30 佐世保ダンジョン その1
始業式の翌日。北南高校は大盛り上がりだった。
昨日、流川とその仲間たちが高校に現れ、なんでまた有名攻略者が学校に?という話題が持ち上がったが、今日その理由が判明した。
どうやら北南高校のダンジョンコースの特別臨時講師として雇われたようだった。流川の実力を考えると講師程度でいいのかとも思うが、彼らが納得しているのならいいだろう。流川や赤城、青崎のおかげでダンジョンコースを志望する生徒が今日だけで10人以上増えたらしいし、理由がどうあれダンジョン攻略者が増えるのであれば俺にとってもうれしい限りだ。
だから別に俺も1年遅くダンジョンコースを受けていたら超強い攻略者の授業を受けれたのになあ、なんて思っていないからな。
そしてついでにこんなうわさ話も聞いた。北南高校の特別臨時講師を請け負う流川は、ダンジョン攻略者としては、博多周辺をしばらくの間拠点とし、九州の高レベルダンジョンを攻略していくらしい。いずれはダンジョンレベル30を攻略する英雄を目指してとのこと。日本にあるレベル30のダンジョンは博多以外にもあるが、やはり今ちょうど攻略されている『博多ダンジョン』に近くに来るのはそれだけで良い刺激が受けられるのだろう。
噂は噂だが、ダンジョン攻略者としてそう思ってもおかしくないだろうなと俺も思う。いつかは追いつき、そのまま追い抜くつもりなので、その壁として流川パーティには一層ダンジョン攻略にも気合を入れてほしい。
閑話休題。
北南高校が流川の噂で持ち切りになっている中、俺は昨日のように教室の事績でうつぶせていた。昨日は二階堂のせいで少し注目を浴びることになってしまったが、本来の俺は誰にも話しかけられることのないボッチである。
それに今日は二階堂達もいなかった。多分だが、昨日流川と会ったせいだろう。今頃どこかのレベル6のダンジョンでも攻略しているのではないだろうか。そのため平和と引き換えに孤独を手に入れたは、早く明日の土曜日になってくれないかなと思いながら1日を過ごしたのだった。
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そうしてやってきた土曜日。日付は4/8と4月の陽気がだんだん鬱陶しく感じ始めるころ、俺は博多発のリレーかもめに乗って長崎は佐世保を目指して移動していた。
朝早く泊りがけの準備をし、朝飯もしっかり食べ、準備はほぼほぼ万端と言った状態だった。
今朝の『博多ダンジョン』関連のニュースでは、『蒼月団』などダンジョン攻略から脱落したクランへのメディア集中がひとしお目立っているくらいだ。団長を失ったり、攻略失敗で自信を失っていたりするだろうからそういうのはやめればいいのにと思う一方、なぜダメだったのかについては、いずれ高レベルのダンジョンを攻略したい身として聞いてみたい気持ちもある。
こういうやつがいるからメディアが彼らに群がるんだろうか。やはりそれはよくないなと思い直しつつ、スマホでダンジョンの情報をあさるのだった。
そんなこんなで2,3時間ほど時間が経ち、途中で乗り換えもしながら無事佐世保理到着した。
今日の目的はダンジョンレベル8の佐世保ダンジョンの攻略である。土曜日ということもあり多くの攻略者であふれかえっているダンジョン管理施設に入り、攻略者証明書の提示とデバイス受け取りを終わらせ、他の攻略者パーティに囲まれながら順番を待つ。ちらりと周りの攻略者を見ると、これまでのダンジョンと比べて重厚な装備に身を包む攻略者が多い。しかも新品のような艶や光沢も彼らの装備からは見受けられる。
それもそのはず、このダンジョンでは、一般の魔物に『ゴブリン剣士』が出現するのだ。
『ゴブリン剣士』と言えば百道浜ダンジョンのダンジョンボスで、剣を武器に持つ魔物だ。ダンジョンボスだったころは面と向かい合ってお互い呼吸を整えてからの戦闘だったが、このダンジョンではそうはいかない。
フロアの曲がり角で突然で食わす可能性だって0じゃない。そういった最悪のケースまで考えてちゃんとして装備の攻略者が増えているのだろう。それにこれからもっとダンジョンレベルが上がればゴブリン剣士のような武器持ちの魔物も一般魔物として出現するダンジョンも増えていく。このタイミングでの装備更新というのも普通の話なのだろう。
俺?もちろん金なしの俺は初期装備のままだ。だからか時折、こいつ大丈夫か?のような心配の目線をいただいている。多分大丈夫。
たくさんの視線を浴びながら数十分も待てば自分の番がやってくる。
入場受付の人に1人パーティであることを伝え、何度目かの心配そうな目線をいただき、そのまま佐世保ダンジョンへ入っていった。
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ダンジョンに入り、辺りが明転すると同時にナップザックことマジックバッグから大金槌を取り出す。今まで収納に困っていたも武器がこれほど楽に持ち運べるようになるなんて、本当にダンジョンには不思議が感謝様様だ。
待ち時間ずっと人の集団の中にいたせいで固まったひざや背中をグイっと伸ばす。簡単な準備運動をしてから、今日も元気に階段の場所を占める矢印を確認する。
「うん、今日も準備は万全みたいだね。赤城さんと青崎さんに囲まれて浮かれてたままだったら承知しなかったところだよ」
開口早々普通にジャブを打ってくるステア。しかし何度もダンジョンに潜ってきてさすがにもう慣れた。
「うん、ステアもいつも通りだな。じゃ、行くか」
「否定しないってことはほんとに浮かれてたのぉ?やっぱりタロウマルも男の子だねぇ」
まあ、慣れたからって?言い返さないままでいなくてもいいよな?
「……俺の名誉のために言うが、あれは憧れの攻略者がいたから浮かれていただけだ。そこは、間違えるなよ」
「なぁんだ。その時以外誰とも喋っていなかったから、浮かれてたんだと思ったんだけどなぁ。話しかけられちゃった!って内心思ってたんでしょぉ?」
「きいいいいい!お前どこでその情報仕入れてんだ!!」
「教えなーい!」
前言撤回。やはりこの矢印はいつまでたっても慣れない。何でそんな深層心理まで読まれているんだ?とダンジョン並みの謎に包まれたこの矢印をいつか口で倒すことを決意する。そしてそのまま、ダンジョン入場早々、怒りと惨めさに塗れた情緒不安定という状態異常のさなか、攻略を開始したのだった。
むしゃくしゃしながらダンジョンをかけていく。
「ギャ?!」
「だあああ!」
すると曲がり角から出合い頭にゴブリン剣士と会敵する。と同時に大金槌で一振。剣で俺の攻撃を防ごうとするも、それより早く顎を打ち抜く。突如現れた俺に全く対応できず、そのゴブリン剣士は光の粒子となって消えていった。
「ふー!ふー!」
「獣みたいだね」
「うるせえ!誰のせいだ、誰の!」
ステアにからかわれながら、佐世保ダンジョンの攻略を進めていく。
出会う魔物はすべて『ゴブリン剣士』。さすがに偏っている気がするなあ、と思いつつもあっという間に2時間ほどが経ち、すでに10階層にあるセーフゾーンまでやってきた。
道中の魔物はすでに敵ではなく、すべてを一撃で倒してきた。爽快感はあるが、個人的にはもう少し戦いらしい戦いをしてみたい気持ちもある。
「わがままな願いだね。『すてあさーち』や『すとろんぐあーむ』みたいなスキルたくさん持っているのに、ちょっと高望みが過ぎない?」
「分かってはいるけどどうしても思ってしまうんよ。だからステアの言う通り最速で攻略できるダンジョンレベルを上げているんだし。攻略者として力の限り戦ってみたいんだ」
「…………ふぅん、そうなんだ」
「何、今の間?」
「ん?何々?今僕が間を開けたの分かったの?人と話すことに不慣れなのに」
「なんでお前はすぐそうやって俺を刺すの?そろそろ泣くよ?」
「意気地なしだねぇ。慰めてあげようか?」
「マッチポンプって知ってるか?」
やいやいステアと言い合いながらもダンジョンボスを倒すため、入念に武器を手入れする。布で拭かれた大金槌は大きな傷や凹みが目立ってきており、これまでの戦いの激しさを物語っている。主に俺の投擲による破損な気もするが、武器は武器として最後まで使うのが良い攻略者ってものだ。
「準備できた?いける?」
「ばっちりだ。それじゃあ行くか、『ゴブリン剣闘士』を倒しに」
すべての準備が整い、俺はゆっくりと11階層のダンジョンボスが待つ階層へ向かって歩き出した。




