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31 佐世保ダンジョン その2

「グオオオオオォォ!!」


 階段を登り終え、部屋の中心にたたずむその姿を目に収めると同時に、そいつは襲い掛かってきた。


 ギィィンと鈍い金属音が響く。


「簡単にはやられねえよ!おらあ!」


 頭上から振り下ろされた三日月のように光る2本の短剣を大金槌の柄でまとめて受け止める。押し込まれるような形だが、腕力ではこちらが上だと確信する。そのまま力に任せてダンジョンボス『ゴブリン剣闘士』を武器諸共押し返す。強制的に距離を取らされたゴブリン剣闘士は即座に短剣を構えなおす。受けから始まった一瞬の攻防だったが、ゴブリン剣闘士を見事いなすことに成功した。

 

 互いに一呼吸置き、俺は静かに敵を見据える。

 

 ゴブリン特有の緑肌に粗末な布がまかれているが、その布の下には強靭な筋肉が見え隠れしている。身長も2メートル近くあり、あの二階堂よりも巨漢に見える。両手には三日月のように反り返った刃の短剣がそれぞれに握られており、銀色に輝いている。

 不意を突いた一撃をあっさりと止められたことを警戒してか、まだ攻撃は飛んでこない。


「じゃあ、次はこっちの番だあああ!『ふれいるすいんぐ』!」


 ならばこちらから仕掛けようと、俺は強く踏み込み、相手の間合いに詰め寄りながら大金槌を横なぎに振るう。


「ゴオオォォ!」


 ゴブリン剣闘士はそれを2本の短剣を重ね合わせながら受ける。


「しゃらくせえええ!」


 短剣と大金槌が再びぶつかり合い、またも鈍い金属音が辺りに響く。

 ゴブリン剣闘士は力では勝てないと悟ったのか、受けから反らしに切り替える。


「ぬっ、じゃあ次は『すらむだむん』!!」


 上手く大金槌の勢いを反らされ、あらぬ方向へ流されそうになるも、即座に次の攻撃スキルを放つ。

 強制的に振り下ろしの動作へと移り、次はゴブリン剣闘士の頭上を狙った攻撃が放たれる。

 息もつかせぬ連続攻撃にゴブリン剣闘士は再び受けざるを得ない。


「初撃のお返しだああ!」


 ゴブリン剣闘士の頭上に大金槌が迫る。しかしそれがゴブリン剣闘士の頭に振れるよりわずかに早く、交差した短剣が大金槌の柄を受け止める。その瞬間。


 ガギィッ――バキン!


 火花が散りそうなほど激しい接触の末、大金槌の柄が派手に千切れ、先端の槌がゴロンと地面へと転がり落ちる。


「は?まじか!くそっ!」


「ガアアア!」


 一瞬呆気にとられるも、それを好機と見たゴブリン剣闘士が振るう短剣を、残った柄の部分で牽制しながらバックステップで距離を取る。柄の先をちらりと目線をやると、少し荒いが斜めに斬られたような断面が見えた。


「ただの短剣じゃねえな。いいな、それ」


「ガアアアアアァァ!」


 俺の武器が破損したのをしっかりと確認したゴブリン剣闘士が迫ってくる。鋭い切り裂き攻撃がいくつも切り結ばれる。細かくステップ踏みながら下がって躱していくも、短くなってしまった大金槌ではもう受けることはできない。ならばいっそとその柄を上へと軽く放る。


「ゴア?」


 時間にしてわずかコンマ5秒ほど、ゴブリン剣闘士の意識が上空の柄へと向く。


「避けれるもんなら避けてみな!」


「グギャア!」


 一度しゃがみ、両手をクロスさせて腰に付けた2本のナイフを掴み、同時に投げる。それらは見事ゴブリン剣闘士の両手に刺さり、短剣を2本とも手放させる。ナイフが貫通した手では短剣を握ることなどできないだろう。——お互い素手となったこの状況ならば、あとは直接拳で決着をつけるしかない。


「グガアアァァ!!」


 そう思ったのか、一気に俺に近づこうとするゴブリン剣闘士。だが、武器がないのはお前だけだ。俺の頭上から先ほど投げた柄が降ってくる。俺は()()()()()()()()()()で右手を大きく振りかぶる。そしてまさに投擲動作を開始する瞬間に、右手に柄がすっぽりと収まる。まるで初めからそこに置かれることが決まっていたように、落ちてきた柄を握り、捩じった体のバネを開放する。


「トドメだあああ!」


 圧倒的な地力の差を見せつけるように、時速200キロメートル近い速度で柄が飛んでいく。ゴブリン剣闘士はそれを辛うじて認識するも、圧倒的なその速さの前に身を守ることすらできず、斬られた柄の先端に眉間を貫かれ、光の粒子となって消えていった。


「おっけえ!思った以上にうまくはまったなあ」


「やっぱりアレ、狙ってたの?」


 戦闘が終了したと同時にステアが話しかけてくる。


「最後素手でも向かってこられたところ以外はな。ナイフで怯ませたところに、大金槌の残骸を間髪入れず打ち込もうって思ってたんだ。まさか怯むどころか襲い掛かってくるとは、さすが剣闘士ってところか」


「まったく、君のその投げの精度にはいつも驚かされるよ」


「これくらい朝飯前だって。それよりドロップアイテム拾わないと。事前情報通りならここは……」


 勝利に浸りって戦いを振り返りながら、俺はドロップ品を探す。ここ、佐世保ダンジョンの初回ダンジョンボス攻略報酬は『魔物の装備品』ドロップだ。今まで武器らしい武器を持っていなかった魔物からは皮やよくわからない物質が手に入っていたが、ゴブリン剣闘士は違う。

 ゴブリン剣闘士の消えた後に残っていたのは、先ほど手放して地面に落ちていた三日月のような2本の短剣だった。

 ゴブリン剣闘士はそもそも個体ごとに装備している武器が異なる。そのため、『魔物の装備品』ドロップと言っても個体ごとに別の武器がドロップするのだ。今回は偶々2本の短剣だったということだ。


「おお、綺麗な短剣だなあ。ほらステアも見ろよ。この見事な湾曲型。相当イイものだぞ、俺の大金槌斬っちゃったし」


 光を反射する短剣を色々な角度から観察する。その美しさとダンジョン産というプレミアに酔い浸る。無意識に笑みがこぼれ、何度目かの攻略者になってよかったという思いに耽る。


「それよりそろそろ脱出だよ。ステータス見といた方がいいんじゃないの?ねぇ?」


「それもそうだな。じゃあこの2本の短剣は大金槌の代わりにもらっておくわ、ゴブリン剣闘士。それじゃステータスオープン」


 短剣と大金槌の残骸である柄と槌をマジックバッグへ入れ、最後にステータスを確認する。


 ===============

 なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる

 とし:16

 しゅ:ひと

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ついかこうげきりょく:421(+30)

 ついかぼうぎょりょく:403(+29)

 まなりょう:285(+25)

 ついかいどうそくど:368(+34)

 ついかまほうこうげきりょく:348(+26)

 ついかまほうぼうぎょりょく:488(+31)

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ふれいるすいんぐ

 すらむだうん

 かうんたーばらんす

 ついかこうげきりょく1.1ばい

 ついかぼうぎょりょく1.1ばい

 ついかいどうそくど+100

 ついかまほうぼうぎょりょく1.2ばい

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 あじゃすとうぉーく

 わーどらんげーじ

 すとろんぐあーむ

 すてあさーち

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 さいだいだんじょんれべる:8

 だんじょんこうりゃくりれき:『させぼだんじょん(8):11かい』

『あしきただんじょん(7):9かい』

『やまがだんじょん(6):7かい』

『かみやまだだんじょん(5):6かい』

『すみよしだんじょん(4):6かい』

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ===============


「おおおお!?パッシブで1.2倍効果!?これはめちゃくちゃめちゃくちゃだ!!」


「何言ってるの?もうまともにすら話せなくなっちゃった?」


「ふふふ、なんとでも言うがいい。いいか?パッシブで1.2倍は世界でもかなり珍しいものなんだぞ?攻略者100人に1人程度しか、初期のパッシブスキルで1.2倍の効果のあるものは持っていないんだぞ?しかもこれが『成長』なんかしたら、これもう……うへへへ」


「はいはい、そろそろ静かにしようか。人様に見せられない顔しているよ。……もっと凄いのがいるのにねぇ」


「ん?今なんか言った?」


「いいや、じゃあダンジョン脱出だけど今日はもう終わり?」


「いや、もう1周はするよ。佐世保観光したいけどお金もないし、稼ぎ目的で周るよ」


「じゃあ次もよろしくね」


 その言葉を最後に、辺りが暗転し、俺はダンジョンから脱出するのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、ドロップ品の短剣は大金槌の代わりとして武器にするために売らず、道中で手に入れたいくつかの魔石を売りはらい、再び佐世保ダンジョンに入っていった。

 その回では5時間ほどかけてゆっくり(当社比)ダンジョン攻略し、魔石とゴブリン剣士の『魔物の装備品』ドロップである鉄剣1本を手に入れつつ、その日のダンジョン攻略は終了した。



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