10 九重大学跡地ダンジョン その1
翌日午前8時。アラームに起こされた俺は、体に若干の違和感を覚える。チラリと腕や太ももを見ると青痣になっている。おそらく二階堂に暴力を振るわれた箇所だろう。ただ、ステータスの恩恵があった時に受けたダメージなので見た目以上に痛みはほとんどなく、ダンジョン攻略するには特段影響はなさそうだ。朝ごはんを手早く食べた後、早速九重大学跡地ダンジョンへと向かうことにした。
今日は情報収集ではなく、ダンジョン攻略に乗り出す。昨日の時点でやることはすでに決まっている。一つはダンジョンの攻略を進めること。そしてもう一つは魔石をたくさん食べて特殊スキルを増やすこと。
特に後者はおそらくほとんどの人間が知らない事実である。本音を言うならば、まだ誰にも漏らしたくない情報であり、今後も情報の占有もしやすい1人パーティでのダンジョン攻略を続けていくつもりだ。まあいずれにせよ、ニールセンのような英雄になるためには、特殊スキルの獲得をより積極的に進めていく必要がある。
「そんじゃ行きますか」
ということで昨日も訪れた九重大学跡地ダンジョンに到着した。九重大学跡地ダンジョンは百道浜ダンジョンとは異なり、元々大学施設があった近くに出現したため、当時の大学施設を流用しいくつものダンジョン用の施設が併設されている。研究施設の多く立ち並び、朝の早い時間帯であっても幅広い年代の人の姿が見られる。中には攻略者としてではなく研究者としてダンジョンに進入する人もいるのだろう。そんな中で、俺も気を引き締めて受付へと向かう。
「はい、攻略者証明書です」
「確認いたしました。こちらが生存報告デバイスです。脱出のスクロースはご入用でしょうか」
「自分のものがあるので大丈夫です」
「承知いたしました。それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
すると、緊張が受付に人に伝わったのか、脱出のスクロースの案内をされた。冒険者の命を守るため、こんな感じで万が一の時の対策を紹介してくれることがある。ただ、今回はすでに持っているので必要なし。愛想よく断り、デバイスを装着しながらダンジョンの入り口へと入っていく。
あたりが暗闇に包まれ、少しの間をおき視界が晴れる。
「やっぱりダンジョンの中に入るとワクワクするな。ホント冒険者になってよかった〜」
気分も上々に自動マッピングアプリを起動し、洞窟のような迷宮を進んでいく。
そして数分ほど進むと、一匹の魔物が現れた。すでにこちらに気づき、舌を出して警戒心をあらわにしている。戦闘の邪魔にならないよう、背負っていた荷物を無造作に道の端へ放り投げておく。
「マッドニュートか。見た目はかわいいんだけどなあ」
九重大学跡地ダンジョンで初めて相対した魔物はマッドリザード。茶色い肌と常に泥のような粘液を纏った体が特徴の80cmほどの太ったイモリだ。尻尾を叩きつける攻撃をしてくるだけの魔物だが、ヌメヌメとした体のせいでその攻撃はそれほどダメージにならない。しかしそれは同時にこちらからの打撃攻撃を受け流せるということでもあり、メイン武器が大金槌の俺にとっては少し厄介な相手だ。
「シャアァァァ!」
「ステータスオープン」
敵意をむき出しにしたマッドニュートが襲い掛かってくる。横なぎに振ってくる尾をバックステップで躱し、ステータスカードを出現させる。
「いつか試すつもりだったけど、打撃も効きにくい敵だし今やっちゃうか」
今ステータスカードを出したのはステータスを確認するためではない。
俺の鍛え上げた投擲能力、それを生かす武器として使うためだ。
軽く曲げた人差し指と中指でステータスカードの角を挟み、親指の付け根で固定する。そのまま小さく振りかぶり、ひじと手首と同時に加速させてステータスカードを打ち出す。そしてそのまま、薄い物体特有の曲線軌道を描きながらステータスカードは寸分の狂いもなくマッドニュートの右目に刺さる。
「シ、シャアアアア!」
突然の遠距離攻撃になすすべなく被弾したマッドニュートは痛みに耐えかね苦しそうな叫び声をあげる。
「なるほど、ステータスオープン」
目にステータスカードが刺さったマッドニュートがこちらを注意深くにらみつけている。そんなことなどお構いなしに俺はもう一度ステータスカードを呼び出す。マッドニュートの目からステータスカードが消え、よこれ一つないステータスカードが手元に現れる。呼び出すと手元に現れるステータスカードの不思議な特徴の一つである。こういう使い方は想定されていないだろうが。
「悪いが左目ももらうぞ」
同じ持ち方、同じ動作から放たれるステータスカードは同じような曲線軌道を描きながら飛んでいく。しかし、今度は喰らうまいとマッドニュートが躱そうとする。動いたせいで、左目ではなく尻尾に掠り、当たった角度も良くなかったのかそのまま後方へ飛んでいく。当然尻尾は切れることもなく、マッドニュートは尾を俺の脳天めがけて叩きつけてくる。
「ちっ、やっぱりそう簡単にはいかないか!」
文字通り空を切ったステータスカードは無視し、大金槌の柄の部分でマッドニュートの攻撃を受ける。粘液を纏った尾が革兜を掠るがダメージはほとんどなし。反撃として地面に着地した直後のマッドニュートの胴体を蹴り上げる。ニュルンとした触感が足に伝わるが、数メートルほど蹴り飛ばすことに成功した。
「あらかじめナイフを準備しとくべきだったな、泥沼の殴り合いをするしかねえじゃん」
吹っ飛ばされたマッドニュートは体勢を立て直すとすぐに尾での攻撃を放ってくる。俺はそれを丁寧に大金槌でさばき、狙いやすい胴体を殴りつける。粘液で滑りそうになることもあったら、何度かそれを繰り返すと次第にマッドニュートの動きが鈍くなっていく。
「おっけーい、これでトドメだ!」
打撃が効きづらいとはいえ、何度も殴りつければダメージは蓄積する。最後はあっさりと頭を叩き潰し、光の粒子となって消えていった。
「んー、ステータスカードで攻撃できれば武器節約とか手数を増やせたりできたんだけどなあ。やわらかい部位にピンポイントで当てないと厳しいか」
今の一戦を簡単に振り返る。もう少しうまくステータスカードを攻撃手段として扱えそうな気もしたが、とりあえず想定と現実の差を認識することができたので良しとする。
マッドニュートが倒れた場所には何もドロップしておらず、まあそんなもんかと荷物を背負い、攻略を再開する。今度はいつマッドニュートが出てきてもいいようにナイフを持ちながら。
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それから順調に攻略が進み、攻略開始から3時間ほどで3階層のセーフゾーンまでたどり着いた。このダンジョンは百道浜ダンジョンより1階層多く、全部で5階層となっている。当然ダンジョンボスは5階層目にいるので、現時点でボスの階の2つ前の階層まで攻略が完了したことになる。道中ではマッチラットやドリルモグラなど、百道浜ダンジョンでも見かけた魔物と遭遇した。どちらも大金槌で一振りだったので、もうさほど強敵ではないだろう。
「問題はダンジョンボスだよな。ここのダンジョンのボスは複数体の対多形式だからなあ、しかもマッドニュートの」
武器を手入れしながら一抹の不安をこぼす。ダンジョンボスの形式は一般的には2つに分類される。1つは圧倒的な個の力を持つ1体のボスがボス部屋に鎮座するパターンで、百道浜ダンジョンのボスのような形式だ。そして、もう1つはそのダンジョンで出現する魔物のうちの1種が複数体の群れとしてボス部屋に犇めくパターンである。今回は後者のパターンだ。できることならボス戦を見据えてもう何匹かマッドニュートとの戦闘を行っておきたいのだが、最初の1戦以降遭遇できていない。
「まあそれはしょうがないか。次の階層でちょっと粘ってみればいいし。それより魔石が思った以上に手に入ったからここらで食べておくか」
荷物の中から魔石を取り出す。今回はドロップ運に恵まれ、10体ほど倒した魔物から合計7個の魔石を確保できた。一気……はキツイので一つずつ、ダンジョンの湧き水を飲みながら嚥下していく。
「こんなにきれいなのに食べた方が実益があるなんてなあ。……ん、よし、これで全部か」
相変わらず腹に違和感が出てくるが、これでまた力を得られるならばどうということはない。軽く体を動かしながら新しい特殊スキルを獲得するのを待つ。
それから20分ほど経ち、特殊スキルを得られたか確認するためにステータスカードを呼び出す。
「ステータスオープン。……これ、もしかしなくても特殊スキル得られてないな?」
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なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる
とし:16
しゅ:ひと
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ついかこうげきりょく:67(+20)
ついかぼうぎょりょく:60(+18)
まなりょう:36(+10)
ついかいどうそくど:45(+17)
ついかまほうこうげきりょく:31(+12)
ついかまほうぼうぎょりょく:85(+25)
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あじゃすとうぉーく
わーどらんげーじ
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さいだいだんじょんれべる:2
だんじょんこうりゃくりれき:『ここのえだいがくあとちだんじょん(2):3かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
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しかし、新しい特殊スキルはそこに書かれていなかった。ステータスの伸び自体は順調そのものなのだが、本来の目的である特殊スキルが取得できていない。あんな思いをして飲み込んだのに意味がなかったので、正直悲しい。
「いや、もしかすると魔石の数が足りなかったのかも。ゲームのレベルアップと同じで次の特殊スキルにはもっと多くの魔石が必要なのかもしれんし」
少しだけ考察する。今回特殊スキルが得られなかったのは単純に必要魔石数が足らなかったのではないか。条件は前回とほぼ同じなので、そう考えるのが妥当だろう。
気持ちを切り替え、荷物をまとめてはやる気持ちとともに4階層へと進んでいった。
特殊スキル取得方法条件
・魔石を摂取する(一定個以上の摂取?)
・???
・ダンジョンの湧き水を飲む
・???
・???




