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11 九重大学跡地ダンジョン その2

「さっそく出てきたか、マッドニュート。今度はもっとスマートに倒してやるからな」


 4階層に着いて早々、2匹のマッドニュートと遭遇した。片方はこちらに気づいているが、もう片方は明後日の方向を見ていてこちらに気づいていない。腰に装着しているナイフを抜き、よそ見しているマッドニュートの首筋へと放る。


「キュッ!……キュウ……」


「キュウウ!!」


 流れるような動作で放られたナイフは筋のブレなくまっすぐに飛んで行き、狙い通りマッドニュートの首筋へと刺さる。呆気なく力尽きたマッドニュートが光となって消えるのをよそに、もう1匹のマッドニュートはこちらへと向かい、勢いそのまま尾を振り下ろしてくる。


「1対1ならもう余裕だ!おらあっ!」


 上から迫ってくるマッドニュートの尾に合わせ、横なぎに大金槌を叩きつける。ただし、槌の側面が尾に当たる向きで。


「面積が大きいほうが当たりやすいってなあ!」


 目論見通りマッドニュートの尾への攻撃をヒットさせ、マッドニュートを吹き飛ばすことに成功する。背中側から地面へ落ちたマッドニュートが硬直している際にステータスカードもお見舞いしておく。地面すれすれに飛んだステータスカードはマッドニュートの目に深々と刺さる。


「キュアア!」


「トドメええ!」


 ひっくり返って大きな隙を見せたマッドニュートに近づき、顎下目掛け大金槌を振り下ろす。抵抗する暇さえ与えない一撃でマッドニュートは光となって消えていった。


「お、魔石落ちてるな。ラッキーラッキー」


 先ほど苦戦したマッドニュートも難なく倒し、意気揚々と魔石を拾う。そして先に倒した方のマッドニュートがいた場所にナイフを拾いに近づくと、魔石とは別の何かが落ちていることに気づく。足早に確認すると、無造作に広がっている茶色い皮だということに気づく。


「これは、『魔物の装備品』ドロップだな。確かマッドニュートだと『泥井守の皮』だっけ。確率1%くらいだったよな。いやあ、ツイてるなあ」


 泥井守の皮は財布や鞄などの素材として利用されており、そこそこの値段で買い取ってもらえる。丁寧に畳んでバッグに入れておく。


「5階層のボス戦前までには魔石を集めて特殊スキルをゲット。とりあえずそこまではいきたいな」


 ナイフも腰に納め、しばらくはこの階層で魔石のドロップを粘ろうと思いつつ、その場を後にするのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「結構時間かかってしまったな」


 目の前で光になるマッチラット。その後すぐにドロップ品の魔石が現れる。3階層で食べきった魔石を5つまで増やし、すでに見つけた5階層へ続く階段まで戻る。ダンジョンに挑戦し、すでに5時間が経とうとしていた。


「タイミングもいいし、休憩と魔石とごはん時だな。……この場合って魔石は食前と食後どっちだ?って薬でもないし気にしなくていいか」


 この後に控えるダンジョンボス戦に備え、遅めの昼食を済ませる。簡素な食事をあっという間に平らげ、いつか冒険者で大金を稼げるようになったらもっといいものを食べてみたいと少しだけ夢を見る。


「それで次は魔石か。一つずつよりかは一気なのか?一気に食べた方が効率が上がるっぽいとはいえ、この場合でもそうなのかわからんし、普通に苦しいよなあ」


 とは言いつつ、すでに何度か経験しているので魔石5つを一気に飲み込む。相も変わらず生じる腹の違和感を解消するために湧き水も飲む。


「これでしばらく待てばさすがにスキルが得られるはず」


 そして1時間が経った。


 念のため、さっきよりも多めに時間を取ってみたのだが、結局特殊スキルは得られていなかった。ただステータスがちょっと伸びていただけだ。それでもこのダンジョンならすでに敵なしと言えるだけの力をつけられてはいるが、期待していただけあってショックを受けてうなだれる。


「しゃーなし、しゃーなし。もしかするとまだ何か条件があるのかもしれないしな。攻略が終わったらまたあの図書館で調べなおそう」


 ただ、くよくよしていて攻略できるほどダンジョンは甘くない。頬を両手でたたき、ダンジョンボス戦に向けて気合を入れなおす。1対1なら簡単に倒せるマッドニュートであっても群れで襲われたらどうなるかわからない。どんな状況にも対応できるよう気を引き締めないと。


「……じゃあ、行くか」


 荷物を背負い、階段を上る。


 初めての1対多のダンジョンボス戦。鼓動が少しずつ早くなるのを感じながら、階段を登り切った。


「1,2,3……6匹か、前情報に間違いなし。あとは1匹ずつ仕留めるだけだな」


 荷物を乱暴に投げ捨て、大金槌を構える。学校の校庭ほどの広さのあるボス部屋に入った瞬間から6匹のマッドニュートはすべて臨戦態勢だ。不意を突いた攻撃もできないだろう。


「なら、動きで翻弄するしなねえなあ!」


 戦いの初動は重要だ。しかも1対多の状況ならなるべく早く敵戦力を削ぐ必要もある。俺は一番近くにいたマッドニュートに向けて駆け出す。


「シ、シャアア!」


「まずは一匹!」


 慌てて尾を振り下ろしてくるマッドニュート。しかしその攻撃は何度も見ている。横に軽く飛んで躱し、尾が地面へと激突して止まる。その短い隙を見逃さず、大金槌でマッドニュートの脳天を叩き潰す。向上したステータスにより、威力も上がったその攻撃はマッドニュートの粘液で滑ることなく、一撃で倒すことに成功した。光となって消え、同時に初回攻略ボスドロップ品の泥井守の皮が地面に落ちる。


「「「「「シャアア!!」」」」」


 仲間が倒されたことに激高したのか、残りのマッドニュートが襲い掛かってくる。


「そんな単純な攻撃当たるかよ!」


 マッドニュートらの甘い攻撃を大きく動いて回避し、そのまま走り出す。


 相手は5匹も残っている。動きを止めて囲まれたしまったら、なすすべなくリンチにあってしまうだろう。抵抗むなしく全身打撲、内臓破裂、あっけない死が待っているだろう。


 だから走る。


「ステータスオープン!」


 ちらりと後ろを振り返る。5匹ともこちらを一心不乱に追いかけてきている。個体差なのか足の速い一匹がとびぬけてきているのが見えた。手元にはステータスカードを呼び出している。俺は前から2番目のマッドニュートを狙ってカードを放つ。


 しかし、戦闘態勢に入っており、走っているマッドニュートからすればそれを避けることは難しくないようだ。眼に当たる直前で進行方向を切り替える。空を切ったステータスカードが地面へと滑っていく。


「ステータスオープン!」


 だが当てることは目的ではない。真の目的はマッドニュートの進行を邪魔すること。再びステータスカードを手元に召還した俺は、現在先頭から2番目となっているマッドニュートに対し、ステータスカードを投げる。


 そのマッドニュートも当たる前にうまくカードを避ける。ただし、その分先頭のマッドニュートから距離ができてしまう。つまり、ごく短時間ではあるが1対1の状況を作ることができた。走るのを止め、先頭のマッドニュートと向かい合う。


「しゃあこいやああ!」


「キュウアア!!」


 先頭のマッドニュートが回転しながら飛んでくる。ちょうど俺の頭の真上から尾の振り下ろしが迫る。


「俺の武器が大金槌だけだと思ったら大間違いだ。顎下注意ってなあ!」


 マッドニュートの攻撃はもう見切った。わずかに横に体をずらして躱し、カウンターでナイフを下顎にそっと当てる。落下の勢いと自重でナイフは粘液をものともせずブスリと奥まで刺さり、そのマッドニュートは光の粒子となって消えていった。もちろん泥井守の皮もドロップする。


「あと4匹いいいい!」


 それと同時にとびかかってくる2匹のマッドニュート。手首のスナップのみで片方のマッドニュートにナイフを投げる。制御の利かない空中ではいくら身をよじってもナイフから逃れることはできない。腹にナイフが刺さり、こちらへ攻撃することもできず地面へと転がり落ちる。それと同時に狙わなかった別個体のマッドニュートが尾の攻撃を繰り出す。


「ナイフが刺さった方は実質戦闘不能だな」


 その攻撃を受け止めながら地面に落ちたマッドニュートを見る。苦しそうにもがいてはいるものの、短い手足ではナイフを取ることはできなさそうだ。であれば残り3匹を倒すことに集中できる。


「3匹程度なら同時に相手してやるよ」


 そこからは乱打戦だった。


 3匹が代わる代わる尾を叩きつけてくる。確かに粘液で滑るが、ステータスが上がった今の力では多少強引にでも大金槌で弾き飛ばせる。マッドニュートに接触させる大金槌の面も側面とすればなおのことだ。


「隙あり!」


 そして少しでも着地に失敗したマッドニュートがいれば追撃でクリーンヒットを狙う。ジリジリとダメージを与えつつ、自分は防御に専念する。そうしていればいずれーー


「キュ、キュウウ……」


 脳天に大金槌が突き刺さり、3匹目のマッドニュートが光となって消える。牽制でナイフを刺していた個体もいつの間にか消えており、無事マッドニュート6匹のボス戦が終わった。


「よっしゃ、やりゃあできんじゃねえか。一人でも、戦える」


 ボスを倒し切り、辺りには初回攻略ボスドロップ品の泥井守の皮が散らばっている。全部で6枚あり、28秒以内(時間制限内)に急いでそれらを回収する。


「ふう、レベル2のダンジョンを一人で初回攻略か。予想よりもかなり順調だな」


 嵩張りつつも6枚の皮をバッグを押し込みつつ、地面に座り込む。今回ダンジョン攻略がうまく進んだのはやはり特殊スキルの『あじゃすとうぉーく』のおかげだろう。数時間単位でダンジョンを動き回っても疲れが溜まらないのは一般的なスキルと比べても破格の効果だ。

 ダンジョンボス戦に疲労を持ち込ませないのはダンジョン攻略の基本の一つだ。多くの場合はダンジョンボス戦前に長い休憩をするのだが、それを踏み倒せるのはインチキすぎる。


「やっぱりほかの特殊スキルも欲しいなあ。もはやこれ以上特殊スキルなんて存在しないのかもいしれないけど、あってほしいよな。ステータスオープン」


 ダンジョンから自動で脱出するまでの残り時間で自分のステータスを確認する。


 ===============

 なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる

 とし:16

 しゅ:ひと

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ついかこうげきりょく:104(+37)

 ついかぼうぎょりょく:90(+30)

 まなりょう:57(+21)

 ついかいどうそくど:68(+23)

 ついかまほうこうげきりょく:60(+29)

 ついかまほうぼうぎょりょく:121(+36)

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 あじゃすとうぉーく

 わーどらんげーじ

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 さいだいだんじょんれべる:2

 だんじょんこうりゃくりれき:『ここのえだいがくあとちだんじょん(2):5かい』

『ももちはまだんじょん(1):4かい』

『ももちはまだんじょん(1):4かい』

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ===============


「おお、追加攻撃力と追加魔法防御力がついに100超えたか。ダンジョンレベルも2だしどんどん伸びていくなあ。でも相変わらず特殊スキルはおろか普通のスキルもまだ手に入らないな。そろそろ攻撃系のスキルあった方がいいんだけどなあ」


 とは言いつつもステータスが徐々に伸びていることを実感していると、辺りが暗闇に包まれる。ダンジョンクリアによる脱出が始まったようだ。


「まあ今日はもうダンジョンには潜らないし、ゆっくり特殊スキルの取得方法について再度考察しよう」


 この後の予定を立てていると辺りが明るくなり、百道浜ダンジョンから脱出した時と同じような施設に転移した。時刻はすでに午後4時を迎えようとしており、ほかにも冒険者がちらほらと見受けられる。ちょっとバッドマナーだがあたりの会話に聞き耳を立てると、どうやらどのパーティは報酬の話し合いをしているようだった。


 パーティであれば基本的に報酬は当分となるのだが、貢献度や役割によって若干傾斜配分になることもある。その点、一人でダンジョン攻略する俺にとっては報酬を独り占めできるのでそういったこととは縁がない。パーティを組んで安全を取るか、一人で丸儲けを狙うか、この手の議論は今でも盛んにおこなわれるものである。俺はもちろん後者一択だけどな。


 閑話休題


「デバイスの返却とドロップ品の買取りをお願いします」


 受付まで進むと生存報告デバイスと7枚の泥井守の皮をカウンターに置く。


「はい、泥井守の皮ですね。7枚ですので10,500円の買取りですがよろしいでしょうか」


「それでお願いします」


 泥井守の皮は1枚で1,500円で売却することができるようだ。レベル2のダンジョンにしてはかなり益がある方のドロップ品だろう。諭吉1枚と500円玉を受け取り、気分上々で次の目的地へと向かうのだった。

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