29 新学期
遅くなり申し訳ありません。
何とか毎日投稿だけは死守します。
新学期。それは1年の中で最も喜怒哀楽に富む行事の一つ。きっと大多数の人が、好きな人と同じクラスになれたことに喜び、嫌いな奴と同じクラスになってしまったことに怒り、花粉症に苛まれて哀しんだり、春の陽気にのほほんとした喜びを感じたりするだろう。
そして、それは俺にとってはどれ一つ当てはまらないことだった。昨夜、というか今朝方まで大金槌を振り続け、日が昇り始めると同時に何とかシャワーを食べてと朝ご飯を浴び、今寝たらもう起きれなくなる!と必死に起き続けて寝不足マックス状態になっているからだ。感情を持つほどの余裕がなかったのだ。
俺は丸で酔っ払いのようにふらふらしながら登校し、校庭に張り出されている高校2年生用のクラス分けの紙を見てから教室へと向かう。
教室の扉を開けるとすでに10人くらいの生徒が皆各々散らばって談笑していた。入ってくる俺を皆はちらりと一瞥したが、すぐに元のおしゃべりに戻る。そこで俺は気づいた。そういえば去年、学校で俺は人とほとんど話していないことを。
急に目が覚め、動機が激しくなる。
真っ黒の中学自体が思い起こされ、変な汗が出始める。苦肉の策として、黒板に張られている席順を見てから即座に自分の席に行き、寝たふりをすることにした。周りの話声は極力意識しないようにする。最後に人と喋ったのはいつだったかと思い出すこともできないまま、時間が流れていくのだった。
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時刻は昼の12時。結局誰とも話すことなく昼休憩を迎えた。朝のホームルーム後は体育館で校長先生のありがたいお話。そこからは教科書の配布だったり、今年度の時間割の説明、自己紹介などいたって普通の新学期1日目が過ぎていった。
そして昼休憩に入ってから今日は弁当が必要だったのを思い出し、忘れたことへの意気消沈からまた机に突っ伏す。久しぶりに空腹という状態になりながらも、今日の夕飯は何にしようか考えて時間をつぶす。
その時だった。
「ハアー、学校とがマジだるいわ。ダンジョン行かせろよダンジョン。何で勉強なんかしねえといけねえんだよ」
「本当そうですよね、二階堂さん」
「どうします?来たはいいですけど、ダンジョンに行きますか?」
「ダメだ。親父からどやされたからな。平日は学校に行けってよ。土日だけだよ、行けんのは」
ガラガラと乱暴に教室の扉が開かれ、そこから二階堂と取り巻きの二人が入ってくる。なんだなんだと教室にいた生徒は彼らを見るが、一目で柄が悪そうだと判断するとすぐに皆顔をそむける。俺は顔を突っ伏しているので耳だけでその状況を確認する。
一言でいうなら最悪だ。ちゃんと席順を確認しておけばよかった。不意打ちの二階堂は心臓に悪すぎる。そんな二階堂はずかずかと教室を練り歩き、教室後方の窓際の席に近づく。そこには何人かの大人しめな男子生徒たちがたむろしていたが、
「どけ!ここは俺の席だ、どっか行け!」
と、一声上げて席を奪う。男子生徒たちは蜘蛛の子散らすように去っていった。横暴ここに極まれりだ。
周りのほかの生徒も、嫌なものを見るような目で二階堂グループを見たり、教室からそそくさと出ていったりと、二階堂に誰も近寄りたがらない状況が出来上がった。
そんな様子を腕の隙間から見ていると、
「あ?がり勉野郎じゃねえか。ちょっとこっちに来いよ。話があんだ」
いったいどうして気づかれたのか、二階堂自ら近寄ってくるように命令された。
ダンジョンに通っているだけあって、二階堂もそういうのに敏感になっているのだろうか。俺はやってしまったと後悔しながら、二階堂の方へ赴く。
「お前、俺様のパーティに入れ」
「え?」
咄嗟のことに変な声が出てしまった。いきなり肩パンでもされるのかとびくびくしていたせいか、二階堂の口から出たその言葉の意意味をすぐに理解することができなかった。
「織田が怪我してよ、せっかくだからお前を誘ってやったんだ。ありがたく思えよ?雑用係として俺様のパーティに入れてやるんだから」
そして次の言葉は頭が理解するのを拒んだ。何を言っているんだと言い返したくなるが、その言葉を必死に飲み込む。せっかくダンジョンコース最終試験を乗り越えたのに、ここでその努力を無に帰すことはできない。というかもう関わることはないと思っていたのに、これはいったいどういうことだろうか。二階堂の正確なら高校なんてすぐやめて攻略者として生きていくと思っていたのだが。神はいないのか。
「え、ええと、それはとても光栄ですが、私はすでに別のパーティに参加しているので難しいです」
慌てつつ、精いっぱい考えて出てきたのはそんなウソだけだった。ただ、どうしても、どう考えても二階堂のパーティには入りたくない。雑用係をするために攻略者になったわけではないのだ。
「ああ?俺様が誘ってやってるのになんだその態度は!?」
「がっ!?」
なんて思っていると突然拳が飛んでくる。
間一髪、二階堂の拳が顔面にあたる直前に手を間に入れることができたので直撃は免れたが、後方へ転倒してしまう。自分的にはそれほど悪くない返答だと思ったのだが、すぐにキレた二階堂に俺は考えを改めざるを得なかった。
ダンジョン攻略者は喧嘩っ早い人種が多い。
実しやかに言われている噂だ。そりゃあ魔物なんている化け物を相手にしている職業なのだから、喧嘩っ早いだろう。おそらく二階堂もこの2週間ほどでダンジョン攻略を繰り返し、そういうタイプの才能を開花させたのだろう。以前はここまでひどくはなかったはずなのだが。
「俺様はなあ、もうダンジョンレベル5をクリアしているんだよ。お前なんかじゃまだまだ挑むことすらできないようなところをなあ!!」
「ぐっ!」
今度は蹴りが飛んでくる。二階堂の太い足を何とか避けるも、さらに後方へと追いつめられる。
本当にはた迷惑な奴だ。攻略者の暴力沙汰なんて普通より重刑に処されるのを知らないのだろうか。と思ったが、二階堂のバックには有名攻略者がいたのだった。じゃあ二階堂は大丈夫か。俺が無事では済まないだけだろう。ふざけるなよ。
「俺様のパーティで雑用やるって言うまで痛めつけてやるよ!」
ここがダンジョンではない以上、ステータスやスキルの恩恵はない。ただの素の力だけで戦わざるを得ない。どうせこのままやられるくらいないなら、窮鼠猫でも噛んでやろうかと立ち上がる。その時だった。
「やめたまえ、二階堂君!」
「あ?」
ちょうど後ろの教室の扉が開き、やや高めで透き通るような男の声が響く。その声は自信で満ち溢れているように感じた。ちらりと声の主を確認するために振り替えると、そこには1人のイケメンと2人の美人さんがいた。
「流川天馬……さん、ですか?」
「そうだ。僕が来たからにはもうこんなことはさせない!」
透き通るような肌に芯の通った瞳を持ったイケメンこと流川天馬は、俺の二階堂の間に割って入り、二階堂の動きをけん制する。あれだけ傍若無人に振舞っていた二階堂が少しだけ後ずさった。はたから見れば、彼はまごうことなきヒーローだろう。
流川天馬は史上最年少でダンジョンレベル25を攻略した天才だ。わずか2年という短さでこの偉業を成し遂げたのは記憶に新しい。すでに有名な――それこそ『博多ダンジョン』を攻略しているようなクランに所属しており、多くのバックアップと自身の弛まぬ努力で今の地位を築いている。
同い年として、同じ攻略者として、俺の中でも興味関心の尽きない攻略者の一人でもある。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「あ、だ、大丈夫です。必死に逃げていたので、はは」
「無理はすんなよ。ったく、二階堂の奴、全然懲りてねえじゃねえか」
そして流川と一緒にいた二人の美女、赤城花蓮と青崎こころが次いで声をかけてくる。怪我の心配をしてくれた方が赤城で、男勝りな話し方の方が青崎だ。二人とも艶やかなセミロングの黒髪を持ち、なんか甘い香りを身にまとっている。彼女らは流川のパーティメンバーで、流川には劣るが上位の実力を持つ攻略者である。そんな高名な3人を目の前に少しだけ笑顔が漏れる。
「二階堂君。ここは学校だ。学生が勉学に励み、青春を過ごす場所だ。あまり乱暴なことを慎んでもらいたい」
「うるせえな、流川。お前はいつから俺様の親気取りだ?俺様に勝ったことがあるからって調子に乗ってんじゃねえぞ」
一方で二階堂と流川は一食触発の空気を纏っている。何やら2人には因縁があるようだが、今にもぶつかり合いそうな緊張感に誰もが固唾を飲む。ここはダンジョンではないのに俺の戦闘の部分がそわそわしている。
「いいか、これは忠告だ。君も君の父親のような立派な攻略者を目指しなさい。我々攻略者は、ダンジョンの外では他の一般人と同じだ。だからこそ、常に人の目線に立ち、力の使い時を見誤らないようにしなければならない。分かったら素直に学生の本分を全うしろ」
「……けっ、行くぞお前ら」
先に折れたのは二階堂の方だった。流川の忠言の一切を無視し、取り巻きとともにドアを蹴飛ばすような勢いで教室から出ていった。
「ふぅ、みんなすまないね。二階堂君のことはしばらくは大丈夫だ」
流川が他の生徒を安心させようと一言二言話をする。噂に名高い流川の言葉にすっかり落ち着きを取り戻した教室。中には色めき立つ生徒もいたが、囲まれ慣れているのかあっさりと周囲を落ち着かせている。俺も一息吐き、流川にお礼だけ言おうとする。
「君、名前は?」
「え?小野寺太郎丸です」
「二階堂君の攻撃を躱すなんて、もしかして君も攻略者だったりするかい?」
見られていたのか、と思うも表情には出さず、簡単に肯定の返事を返す。
「い、一応そうです。この前のダンジョンコースを修了してからダンジョンに行ったりしています」
「そうか、小野寺君。攻略者は危険だが、それでも社会に貢献する役目を持ち立派な職業だ。君も立派な攻略者を目指してくれ。それでは」
「は、はい」
何とも爽やかで崇高な想いを持つ青年だろうか。流川は赤城と青崎を連れ、そのまま教室を後にした。
近くで見たが、流川は相当強いのを感じた。少なくとも今の俺では、ダンジョンの中で戦えば10秒持つか怪しいレベルだろう。そんな高い壁を目の当たりにしつつも、その高さを実感できたことに少しだけ喜びを覚え、自分の席に戻った。
「そういえば、なんでこの高校に流川なんて有名人がいるんだ?」
最後にそんな疑問を持ったまま、教室に昼休み終了の予鈴のチャイムが鳴るのだった。
周りの生徒(対二階堂)
「あれが二階堂か」
「噂通りの不良だったな」
「同じクラスとか最悪すぎるんですけど……」
周りの生徒(対流川)
「まじ?本物?」
「きゃあああ!流川君カッコいいい!!」
「後ろの二人もめっちゃ可愛いな」
周りの生徒(対主人公)
「で、あれは誰?」
「ダンジョンコース受けてたらしいけど……」
「ちょっとよくわからないね」




