32 被追放者たち
土曜日、日曜日と時間をかけ、じっくり佐世保ダンジョンを攻略できた。今回の遠征では移動費、宿泊費、食費etc…、諸々で1万円ほど出費があったが、魔石とゴブリン剣士の『魔物の装備品』ドロップのおかげで最終的に2,000円の黒字となった。親からの与えられた生活費に手を出す必要が無くなって一安心した。
とはいえ、ダンジョン攻略者として稼ぐにはまだまだ上を目指さなければならないのも事実だ。そのことをしっかり胸に刻んでおく。そうして1泊2日の佐世保ダンジョン攻略を完了させ、本格的に授業が始まっていく学校のため、泣く泣く福岡へと舞い戻ったのだった。
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そして福岡に戻ってから、何事もなく3日が過ぎた。
先週に引き続き、二階堂とその取り巻きは学校には姿を現さなかった。少しでも早く高いレベルのダンジョンに行くため、ダンジョンを攻略しているのだろう。高校と言う枷に縛られず、自由に攻略者として動いている姿は、正直に言えばうらやましかった。
そのため、ダンジョンから離れざるを得ない間、学校の昼休みは図書室へ通い、部屋の隅の開いている窓から『ダンジョンコース』を受けている生徒の姿を眺めるのが日課になっていた。偶々この場所からダンジョンコースの見学ができることに気が付いたときは無意識にガッツポーズをしていた。
ダンジョンコースは座学と基礎体力づくり、そして戦闘訓練が主な学習体系に組み込まれている。一般の生徒が昼休憩をとっている時間は、たいてい戦闘訓練をしていた記憶がある。そして俺が今見ている光景も、まさにその訓練中といった状況だった。
「いいかい?ダンジョンの中ではいつ敵と遭遇するかわからない。しかし移動も同時に行い続ける必要もある。だから、移動しつつも戦闘態勢を整えている状態を維持しなければならないんだ。武器は持っておくかすぐ取り出せる位置に装備しておき、そこから素早く敵へ攻撃を当てる動きに慣れておくんだ」
よく通る声の流川の話を、1年前にも聞いたことがあるなあと懐かしみながら、その様子を眺める。
そもそも武器を握るということに慣れていない攻略者志望の生徒に、1人1人丁寧に指導していく流川を見て、専門外のはずなのに熱心だなと感心する。
そんな感じでわずかにでもダンジョンの香りがしそうな場所で時間をつぶしていると、そろそろ昼休みの終わる時間が近づいてくる。名残惜しいが仕方がないと、自教室に戻ろうとすると、後ろから少し乱暴そうな口調で声かけられた。
「おい、小野寺。ちょっと面貸せよ」
「お前に拒否権はねえからな」
二階堂ほど傲慢さを感じはしないが、明らかに俺を見下しているような口調。振り返って姿を確認するとその声の持ち主たちは、二階堂の取り巻きの持林と芳井だった。てっきり二階堂とダンジョンに行ってるものばかりだと思っていたので、ここにいることに少し驚く。よくよく見てみるとところどころ包帯や絆創膏をしているので、織田みたいにケガで戦線離脱しているのかもしれない。
ただ、だからと言ってさっきの言葉に素直に従うかと言われたら少し悩む。今まで遜っていたのは、あくまで二階堂、ひいてはその父親である有名攻略者の名声と権力があったからだ。もし彼らが二階堂の指示で動いているのなら、本当は嫌だが従わなければならない。
何も知らないふりをしてその辺りを探ってみる。
「それより二階堂さんはどうしたんですか?別行動ですか?」
「ッ!うるせえ!そんなことはいいから黙ってついて来い!」
持林が急に大声を出し、俺の胸倉をつかんでくる。その様子から何かあったなと推察するが、具体的なところまではわからない。しかし、なんとなく二階堂は近くには居なさそうな雰囲気を感じ取れた。
「あ、あのー、図書館では静かに……」
「ああ!?今取り込み中だ!見て分かんねえのか!?」
「ひっ……!」
「すみません。今出ていきますので。……で、どこに行けばいいんですか?」
うるさくしていたせいで図書係らしき生徒が注意してくる。
それを持林が怒鳴りつけるので、さっさと場所を移すことにした。拒否しても俺に問題は振りかかってこない気がしたが、他の生徒に迷惑がかかるなら、俺が対応するしかないだろう。こうなるくらいなら初めから移動した方が良かったかもしれない。
少しだけ反省しつつ、持林に引っ張られる形でその場を後にした。
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すでに昼休み終了の予鈴が鳴っている中、体育館の裏側まで連れていかれた俺は、いつぞやの支度金カツアゲの時のように壁際に詰められていた。
あの時と違うのは二階堂がいないことと、取り巻きの織田がいないことだけだろうか。
「小野寺、こうして呼び出したのは他でもねえ。二階堂さん、いや、二階堂の奴をぶっ潰す手伝いをしろ」
「は?」
なんて思い起こしながらカツアゲでもされるのかと身構えていると、全く別の話題が飛んできた。しかもその内容は二階堂の取り巻きとは思えないようなものだった。あまりに想定外の話であり、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。ただいまいち状況がつかめないので、少しだけ踏み入って問うてみる。
「いったい何があったんですか。それに二階堂さんにぶっ潰すって、僕には関係ないじゃないですか?」
「アホか!あの時の、二階堂井のマジックバッグがなくなった時の話、忘れたとは言わせねえぞ!?」
「あー、あれか。でもあれって確か……」
持林が怒鳴りながら、ダンジョンコース最終試験の時に起こった事故(?)について蒸し返してくる。誰だったか、取り巻きのうちの一人が自分のマジックバッグに二階堂のマジックバッグを入れて消滅させたという出来事のことだろう。しかし、あの時のことを思い出すと、俺は注意した方であり、しかもそのあとその罪を擦り付けられてぼこぼこにされた被害者のはずだ。
それが何がどうして二階堂への復讐の協力を頼まれることになるのだろうか。
「いいから黙って協力しろ!さもないと、痛い目に遭わせてやる……!」
芳井が指の骨を鳴らし、俺に詰め寄ってくる。
本当に話が見えないので、両手を上げて敵意がないことを示して説明を求める。
「なんで僕が手伝うかわからないです。だってあの時、僕はあなたたちに濡れ衣を着せられて痛めつけられた側で……」
「バレたんだよ。二階堂に、全部な」
「あっ、あーなるほど」
つまりこういうことだろう。直近のどこかで、取り巻き達は二階堂のマジックバッグを消したのは自分たちであるとバレた。その事実に激高した二階堂が取り巻きを痛めつけたのだろう。彼らの包帯はその時の傷だろうか?
そしてそのことに逆切れした取り巻きが仕返しをしたいがために、一番御しやすそうな俺を脅迫している。という流れだろう。正直自業自得というか、俺は関係ない話なのでそういうことに誘ってくるのはやめてほしい。
「さんざん俺らを殴りやがってよ、挙句俺ら全員パーティを辞めさせられた。二階堂は親の力を借りて優秀な攻略者のパーティに入れてもらうっつってよ」
「こんなあっさり辞めさせられてよ、しかも武器も防具も盗られちまった。こうなりゃ、ヤケだ!あいつをぼこぼこにしねえと気が済まねえ!」
なんという奴らだろうか。正直二階堂もまあ二階堂だが、取り巻きも取り巻きだ。アホなことしてるとしか思えないが、それに俺を巻き込まないでほしい。
「悪いけど、協力できません。俺にだってダンジョン攻略する仲間がいるし、二階堂さんに逆らって無事で済むはずがないでしょう。僕は僕を守るためにあなたたちに協力しません」
俺は2人の間を縫ってその場を去ろうとする。
「待てよ!俺は知ってるんだぞ。てめえに仲間なんかいねえってな。この前織田がダンジョン攻略中に怪我した時、脱出した先の施設で、お前が1人でダンジョンから脱出してきたのを見てるんだよ!」
しかし、その途中で肩を掴まれ、聞き捨てならないことを言われる。
「どうせお前を守ってくれる奴なんていねえんだからよ。……別にお前を先にやったっていいだぜ?もしお前が協力しないのなら、お前を無事に返す必要がねえからな。お前がボッチ野郎で助かるわ!!」
「ああ??」
挙句、好き勝手言われ、さすがにこちらも頭にきた。何なんだこいつらは。いつもいつも人の邪魔ばかりしやがって。あと誰がボッチだ。ステアっていう仲間くらい俺にはおるわ!
俺は肩を掴まれている芳井の手を握り返し、力任せに振りほどく。
「あ?てめえ何しやがる!?」
「いい加減にしろよ?お前らの足の引っ張り合いに俺を巻き込むなって言ってんだよ。人がまじめに攻略者をやってるのに、いつまで邪魔するんだ?大体、二階堂がいないお前たちに従うわけないだろ?どうして俺がダンジョンコース受けているときにお前らに媚びへつらってたと思ってんの?なあ!?二度と俺にかまうなよ。こっちだって忙しいんだ」
「な、てめえ!」
「言わせておけばてめえ、好き勝手言いやがって!ぶっ飛ばしてやる!!」
「そっちもボッチだの仲間がいないだの言ってただろ!」
「事実だろうが!!」
「ッ!!!!上等だ、2人まとめてかかってこい!」
売り言葉に買い言葉。ヒートアップした言い合いはすぐに拳の出し合いに変わった。
先に殴りかかってきたのは芳井だ。二階堂の取り巻きだったとはいえ、俺以上に恵まれた体躯を生かし、俺の左こめかみを狙ってパンチを繰り出す。
「振りがでけえよ!」
しかし、俺には通用しない。
ダンジョンコースをまじめに受けていた俺は、対人術も学んでいる。ダンジョンの中でのステータスアップの恩恵や武器を便りにしているような奴らとは違い、ちゃんと戦い方の技術を理解して実践しているのだ。
芳井のパンチを繰り出している手を左手で内側から外へ弾き、左足を軸に体を前に出す。その勢いのまま、がら空きとなった芳井の顎に右掌底を食らわせる
「なっ!?がっ!!」
流れるような動作に攻撃一辺倒だった芳井は反応することすらできず、背中から地面へと倒れる。
「死ねッ!!」
「ぐっっ!」
それとほぼ同時に持林がそれの死角から蹴りを入れてくる。慌てていたのか、クリティカルな当たりではなかったが、背中側から蹴られた俺はそのまま前へ転がって移動し、一旦距離を取ってその場にしゃがみ込む。
「生意気な野郎だ!さっきの話は無しだ!お前も二階堂もぶっ潰す!」
「できもしないことは言うもんじゃない!二階堂の後ろ盾もないし、ここでお前らはおしまいだ!」
「黙れ!」
俺がしゃがんでいるのを、蹴りが効いていると判断したのか持林はこちらに向かって走ってくる。
そして距離が詰まったところで、俺は足元に落ちていた石を持林の目にゆっくり向かって放る。
緩やかな放物線を描いて飛んでいく石。持林は徐々に近づく石に対し、急ブレーキを踏みながら反射的に両手で顔を覆う
「は!?てめっ!」
「ちゃんと防げるよう速度調整したに決まってるだろ。おかげで腹ががら空きだ」
「があああ!!」
すぐそこまで迫っていたおかげで、一歩踏み込むだけで十分の間合いだった。全体重を乗せて、持林の腹を殴ると、大きな断末魔を残して、その場で崩れ落ちてった。
「まだだああああ!」
「まだやるのか、芳井」
気づけば掌底を食らわせたはずの芳井が立っていた。頭か視界が揺れているだろうにタフな男だ。ドスドスと大きな足音を立ててこちらにやってくる。それに対し、カウンターでもう一度沈めようと構えた。
その時だった。
「君たち!ここは学び舎だぞ!喧嘩をする場所ではない!」
「え?」
いつの間にか目の前には流川がいた。それも芳井の両の拳を止めた状態で。
つい一瞬前まではこちらに向かってくる芳井しか視界にいなかったのだが、本当にいつの間にかその芳井を止めた流川がいたのだった。
『小鬼の鉄剣』
ゴブリン剣士の『魔物の装備品』ドロップ。切れ味の鋭い鉄の剣で、人間用と比べるとやや短いが実用性は高い。刀身には意味不明な紋様が刻まれており、一部研究者からはダンジョンにおける魔物識別印ではないかと言われている。初心者攻略者用の武器として人気があり、「はじめの一本」と呼ばれることも多い。売却価格は4,500円前後。
『クレッセントダブルダガー』
二本の短剣を装備したゴブリン剣闘士の『魔物の装備品』ドロップ。三日月を思わせる湾曲した双短剣で、鋭さと取り回しを重視した独特の形状をしている。左右対称の刀身には意味不明な紋様が刻まれており、『小鬼の鉄剣』同様、魔物識別印ではないかと言われている。実用性の観点からだと「見た目以上に癖が強い」と評されるため、観賞用として用いられることも多い。売却価格は18,000円前後。




