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ONLOOKER  作者: 鳴瀬倉
11/31

擬似的な彼女~留学生は男の娘~4

 直姫の携帯電話が、振動で着信を知らせる。

 電話の相手を確認すると、隣の部屋に移って、受話ボタンを押した。


「もしもし。夏生先輩? どうしたんですか?」


 声を潜めてそう言った途端、いつもより格段に低い声が、受話器から這い出す。


『どーしたんですかじゃないよ、これ考えたのあんたなんだって?』

「あぁ、はい」

『なんで俺一人こんなめんどくさいことしなきゃいけないの。観光目的なら俺たちじゃなくてもいいでしょ』

「大丈夫です、ちゃんとこっちも見張ってますから」

『はあ? だったらなおさら』

「二人きりの方がサトちゃんが楽しいかなーと思って。あとおもしろいから」

『おい今なんつった。お前もかよ……』

「……正直、サトちゃんがあんまり我が儘ばっか言うから、もう嫌んなっちゃって。そもそも先輩が節操ないからこっちまで追っかけて来ちゃったんじゃないですか」

『俺のせいじゃないでしょ。ふざけんのもいい加減にしてよ』

「文句はあとで聞きますから。適当にサトちゃんの相手しててください、ちゃんとすぐ追い掛けます」

『は!? ちょっと直、』


 夏生の言葉を最後まで聞くこともなく、通話は終了していた。

 携帯電話を持った手を降ろして、直姫は襖に近寄る。わずかに開けた隙間から、廊下の黒いスーツ姿が見えた。


「あとは……うまく抜け出せるか、かな」


 恋宵たちが帰ってこないことを、彼らもいい加減不審に思うだろう。そしてそこにいる里吉が、ロングヘアーのウィッグを被って下を向いた恋宵だということに、気が付くのに時間は必要ないはず。

 それまでに、なんとか。

 なんとかしなくては。

 けれどもうすでに、計画は大詰めだ。


「サトちゃん、夏生先輩たちが、おやつ運ぶの手伝って欲しいって。榑松さんがすごいの用意してて、全然持ちきれないんだって」


 部屋に入るなり、里吉の姿をした恋宵に向かって言う。声を出せば別人だとすぐに気付かれてしまうので、話さない彼女のカムフラージュのために、准乃介と紅と真琴が周囲でがやがやと話している。

 二人が部屋を出ると、その後を、スーツの男たちが三人、ぴたりと付いて来た。

 里吉と恋宵では五センチメートル以上も身長差があるので、それを悟られないように、踵を浮かせて歩いている。毛足の長いスリッパのおかげでなんとか誤魔化せてはいるが、今この一瞬しか通用しない手だろう。

 歩きながら会話がなくてもなんとか不自然ではないように、直姫はずっと携帯電話を操作するふりをしていた。

 忙しなく指先を動かしているが、男たちがこちらを注視している様子はない。これは、直姫が数日間、里吉とボディーガードたちと行動を共にして、気付いたことの一つだった。

 彼らの護衛対象者は、あくまで、里吉一人だけなのだ。

 だから他の人間がなにをしていようと、里吉に関係がなければ眼中にはないし、逆にいえば、彼らがどんな状況になっても、最優先するのは里吉の身の安全だけなのである。

 それなら、それを利用するまでだろう。



 三人の大男を引き連れた偽里吉と直姫が台所に着くと、榑松が飛び出してきた。ちなみに石蕗邸は外見こそ純和風だが、リビングダイニングはフローリングだし、洋室も幾つかある。台所も洋風のものと、だだっ広い和風のものとがあるが、普段主に使っているのは、使用人が慣れている洋風の方だそうだ。

 榑松は相変わらず忙しそうに、落ち着きなく言う。


「おっと、こんな大勢でぞろぞろなんだってんですか。部外者をお台所に入れるわけにゃいきやせん、ごっついお兄さん方はここでお待ちくだせぇ」


 そう一息に言うと、スーツの男たちに反論する暇を与えず、二人を引っ張って大きな扉の向こうに消えてしまった。中で、飲み物や軽食の用意をしているのだ。

 確かに彼らの大柄さならば、それほど広くもない台所の中では、どこにいたって邪魔になることは目に見えている。使用人である彼女にああ言われてしまっては、大人しくそこで待っているしか手はなかった。

 しかし、それからわずか数分後、事件は起きたのである。


「きゃあああああぁぁぁあ!!」


 突然、甲高い悲鳴が響いた。判断する時間も惜しんで、台所の引き戸を開く。

 紅や榑松は狭いと言っていたが、そこは石蕗家の基準、実のところちょっとしたレストランの厨房並みの広さはある。

 物の間を縫うようにして駆け付けた彼らがまず見たのは、呆然と立ち尽くす榑松と直姫の姿だった。

 テーブルの上では、大皿にケーキやお菓子が乗っている。ポットの紅茶はあとは注ぐだけになっていたが、カップが一つ、ソーサーから落ちて、テーブルに転がっている。

 そのテーブルの足元に、恋宵が座り込んで、うつ伏せに倒れた聖の肩を揺すっていた。


「ひじぃ!? ひじぃっ、しっかりしてよぉ……!」


 動かない聖の肩や背中にぺたぺたと触れながら、恋宵は涙声で彼の名前を呼び続けていた。

 男たちは、素早く視線を巡らす。

 いるはずの、いや、いなければならないはずの人物が、どこにもいなかった。

 半狂乱になった恋宵が、嗚咽混じりに訴える。


「どおしよ、りよちゃんと、なっ、夏生が」

「なにがあったんです!?」


 ボディーガードの一人に肩を掴まれた直姫が、目を見開いたままで、言う。その視線は、細かく泳いでいた。


「今っ、そこからいきなり入ってきて、二人を……止めに入った聖先輩が……っ!」


 呼吸が荒い。震える指が伸びて、勝手口を指す。その扉は開け放たれたまま、蝶番が弱いのか、通る風に揺れていた。

 男たちは、彼女らの様子や状況で事態を瞬時に把握して、顔色を変えた。ここ数日で恐らくはじめて見せる、表情の変化である。


「きゅ、救急車……」


 榑松が我に返り、エプロンのポケットから携帯電話を取り出す。

 それがどうやら、行動の引き金となった。

 一人は残る三人を呼びに離れへと走り、二人はすぐさま外へ飛び出して行く。自分たちが守らなければいけない人物は、今回の来日中、もっとも恐れていた事柄に巻き込まれているのかもしれない。

 取り乱した恋宵と直姫と、倒れた聖の近くの赤色が、視界に入っていたせいだろうか。それとも、切迫して見える状況が、判断能力を奪ったのだろうか。

 彼らのうち誰も、里吉のピンチを疑うことはなかった。


 ◇


 たった今ものすごい勢いで大男たちが飛び出して行った扉が、きぃ、とかすかに耳障りな音を立てて軋む。

 その音以外は、ぴりりと冷たい水面のような静けさだった。


「……はあ、よかったあ」


 そこにぽとんと落とされた呟きは、倒れた聖に縋りついて、気が狂ったように泣きじゃくっていたはずの、恋宵の声。


「はは……恋宵ちゃん、名演技」


 放心状態を装っていた直姫は安堵の溜め息を吐き、聖も固い床から起き上がって、額に垂らした血糊を手の甲で拭う。

 勝手口から突然知らない人が入ってきたなんてことはもちろんないし、夏生と里吉の二人は拐われてもいないし、聖は殴られてなんかいない。榑松は携帯電話を持つ手を降ろした。119番にかけているふうを装って、裏返った声で話し続けていたが、その電話はどこにも繋がってはいなかった。

 すべて彼らの自作自演、ボディーガードの六人を騙すための一芝居だったのだ。


 この方法で、企みの通りにいく保障なんて、どこにもなかった。

 部屋に戻った偽里吉の正体がすぐにバレていたかもしれない。この台所での小芝居が見破られていたかもしれないし、例え騙せていたとして、彼らのうちの一人でも里吉を探しに行かずに残ってしまっていたら、計画は失敗だった。

 一歩進むたびに、いちいち穴だらけな作戦。

 それでもここまで成功したのは、ひとえに彼らの悪運の強さのおかげだろうか。恋宵の意外な演技力も、一役買っているかもしれない。演技のできない紅が部屋に留まるのは必然だったが、偽里吉役の恋宵に関しては、全く未知数だったのだ。


 二人を捜しに行ったボディーガードたちが、冷静になって戻って来る頃にはもう、台所も離れももぬけの殻、やがて彼らは嵌められたことに気付くだろう。

 あとは、見張りのいない今のうちにここを全員で抜け出して、デート中の二人を追うだけだ。

 そもそもこの作戦の目的は、里吉を夏生と二人きりにさせること。彼らは里吉の監視という名目で、興味本意で後を付けようというのだ。


 ──そう、計画は、成功したかに見えた。

 たったひとつ、一番大きな“穴”を除けば。


 その穴は、脆くも致命的で、儚くも決定的だった。


 ◇


『なっちゃん(東)ドッキリ大作戦』本部・石蕗邸から、さらに郊外へ向かうこと十五分。

 悠綺高校の門も通りすぎて先へ進むと、それほど大きくない、そして新しくもない遊園地がある。

 タクシーに乗り込んだ(詰め込まれた)夏生と里吉は、そこに降ろされていた。入場料を黒いカードで払おうとして係員を戸惑わせ、そのカードは使えませんと言われ、代わりにしっかり現金を用意していた里吉が支払い、ついでに外見のおかげで周囲の注目も浴びに浴びまくって、すでにすっかり疲弊してしまっていた。


「夏生さまっ、次はどれに乗りますっ?」


 一方の里吉はというと、順番待ちをほとんどしなくていい遊園地に来たのがはじめてらしく、全力ではしゃいでいた。

 日本に来て、保護者もつけずに外出したのもはじめてらしい。今回は特に、強面の大男が六人もぴったり張り付いていたのだから、羽を伸ばすどころではなかっただろう。

 目を輝かせる里吉は、夏生と二人ということよりも、むしろ遊園地で気楽に遊べることのほうに興奮しているように見えた。


「あ、写真! 夏生さま、記念写真撮りましょう?」


 屋台で買ったチュロスを平らげた里吉が、写真撮影コーナーを見つけて飛んで行く。

 疲れてはいるし機嫌も悪いが、外では本性を現すわけにはいかない夏生は、溜め息を吐いてその後を追った。


「はい、撮りますよー、笑って!」


 スタッフの声と共に、フラッシュが光る。

 満面の笑顔でピースサインを決める里吉と、なんとか仏頂面に見えない程度の微笑みを浮かべる夏生。本人の意思とは裏腹に、嫌味なほど絵になっている。

 被写体が良いのでサンプルとして看板に飾ってもいいかとスタッフに聞かれたが、丁重に断っておいた。

 買い取った台紙付きの写真を眺めながら、里吉がふと呟いた。


「記念写真なら、皆さんで撮ったほうがよろしかったでしょうか……」


 夏生が横目で里吉を見ると、はっと気付いたように顔を上げて、上擦った声を出す。


「あ、いえ、別に皆さんと撮りたかったとかそういうわけじゃありませんの、ただその」


 慌てたようにそう言って、一度口を噤んだ。

 顔を逸らす。


「な、なんでもありませんわ、忘れてください」


 そして、ぱっと視線を上げて、正面を見た。

 写真撮影の背景にもなっていた、この遊園地の目玉らしい、観覧車だ。巨大な円の外周に、丸い形の箱が並んでいる。

 それを指差して、里吉が振り返った。


 ◇


「あそこ、悠綺高校が見えますわ! 石蕗邸は……あの山の影でしょうか」


 大きなガラス窓に張り付いて、里吉は歓声を上げる。

 普段から夏生と接する時だけはわりときゃぴきゃぴしていたが、ここまでではないだろう。小さな子供のように景色を眺める里吉に、夏生は目を細めた。


「ねえ」

「はいっ?」


 上記した頬で振り向く里吉に、夏生は眉を僅かに動かす。


「これを降りたら帰るからね」

「えー……そんな、早すぎますわ」

「自分の立場分かってんの。こんな目立つとこに来て」

「目立ってるのは夏生さまじゃありませんこと?」


 唇を尖らせた里吉を軽く睨みつける。

 そんなことは夏生にもわかっているのだ。だからこそ、さっさと帰りたいというのに。

 外見のせいで目を引いているだけなら問題ないが、スタッフや客の中に、二人の身分を知っている人間がいないとは言い切れない。


「身の危険があるなら、明るい屋外で、人目はむしろ多いほうがいいと言われましたの。ほら、水族館なんかじゃ、いかにも危ないでしょう?」

「それは……そうかもしれない、けど」


 思いの外冷静に言い返してくる里吉に、夏生は違和感を覚えた。今がはじめてというわけではない、ずっと薄々感じていたものだ。

 好きになった人に会うためにわざわざイギリスからやってきた、なんて言うわりに、夏生への直接的なアプローチはない。というより、人目のないところで――いや、“生徒会役員の目のないところで”のアプローチが、ないように思えるのだ。


「あんたさ、ほんとは……」

「えっ? なんですか?」

「……いや」


 きょとんとする里吉から目を逸らして、夏生は言う。


「護身術は」

「それなりに。夏生さまは?」

「……かじった程度」

「嘘おっしゃらないで。東雲財閥のご子息ともあろうお方が……合気道ですわね?」

「よくわかったね」

「わかりますわ。なんとなくですけれど、お手前も。少なくとも、かじった程度じゃないことくらいは」

「……さあね」

「いざとなったら夏生さまに守っていただこうかしら?」

「自分の身は自分で守りなよ」

「まあ、冷たい」


 そう言って、里吉は肩を揺らして笑う。

 やっぱり、と夏生は思った。

 直姫たち生徒会役員に対しての顔と、夏生に対しての顔が違う、どころではない。

 直姫たちの前で夏生に見せる顔と、彼らのいないところで夏生にみせる顔とにも、差があるのだ。


「わかりました。でも最後にもうひとつだけ、よろしくて?」

「……なに」


 ずいぶん寛容に接している、と思いながら、夏生は尋ねる。

 聖に言われたからでも、大手文房具メーカーの子息のご機嫌取りが必要なわけでもない。

 なにか裏があるように思えるのだ。そして、それを自分が知らないことが、気持ち悪くて仕方がない。

 夏生に探られていると、わかっているのかいないのか、里吉は悪戯っぽい笑みを浮かべて、言った。


「お化け屋敷に入ったら、帰ることにしますわ」


 ◇


「……なんでよりによってここを選んだんでしょう」


 ぼそりと呟いた直姫の言葉に、頷かない者はその場にいなかった。


「ねー、ほんとに……」

「もう少しいけば動物園あるじゃないですか。あっちの方が人多くて広くて目立たないのに」

「しょうがないよ、サトちゃんが遊園地に行きたいって」

「これじゃあ尾行するこっちが目立ってしまうな……」

「まぁ……それもしょうがないよねえ。」


 細い紺色のフレームの眼鏡をかけた准乃介が、苦笑を浮かべた。彼の眼鏡は度の入っていない伊達だが、真琴がかけているシルバーのハーフリムの眼鏡は、普段から使っているものだ。

 二人の雑な変装に反して、聖はウィッグに恋宵は帽子と、多少凝ってはいる。直姫はもともとあまり派手な格好を好まないのでそのままだが、恋宵や聖は、普段着とは違う地味な着替えまで用意して臨んでいた。とはいえあくまで彼らの基準なので、准乃介から「それどこが地味なの?」とつっこみが入っていたが。

 紅もなにもしなくては目立つからと、長髪を編み込んでまとめ、帽子を目深に被っている。直姫たちが台所で小芝居を打っている間に、准乃介にスタイリングされたらしい。

 六人中、意図的に表に出ないようにしている直姫を除いて、五人全員がなんらかの形で知名度があるのだ。周りに気付かれて話しかけられでもすれば、相当面倒なことになるだろう。

 そんなわけで、なんとか溶け込む方法を考えた結果だ。

 けれどそこまでしてなお、彼らは人目を引いていた。多少顔を隠して簡素な格好をしたところで、端から見れば、どこか精錬された雰囲気を持つ美男美女の集団、ということに変わりはないのだ。

 平日の夕方、という全く混まない時間帯も影響してか、通る人通る人皆が、程度の差はあれど、彼らに視線を送っていく。


「ね、あれ柏木聖くんじゃない?」


 空気の読めない誰かのそんな声が聞こえて、茶髪のウィッグを被った聖が、慌てて顔を背けた。

 だがそれも手遅れで、彼に注目が集まってしまえば、隣にいるInoや佐野真琴や沖谷准乃介の存在にも気付かれてしまうのは、明らかなことだった。


「こんなんじゃこっそり尾行なんて無理ですよ」

「団体行動だから目立つんじゃん? 二人ずつに分かれましょうよ」

「そうだねー。じゃあ紅、行こっか」

「な、なんでお前が私と組むんだ!」


 ごくごく自然に腕を取った准乃介を振り払い、紅が叫ぶ。途端に後輩たちから口々に「しーっ」「先輩静かに!」という声が飛んできて、何か言いたげな口を閉じた。

 だが紅の抗議は、実に最もなことなのである。

 彼女が照れ臭いから、なんて理由ではない。准乃介のほうの問題だ。

 芸能人という立場上、たった一枚異性と一緒に写っている写真を撮られただけで、評判が地に落ちるなんてこともあり得るのだ。ただの友達だとか、本当は他の友人と数人でいただとか、そういう言い訳は一切通じないと言っていい。

 現に准乃介と紅だって、たまたま一緒にいるところを撮られた写真がゴシップ誌に載って話題になったことがあったと、榑松が言っていた。


「じゃ、恋宵ちゃんは俺とで?」

「ええ~」

「えー、俺とじゃいやなのー」

「だって目立つじゃにゃい」

「いや頑張って気配消すし!」

「駄目だ! それじゃあ真琴が直姫と組むことになるだろう?」

「そーよ、まこちゃんデート報道デビューしちゃうにょろよう」


 がやがや言い合っているのを、なにも口を挟まずに見ていた二人に、彼らの視線が向いた。

 直姫と真琴を、ぱ、と見比べる。

 そして、准乃介が呟いた。


「……大丈夫でしょー」


 細身のブルージーンズにオーバーサイズのトレーナー、足元はハイカットのスニーカー。

 直姫はそんな服に身を包んでいた。ボーイッシュどころか、どこからどう見ても、華奢な少年である。

 長い睫毛や低くはない声ですら、成長期真っ只中の男子学生らしさに拍車をかけていた。

 直姫は、少しだけ眉を寄せる。


「え、と。ここは怒るところですか」

「直ちゃん、それ聞いちゃった時点でもうダメだにゃあ」

「あ、そうですね」

「恋宵と一緒でもカップルってより姉弟だよねぇ」

「……先輩たちが、目立たない格好してこいって言うから」


 できるだけ目立たない、かつ本当は女であることがバレないように。普段からそんな服の選び方をしているのか、いいところのお嬢様にあるまじき格好であるはずなのに、妙にこなれた様子だ。

 確かにとびきり地味にしてこいと指定はしたが、もう少しなにかあったのでは。そう言いたげな目に五方向から見られて、直姫はさらに少し、眉をしかめた。


「いつもは……お手伝いさんが選んでくれるんで、もう少し、ちゃんとしてます。襟付きが多いし」

「あ、そう……」

「直姫は誰とペアでも問題なさそうだねえ。じゃあそっちで適当に分けてよ」

「私とお前と組むことに問題が有るのは変わりないだろう」

「なに、写真気にしてんの? 一度載るのも二度載るのも同じだって」

「そんなわけあるか!」


 へらりと笑った准乃介に、紅が顰めっ面をして見せる。

 一方では、面倒になった恋宵が「じゃんけんで決めるにょろ。さいしょはグーね」と言い出し、聖からブーイングを浴びていた。


 要するに、ただ単に、尾行ごっこと称して遊びたいだけなのだ。

 里吉の要求を飲んで渋々、というていで来たわけだが、観覧車やジェットコースターを見ているうちに、だんだん楽しそうに思えてきてしまった。

 適度に人目はあるが、それほど混んでいない。つまり、なにか怪しげな動き、例えばマフィアの手先に誰かが襲われたりなんてことがあれば、目立ってしょうがないはずだ。

 さすがにこんなところで行動を起こしてくるほど、相手方も考えなしではないだろう。

 里吉には夏生も付いているんだし、遊ぶ片手間の監視だって十分なはずだ。一回りしたら合流して、今度は全員で動けばいい。


 そんなふうに考えていた。

 そんなふうに考えていたことが、間違いだったのだ。

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