13 休養日
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九重大学跡地ダンジョンにて圧倒的な力を示してダンジョンクリアした翌日、俺はいつもより遅い時間に目が覚めた。頭の中は、望んだはずの力を得た自分と本当にそれでよかったのかと自問自答する自分でいっぱいだった。簡単に朝食をとり、今日一日は悩みと向き合いつつ、体を休める休養日にすることにした。
テレビをつけ、ダンジョン専用チャンネルのニュースをBGMにダンジョン情報をネットであさる。特に特殊スキルについて、何かしらヒットしないかといろいろワードを入れて調べる。
ダンジョン、変なスキル
ダンジョン、魔石、食べるとどうなる
ダンジョン、攻略、簡単
ダンジョン、ニールセン、気持ち
しかし、今の自分の悩みを解決できそうな情報は見つからない。どれもこれも的外れな検索結果しか返ってこず、ワードを変えようにも適当なものが思い浮かばない。机にスマホを無造作に置き、ソファに力なく横たわる。
「はあ、まあ見つからないよなあ。俺だってたまたまゲットする方法を見つけたんだし、それに関する悩みも見つかるわけないよなあ」
少しだけ、ダンジョンに対する熱が冷めているのを感じる。長年続けた努力も、あれほど我慢を続けて修了したダンジョンコースも、殴られても耐え抜いた最終試験も、なせか他人事のように感じてしまう。試験官に優秀なダンジョン攻略者になれると太鼓判も押されたはずが、今ややる気自体を失いかけている。
「はあ」
テレビのチャンネルを変えて、何かダンジョン関連の面白いニュースはやっていないかと探していると、一通のメッセージがスマホに届いた。
『兄ちゃん、起きてる?そっちは今朝だよね?』
そのメッセージの主は俺の弟、小野寺小太郎だった。俺に2個下の弟で、現在ヨーロッパのどこかのサッカーチームの下部組織でプレーしている。童顔で華奢な王子様みたいな雰囲気のあいつは時折こうして俺に連絡をくれる。幼い時はよく一緒に遊んだが、サッカーの才能が発揮され始めてからはもっぱら家を留守にしていることが多い奴だ。
『そうだ。なんか用か』
ぶっきらぼうに返信する。弟は俺のことをそれほど嫌ってはいないようだが、俺の両親は違う。まるで俺なんかいないように振る舞うので、弟が俺と連絡を取り合ってるなんて知られたら、何か面倒くさいことになってしまうだろう。俺はともかく弟を面倒ごとに巻き込むわけにはいかない。
『兄ちゃん攻略者になったんでしょ』
『よく分かったな。一昨日からダンジョンに潜ってるよ』
『だって兄ちゃんの受けてるダンジョンコースは一昨日修了試験だったし、兄ちゃんの性格ならその日中にはもう攻略始めてるだろうなって』
どうやら弟には全部お見通しのようだ。まあ弟という存在はそういうものなのだろう。
『でもなんか思っていたのと違ってさ。ダンジョン攻略者を続けようか迷ってて……』
『どうして?あんなに頑張ってたじゃん。僕に筋トレ方法聞いたり、お金貯めてまでダンジョンコースを頑張って受けたんでしょ?』
『昨日と一昨日にダンジョン攻略したけど、なんというか、その、上手くいきすぎちゃってて。なんかほかの人とかにも申し訳ないというか……』
まだ悩みも整理できていない俺は詰まりながらもそう伝えた。やっぱりチートみたいなズルをしても負い目を感じたり、そもそもダンジョン攻略自体が簡単に感じて今まで通りの熱量で挑めなくなったりしているのだろう。
『って、小太郎に言うことじゃないか。ごめん、これからは普通の高校生にでも戻るよ』
柄にもなく弱みを見せてしまい、少し恥ずかしくなる。弟には心配をかけてしまったが、ダンジョン攻略はもう止めに——
『兄ちゃん、止めないでほしい』
なんて思っていると、弟からダンジョン攻略続行を願う一文が届いた。短い一文だが、なんだか圧を感じる。
『僕もそういう経験があるんだ。サッカーを始めた頃、まだドリブルとシュートぐらいしかできなかった時にさ、それでも初めての試合でハットトリックを決めたの覚えてる?』
『もちろんさ。小太郎がまだ小学校1年生だった頃だろ?監督も親もみんなが口をそろえて大天才って言ってたよな』
『うん。僕もその時、楽しいって気持ちよりもほかの人への申し訳なさでいっぱいだったよ。後から始めたのにこんなに上手でごめんなさいって』
初めて知った。小太郎は小学1年生だったのにずいぶん大人びていたんだな。俺とは大違いだ。
『でも今スペインでサッカーをしているけど、そんなことを考える暇なんてないよ。弱点もまだまだ多いし、得意なプレーも全然させてもらいないくらい敵は強い。あの時、サッカーを辞めなくてよかったって思ってるんだよ』
『そうか。小太郎はずいぶん遠くに行ってしまったんだな』
『だから兄ちゃんもダンジョン攻略を続けてほしい。僕たちは兄弟だ。ダンジョンについては僕は詳しくないけど、最初にうまくいきすぎても、きっともっと先にあるのは思っている以上に楽しいことだらけなんだと思うよ』
『……いいこと言うじゃん。なんだか兄弟の立場が逆転したみたいだな』
『みたいじゃなくて本当に逆転しているんだよ。それで、考えは変わった?』
『変わった。ダンジョン攻略者、続けるよ。確かにまだダンジョンレベル2のダンジョンまでしかクリアしていないし、攻略の最前線までまだまだ先はあるからなあ』
『そうそう、その意気で頑張ろうよ。じゃあ僕はこの後練習があるから、じゃあね』
『ありがとな。じゃあそっちも頑張れよ』
弟へお礼のメッセージを送りスマホを閉じる。確かに変に悩みすぎてた節もある。弟の言う通り、まずは自分の行けるとこまで進んでみよう。その先に何があるかはわからない。だが、その何かを自分の目で見ることが俺の夢なんじゃあなかったのか。
「おし、今日はゆっくり休みつつ準備をして、明日からダンジョンレベル3のダンジョン『小倉駅前ダンジョン』に挑むか。そうと決まればダンジョン用品の買い出しに行かないとな」
財布には数千円ある。これだけあれば武器や防具の手入れ用品くらいは買えるだろう。気分も持ち直し、軽い足取りでいつぞやのダンジョン用品専門の百貨店に向かった。
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「ふう、買った買った。これだけあればしばらくは大丈夫だろう」
両腕にダンジョン用品を抱えて百貨店から帰ってくると、ちょうどお昼時だった。荷物を整理しながら片手間で昼ご飯を作っていると、テレビから速報ニュースの音が鳴っているのに気づく。
少し気になり、テレビのテロップを確認するとそこにはこう書かれていた。
【速報】日本ダンジョン委員会、ダンジョンレベル30『博多ダンジョン』攻略作戦を正式決定。本日3月23日18時00分より、公式から会見が予定。
「おお!ついに日本もレベル30のダンジョンに挑むのか!これはますます熱くなってくるなあ!」
テレビのチャンネルをすぐにダンジョン専用チャンネルに変えると、そこでは一人のキャスターが速報についての詳細な説明と日本のダンジョンに対する現状について話していた。料理やら荷物の整理やらを後回しにし、正座でそのキャスターの話を聴講する。
『——日本ダンジョン委員会、通称JPDCは、先ほど国内に存在するダンジョンレベル30と確認されているダンジョンのうち、『博多ダンジョン』への本格的な挑戦を開始する方針を明らかにしました。
レベル30を超えるダンジョンでは各フロアに「罠ギミック」が追加されることで知られており、その発見難易度の高さと致死性を鑑みて一般のダンジョン攻略者の進入が制限されていました。『博多ダンジョン』に対し、諸外国のダンジョンレベル30越えに対する攻略方法に準拠した攻略作戦が行われると思われ、それに伴い最前線で攻略を進めるダンジョン攻略者への期待が向けられています——』
「なるほど、やっぱり海外と同じように罠のギミックは攻略していく感じか」
重要そうな部分は聞けたので、昼飯の用意と道具整理に戻る。キャスターの話を整理するに、どうやらレベル30を超えるダンジョンに対して、最も一般的な方法で攻略を進めるようだ。
ちなみにその方法とは、ダンジョンレベル20以上に出現する魔物のドロップ品である『罠見えのスクロース(レベルN)』『罠破壊のスクロース(レベルN)』『罠解除のスクロース(レベルN)』を使い続けて安全を確保する方法だ。一歩間違えると簡単に即死するようなトラップが用意されるダンジョンレベル30以上のダンジョンでは、そのレベルを攻略できる攻略者の人材的な希少性を一番に考慮し、こうした安全マージンを取った方法が主流となっている。この作戦の難点はダンジョンレベル20以上のダンジョンからしか入手できないスクロースを数百個単位で必要とすることだ。お金も時間も大量に使ってようやく一つのレベルのダンジョンに挑むことができる。この難儀な準備によって世界各国のダンジョン攻略が遅々となっているのだ。
「んー、日本初のダンジョンレベル30攻略か。やっぱり日本有数のクランのメンバーが選ばれるのかな。『夜叉天クラン』とか『宵の明星クラン』とかかな」
昼飯のサンドイッチを頬張りながら今度はスマホで情報収集に勤しむ。先ほどの速報が発表されたからか、どの記事も上々に盛り上がっている。
「やっぱりダンジョンだな。おーし、明日からまた頑張る……いたっ!?」
その時だった。まるでマグマが吹き出るかのような痛みが腹を襲う。慌ててトイレに駆け込み、スイカでも出てきているんじゃないかと疑うような熱戦を繰り広げる。そしてついにブツを捻り出せた時、カランと軽い音が便所に響く。ちょっと人様には見せられない便器の中を覗き込むと、茶色い物体の中にキラキラと光るものがいくつか埋もれていた。
「これは、魔石?……あっ!」
どうやらそれらは以前食べたはずの魔石のようだった。そこにある魔石は全部で12個。この数には心当たりがある。
「九重大学跡地ダンジョンで食べて特殊スキルを得られなかった時の魔石じゃないか?」
よくよく見れば魔石の素材や色など、その時食べたものだったような気がしてくる。あの時は魔石を合計12個食べており、状況的にそれらがそのまま出てきたと考えるのが妥当だろう。
「……なるほど。特殊スキルを得られたときに食べた魔石は排泄されていないが、そうでないときのものは排泄された。つまり、ここにある12個の魔石は本当に無駄だったという説が濃厚だな」
これらの魔石より先に食した魔石は排泄されていないはすだ。そのことを考慮すると、特殊スキルを得るためには魔石が必須であり、その過程で消滅するということがわかる。
「時間はかかるが、ちゃんと特殊スキル習得が進んでいるかを確認できる指標になるな。ふふふ」
トイレの中でつい笑いが漏れたが、ダンジョンへの熱意が戻った今、この新情報を笑わずにいられるだろうか。さっきまでクヨクヨしていたのも嘘のように、やる気が漲ってくる。今すぐにでもダンジョンに飛び込みたい気持ちを抑え、残りの休養日を過ごしたのだった。




