通じても起こるか分からないイベントだ。先ほどまでのことは一切忘れ、ただその嬉しさに浸っていく。


 もしここで空気を読み、もっとレベルの低いダンジョンを指定していれば、俺の人生はまた違ったものになったかもしれない。しかし、そんなことはつゆ知らず、俺は気分上々で週末を待つのだった。

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