12 九重大学跡地ダンジョン その3
九重大学跡地ダンジョン攻略後、昨日も赴いた図書館へと向かった。できることなら魔石の謎を解き明かすべく、図書館にて何か手掛かりを得たいところ。そんな想いを秘めて図書館に入館する。
「身分証はお持ちですか」
「攻略者証明書でお願いします」
「……はい、確認できました。お返しいたします」
昨日と同じように攻略者証明書で入館し、それじゃあ早速と研究資料を求めて棚のほうへ近づこうとすると、近くのフリートークスペースから図書館には似合わない荒げた声が聞こえた。
「はあああ!なんでこんなにも研究がうまくいかないだよ!もう10回は先行論文と同じ条件で実現してるってのに!」
「ちょ、声が大きいって。今から俺が相談に乗るんだから落ち着けよ」
おそらく近くの研究施設の人だろうか。研究がうまく行ってないのか、イライラ全開で話している。何の研究の話か少し気になったが、あまり人の話を盗み聞きするのは良くないので、早めに魔石関連論文でも探しに行こうと――
「俺の研究は『高濃度強酸液および魔石配置構造による電力抽出量への影響に関するレビュー論文』だぞ!?なんで揃いも揃って先行論文の結果と俺の実験結果が一致しないんだよ!」
「まあ魔石から電力を取り出す研究は盛んだからなあ。その辺は査読もされてないようなものもたくさんあるだろうし、条件抜けとかもあるかもなあ」
「全部書けよ!再現できなきゃ論文の意味ねえだろうがあ!」
前言撤回。非常に魅力的な話をなさっている。それこそ今の自分の悩みにジャストミートしそうな話題だ。手頃な本を一冊手に取り、話をしている2人にさりげなく近づき、近くの席に腰を下ろす。本を開いて読んでいるフリをしながら彼らの話し声に耳を傾ける。
「つまりどうすれば先行研究通りの結果になるか、を考えれば良いんだな」
「そうだ。頼む、お前の知恵を俺に貸してくれ!」
「しゃーないな、晩飯1回おごりな」
そこからは色々な条件が出ては否定されを繰り返していった。液体の温度や実験室の湿度、魔石の材質やドロップしてからの時間など、そんなにも細かい条件まで研究の対象になるのかと深く関心してしまう。
まだまだダンジョンについて知らないことがあるなと思いつつ、それらの情報をもとに魔石摂取による特殊能力取得が上手くいく条件の考察も個人的に進める。
「あー、やっぱりこの研究辞めようかな。大体5年も経つのに実験フローも統一されてないなんて真似出来なくて当然じゃん」
「でもそれだとお前卒業できなくなるぞ?」
「また新しいテーマを考えるよ。それより飯行こうぜ。さっき言った分奢ってやるよ」
「なんも役に立ってないけどええん?じゃあお言葉に甘えて」
「今度はどんな研究するか会議に付き合ってな。あ!うどんつゆに魔石を入れて接触物質をうどんにするのはどうや?」
「なんじゃそりゃ、酸性液体でもないし、うどんとかどんなエネルギーの形態で出てくるねん」
「わからんから試してみん?」
「いいから飯行くぞ」
「へーへー」
途中で話が発散し、ご飯のために離席する研究者の二人。先ほどまで激しい議論をしていたとは思えないほど緩やかな雰囲気でその場を後にした。そんな二人を他所に、最後のうどんの会話から俺はあることに気づいた。いや、正確には思い出したというほうが正しいだろう。
なんで今まで気づかなかったんだっていうレベルの話だ。魔石の材質とか温度とか気にする以前に、今まで特殊スキルを得られなかった別の理由に心当たりができた。
そもそも俺は特殊スキルを2度ゲットしている。つまり、その時は満たせていた条件があったということだ。その日の行動を思い出せばよかったのだ。
手早く本を元の棚に戻し、颯爽と図書館から出る。
今日はもう終わり。一目散に自宅へと帰っていった。
その日はいつものように戦闘時の動きの模倣と軽いトレーニングのみ行い、風呂に入って寝る。
その間、何一つ口に物を入れることなく。
簡単な話だったのだ。
俺が特殊スキルを得られなかったのは、単純に魔石からエネルギーが抽出される条件を満たせていなかったからなのだ。その原因は胃の中に魔石と胃酸以外の不純物があり、実験で言われているような純粋な酸性液体として胃酸が存在していなかったためなのだ。うどんつゆだとうまくいかないように、純粋な胃酸でなければ魔石からエネルギーは抽出されない。
食事は本来、朝昼晩と常に摂るものだ。腹が本当に空っぽになった状態を作ろうとするならば、最低でも12時間以上は食事をとってはならない。しかしダンジョン攻略を行う前や攻略中においては空腹状態は避けるべきもの。
なるほど合点がいった。これが答えだ。
とりあえずこの仮説を試すべく、夕食を抜いてまで準備を整え、明日もう一度九重大学跡地ダンジョンに挑むことにしたのだった。
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翌日、再び九重大学跡地ダンジョンへやって来た。昨日の夕食に加え、朝ごはんも抜いてきている。正直何か食べたい気持ちはあるが、せっかく見出した魔石による特殊スキルの獲得法を実践してみるほうが先決だ。
受付を済ませ、ダンジョンへと入っていく。
相も変わらず岩肌の続くダンジョンを小走りで進み、『あじゃすとうぉーく』で疲労を踏み倒し、時折出てくる魔物を張り倒す。すでに一度クリアしており、上昇したステータスの前にはラッチマットもドリルモグラもマッドリザードもなすすべなく倒される。
そうこうしているうちに攻略開始から4時間が経った。順調な攻略の結果、すでに5階層へと続く階段前到着している俺は、あまりの空腹具合に頭を抱えていた。
「腹、減った……」
最後に飲み食いしたのは昨日の昼過ぎにダンジョン内で食べた自分で作った飯だ。あれからほぼ24時間が経っており、すでに空腹具合は無視できないものとなっていた。
「これ、思った以上にきついな。集中力も切れ切れだし、下手するとダンジョンボスにも不覚を取ってしまうかもしれないな」
集めた6つの魔石をバッグから取り出しながら、空腹という名の状態異常の辛さを実感する。喉もカラカラで若干意識が朦朧とする感覚もある。胃が完璧に空である状態を自身で判断できないため、こうして絶対に空であると確信できるだけの期間絶食しているが、本当ならもう少し早めに魔石を摂取すべきなのだろう。
「まあこれだけ何も食べなければ特殊スキルはゲットできるだろう。次からは本当に無理な時のためにご飯は持参しておこう」
手に乗せた6つの魔石を一気に口へ放り込み、のどに詰まらないよう全部飲み込む。そしてすかさず湧き水も飲む。久しぶりの飲食に体はびっくりするだろうが、特殊スキルのためなので我慢しよう。
そしてそのまま安静にして数分待つ。
「そろそろかな。ステータスオープン」
期待と不安が半々の心中で、ステータスカードを呼び出す。薄目でその内容を確認すると――
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なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる
とし:16
しゅ:ひと
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ついかこうげきりょく:118(+14)
ついかぼうぎょりょく:100(+10)
まなりょう:65(+8)
ついかいどうそくど:78(+10)
ついかまほうこうげきりょく:71(+11)
ついかまほうぼうぎょりょく:141(+20)
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あじゃすとうぉーく
わーどらんげーじ
すとろんぐあーむ
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さいだいだんじょんれべる:2
だんじょんこうりゃくりれき:『ここのえだいがくあとちだんじょん(2):4かい』
『ここのえだいがくあとちだんじょん(2):5かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
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「おおおおおおおお!!よっしゃああああ!!!」
狙い通り、新しい特殊スキルを獲得できた。しかも名前から推察するに、戦闘に役立ちそうなスキルに思える。『すとろんぐあーむ』と言うくらいなので、腕による攻撃が強くなるのではないだろうか。
「あ、あかん。腹減ってるのに大声出したせいでめまいが……」
少しふらつきながらも湧き水で一度頭を冷やす。まずは『すとろんぐあーむ』の検証が先である。腹がすきすぎて若干胃が痛いが、それを無視して4階層を少し見て回ることにした。
そして10分程度歩き回ると、1匹のマッドニュートと遭遇した。
「運がいいな。どうせならダンジョンボスと同じやつがいいと思ってたところだ!ステータスオープン!……は?」
すぐさま戦闘態勢に入るマッドニュートに対し、ステータスカードを呼び出して即座に放つ。すると想定していた挙動とは全く異なる曲線を描き、あらぬ方向へ飛んでいく。
「ッ!考えるのは後だ!」
一瞬呆けそうになるも、尾を振り下ろしてくるマッドニュートに対して大金槌で応戦する。大金槌を横にもち、片膝をつきながらも尾の衝撃を受け止める。
「ん?重いのは重いが、いつもより安定して受けられるな」
完全に受け手の姿勢で攻撃を食らったが、想像したよりも攻撃をしっかりと受け止められる。そのまま柄で押し返し、マッドニュートを地面へと押し付ける。ちょうど首の付け根の部分を柄で押さえつける形で地面にロックすることができた。マッドニュートは苦しそうに手足や胴体を暴れさせている。
「なんとなく『すとろんぐあーむ』の効果が分かった気がする。これは腕……というより手に関する動作の諸々が強化されるって感じか」
体長80㎝の魔物が暴れているのにもかかわらず、大金槌の柄のみで押さえつけることができている。空腹状態かつ、マッドニュートの粘液が分泌されているこの状況でこんな芸当ができるのは『すとろんぐあーむ』の効果に他ならないだろう。
「ちょっ、いたっ、一旦離れるか」
途中から暴れる尾で俺の背中やら腕やらを叩けることに気づいたマッドニュートが苦し紛れに攻撃し返してきたので、大金槌を持ってその場から離れる。
「ふう、じゃあ最後はいつもの攻撃はどうなるかを確認すればOKか」
押さえつけられて激しく興奮しているマッドニュートはなりふり構わず尾を激しく振り回しながら迫ってくる。それに対し、半身でバッターのような姿勢で俺は狙いを定める。そして尾が俺の腹に叩き込まれそうになる瞬間、大金槌を振りぬいた。
「キュ……」
その大金槌を振る速度はプロ野球選手のごとく、一瞬にしてマッドニュートを壁まで吹き飛ばし、そのまま光の粒子にしてしまった。間違いなく今までで最も威力のある攻撃だった。
「……これは、想像以上かもしれん」
圧倒的な威力を目の前に今度こそ呆けながらも、そのままセーフゾーンまで戻る。あんな芸当が攻撃スキルを使わずともできるようになるのは、本来ダンジョンレベル10をクリアできるようになってからだろう。それをこの時点でできてしまうのは、些かズルが過ぎないだろうか。
「これだけ強すぎると、なんだかダンジョン攻略があっけなく感じてしまうなあ」
湧き水でのどを潤し、そのままボス戦へと向かう。前回は走り回って何とか優位に立ちまわりながら倒した6匹のマッドニュートも、正面からすべて叩き伏せていく。挙句、最後は2匹まとめて一振りで弾き飛ばし、あっという間にすべてのダンジョンボスを光の粒子にして倒した。
「ニールセン様もこんな気持ちだったのかな。……だからあの速度でダンジョンを進めたのか」
ドロップ品もなく、ただただだだっ広い空間に一人残された俺。なんとなくの哀愁とニールセンへの想いを馳せ、そのままダンジョンから脱出した。
その日はなんとなくやる気が起きず、自宅に帰るとすぐに眠りについたのだった。




