34 3ヶ月ぶりの再会 その1
4/15の土曜日。芳井と持林から襲われたり、かと思えば翌日には教室でいきなり平身低頭で謝られたり。挙句、教室のほかの生徒から「あいつは不良を従える次の二階堂だ」という絶句物のイメージを持たれたりと、激動の1週間を終え、土曜日日曜日が再び始まった。
平日の縛りから逃れ、ダンジョンへ心置きなく挑戦できる週末になり、今日も今日とて県外まで足を延ばし、広島は大竹までやってきた。ダンジョンレベル9は自宅からもっと近い場所にもあったが、ダンジョンボスのドロップ品が今後の攻略作戦に持ってこいと判断してここまでやってきたのだ。
そして始まったダンジョン攻略。ダンジョンレベル8とほとんど変わらない魔物やステアの案内によってほとんど苦戦することなく最奥一歩手前までやってきた。ここまでおよそ2時間である。ダンジョンボスのいる階層の手前のセーフゾーンで『クレッセントダブルダガー』の手入れしながら使い心地を振り返りつつ、ステアに今後の攻略作戦を伝えることにした。
「なあ、ステア」
「どうしたの?」
「これからさ、ダンジョンレベル9のボス戦じゃん」
「うん」
「このままボスを倒せばダンジョンレベル10に挑めるようになるけど、そろそろ魔石の摂取を再開しようかなって」
最近おろそかになっていたが、俺の目標の一つでもある特殊スキルをたくさん手に入れるというものを、再び狙って動こうとしていた。
「大丈夫?魔物も一気に強くなってくるけど、おなかが空いて力が出ないって言い訳は通用はしないよ?」
「それについてはちょっと考えがあるんだ」
「……ああ、ここのダンジョンボスが『バフポーション』を5個落とすから、それを使ってダンジョン内でおなかが減るのを粘る作戦だね。いいんじゃない?」
「……」
せっかく夜なべして考え付いた作戦なのに即言い当てられて真顔になる俺。
この作戦は昨日見た『博多ダンジョン』攻略動画で、バフポーションを飲み、ステータスを底上げして魔物と戦う『夜叉天クラン』の攻略者を見ていて思いついたのだ。
『バフポーション』とはその名前の通り、一時的にステータスを強化して戦うことができるのだ。ものによって効果は様々だが、今いる『大竹ダンジョン』のボスドロップでは追加攻撃力のステータスを1時間ほど1.1倍にするという優れモノだ。もちろん原理も未解明である。
そんな攻略者からすると喉から手が出るほど欲しそうな効果を持つ『バフポーション』ではあるが、欠点が一つだけある。
それが俺の目的でもある『空腹状態』になることだ。
研究が行われている中で何とか判明したことではあるが、どうやら『バフポーション』は体内で人が食べたものをほぼ一瞬で溶かしてしまうらしい。つまるところ、それによってバフポーションを飲んだ人は異常な空腹に襲われるのだ。一戦だけの大事な戦いでは有効かもしれないが、長時間のダンジョン攻略中に飲むようなものではないとされている。
ただ、今回はその副作用の方の効果に目を付けたのだった。
「まあ、そんなところだ。『バフポーション』は研究のためそこそこの値段で売れるが、今回は空腹になる作用を逆手に取った作戦をしようと思ってな」
「ダンジョンレベル10にもなればダンジョンは更に広く、敵も手ごわくなるからねぇ。安全にかつすぐにおなかが減るなら!って考えたんだ」
「言わんでもわかってたようだけどな」
「まぁねぇ」
得意げに語るステアに対し、さすがよく分からん特殊スキルなだけあるなあと思いつつ、『クレッセントダブルダガー』の手入れも終わったので、ダンジョンボスに挑むことにした。
「何はともあれ、まずはここのボスを倒さないと話にならないからな」
「じゃあ頑張ってねぇ。よく分からん僕からの応援だよ」
「勝手に心読むな!」
そして階段を登り、俺は大竹ダンジョンのボスと戦うのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、難なく勝った俺はダンジョンボスが光の粒子となって消えていったのを確認すると、その場に残る5つの『バフポーション』を回収する。透き通るような黄色の液体に満ちたコルクで栓のされている試験管のような容器を研究者のように眺め、しばし恍惚に浸る。
「ふふ、これで俺の作戦は完ぺきなものになったな。効率にダンジョンを巡れるようになればそれだけ早く上のレベルに挑めるし」
「じゃあ次はダンジョンレベル10だね。また来週かな?」
バフポーションを眺め終え、容器が割れないよう慎重にマジックバッグへ収める俺に、ステアはそう問いかける。
「いや、せっかく中国地方まで来たからすぐ近くのレベル10のダンジョンに挑もうと思うよ。遠出で資金もかなり減っちゃったから、早めに稼ぎたいし」
「それもそうだね。じゃあ待ってるから次もよろしくね」
「じゃあまたな」
そしてダンジョンから脱出後、受付で魔石だけ売却し、小腹だけ満たして次のダンジョンへ向かうことにした俺は近くの喫茶店へと立ち寄る。
今の手持ちはギリギリ1,000円届くかどうか。もし今自宅に帰らなければならなかったとしたら、俺はあの生活費に手を出さなくてはならないだろう。
「まあ、そんなことはないだろうけど」
カフェラテを飲み、『博多ダンジョン』攻略の最前線が15階層であることや某国がダンジョンレベル36に挑むことを発表したなど、色々なダンジョン情報を集める。たまにはこういうゆったりした過ごし方も悪くないなと思いながら、午後一の時間を楽しんでいた。
その時だった。
『兄ちゃん!今から父さんと母さんが日本に帰るって言ってる!多分明日の朝には着くと思うから急いで準備した方がいいと思う!』
「ぶふっ!!」
せっかく優雅に飲んでいたカフェラテを吹き出しつつ、俺は大慌てに返事をスマホに打ち込む。周りからの視線が痛いが、やむを得まい。
『なんで急にまた!?確か夏までは帰らないんじゃなかったか?』
『いつもの気まぐれだよ。寿司が食べたいとか、日本でインタビューがあるとか言ってる』
俺は頭を抱える。今俺が自由なのは近くにあの両親がいないからだ。昔は俺のことを無視する程度だったが、弟とともに世界を飛び回るようになってからは家の家事も押し付けられるようになっていた。実質一人暮らしみたいなものなので、やること自体は構わないのだが、少しでも甘いところがあれば怒鳴りつけてくることがあるのが厄介だ。それにそもそも家にいないと家事をしていない扱いをされ、変なやっかみを受けるだろう。
『もしかして兄さん外出してる?』
『そうだよ。今大竹ダンジョンってところに行ってた。広島の』
『ええ!?じゃあ今から帰らないと……』
『仕方ない。せっかくの土日だけど帰宅する。じゃないと何されるかわからないからな』
『ごめんなさい、兄さん……』
『お前が謝ることじゃない。何、ちょっと家を片付けて掃除しておけば何事もなく終わるって』
そう伝えて俺はすぐに店を出る。せっかくのダンジョン日和だが、家に帰るしかないだろう。やはり変なフラグは経てないほうがいいなと思いながら、帰宅のための交通費に足りないお金を生活費の入った口座から引き落とし、午後3時には自宅へと帰った。
そこからは時折弟から心配の連絡が届くが、掃除に片づけを優先して手際よく進める。両親に変なことは言われないよう細かいところまで気を付け、何とかその日のうちに支度を終えるのだった。
???
「よくも僕の兄さんの邪魔を……」




