第27話 皇帝の正体
「認めないわ!!」
エレノアは叫ぶように声を上げた。
その剣幕に思羅皇后たちは目を丸くしている。
「わたくしに隠れて陛下をたぶらかすなんて、なんて浅ましい女なの!! 汚らわしい!!」
エレノアが手を振り上げる。ルカは突然のことに何も反応できなかったが、その手を皇帝が掴んで阻止した。
「やめぬか、王女よ」
「陛下!! その女は王妃になどなれる身分ではありません!! 誰も認めませんわ!!」
怒り狂っているエレノアの様子に脅えるルカを、エレノアは射るように睨み付ける。
「皇后様も皇貴妃様も納得しておられるのですか!?」
「エレノア王女、これは陛下のご意思なの。わたくしたちは全員陛下に従うわ」
「そんな! 皇后様!!」
思羅皇后の静かな返答に、エレノアは愕然とし首を振る。
華露皇貴妃も玲貴妃も才貴妃も納得しているのか、顔色を変えず小さく頷くだけだ。
「エレノア王女よ。そなたがここに来てから色々な試練があったと思う。それらはすべてそなたの王妃としての資質を問うものだった。だがそなたはそれらをことごとくルカに押し付け、己は怠惰な暮らしを選んだ」
「そ、それは!!」
「ルカがしたあらゆることを、己の手柄とし、嘘を吐き続けた」
「だ、だって! それは使用人の仕事だから! わたくしのやることじゃ……」
皇帝の指摘にエレノアは慌てて言い訳を口にしようとする。だが皇帝は厳しい目をエレノアに向け続けた。
「それらすべては不実であり、誠意のない行いである。国を治める者に必要なもの、それは誠実さとあらゆる試練を己で乗り越える力だ」
「そ、それがルカに備わっているというのですか!?」
「ああ」
間髪入れずに頷く皇帝に、エレノアは言葉をなくし唇を噛み締める。
「ま、待って下さい! 私、本当に王妃なんて……」
勇気を振り絞ってルカが声を発すると、ルカに視線が集中する。一気に緊張感が増す中、ルカは両手を握り締めた。
「ルカならば良い王妃になる」
「そうよ。あなたは働き者だし、王妃に相応しいわ」
「皇后様……。私、私、本当は……」
『好きな人がいるから王妃になれない』そう言わなくてと覚悟を決めた時、扉がバタンと開いて嵐が走り込んで来た。
「嵐!?」
「ここにいたのか……」
走ってきたのか、嵐は少し肩で息をしていたが、大きく息を吐くと皇帝を見た。
「秀の家に行ったというから慌てて行ってみれば、勝手に色々して。どういうことなんだ」
「嵐、これはね、あの……」
ルカが説明しようとすると、皇帝がルカの手を握っていることに気付いた嵐の表情が変わった。
ずかずかと近付くとパッと皇帝の手を振り払い、ルカの手を握り自分の方へと引っ張る。
「櫂! いい加減にしろ!」
嵐の大声にその場にいた全員がビクッと身体を竦めた。それは皇帝も同じで、それまで見たことがないほど戸惑った表情を見せた。
「お前たちにも思うところがあるだろうからと好きにさせていたが、もう限界だ。終わりにするぞ」
「だが、」
「終わりだ!」
何かを言おうとした皇帝の言葉を遮り、はっきりと嵐がそう言うと、突然皇帝が跪いた。
ルカは驚いたが、もっと驚いたことに皇帝の姿が揺らいだように見えたと思った瞬間、人の姿が溶け消えて、大きな黒い黒雷尾へと変化した。
あまりの驚きにルカもエレノアもポカンと口を開けてそれを見た。気付けば、そこにいた思羅皇后も他の妃たちも消えていて、そこにはそれぞれ違う大きさの黒雷尾が並んでいる。
それはルカがいつか何度か会ったことのある子たちだと気付き、目を丸くした。
「二人とも、悪いことをしたな」
「どういうこと!? この皇帝は魔物だったの!?」
困惑したエレノアの声に、嵐は眉を顰める。
「ただの魔物じゃない。櫂たちは晶国を守護する大事な存在だ。この剣雷山の主で、国王の大切な僕だ」
「わたくしはずっと魔物に騙されていたっていうの!? 陛下は? 本物の陛下はどこにいるの!?」
エレノアの剣幕に嵐は溜め息を吐く。
(まさか……、嘘よね……)
ルカは自分の手を握って放さない嵐の横顔を見つめて、脳裏に閃いた自分の考えを否定する。
そんな荒唐無稽な話がある訳ないと思っていると、また扉が開いた。そこからわらわらと人が入ってくる。
「陛下、準備が整いました」
「ああ。エレノア王女とルカを水晶宮にお連れする」
文官のような男性に声を掛けられた嵐が、静かに受け答えする。周囲に控えた侍女らしき女性たちも、皆嵐に敬意を払っている。
「う、嘘よ……」
慄くようなエレノアの呟きに、ルカもまた嵐を見る。
「そう、俺がこの国の国王だ」
笑ってそう答えた嵐を、ルカは言葉もなく凝視した。




