試験
今日はキャシーの甘いキッスにより気持ちの良い目覚めを迎えた。
前までは弄られているって感じが強かったけど、今は甘えてきているって感じが強い。抱き着き方も何だか生々しくて淫猥な雰囲気を醸し出しているし、ちょくちょくキスもしてくる。
なーんか……照れちゃいますね。デュ、デュフフッ。頬の筋肉がだらしなく垂れるのを俺は止められない。
「主よ、朝からご機嫌だな」
「お、おうノルミ……デュフッ、お、お早う」
まったく。こんなに甘え上手になっちゃって、俺っち困っちゃうよキャシーさん。
スーラみたいに成長しているのか、単純に絆が生まれてきたのか、色々推測は出来るけど……個人的には非常に嬉しい変化ですな。
ただこれ以上エスカレートしたら一線を越えてしまいそうだ。もう色々と超えているけども。
さて、今日はお待ちかねの昇格試験を受けに行こう。昨日は精神的に疲れが溜まっていたので一日休んだからな。
と、言っても昨日はノルミの中に残されていたアイテムを調べたり整理したりしていたのでダラダラしていた訳ではない。
調べてみると、良く分からない謎の物体やら、既存の製品に改良を加えたような物やら、明らかにただのゴミやら、地味に様々な物が入っていて大変だった。正直まだ調べきれていない。
だけど、売っても問題なさそうな物を幾つか売り払ったら合計10000Gにもなった。頑張って貯めた全財産を上回る額が在庫処分感覚で手に入るとは、これに関しては魔術師ガイルに感謝だな。
現在の所持金は17000Gとちょっとだ。リッチだぜ。
ノルミも魔力だけで生きていけるので食費も掛らないし、今回の件は完全にプラスだ。
そんな休日を過ごしたので今日は体を動かしに行こう。
日課であるマンドラゴラへの水やりを欠かさずに終えて、身支度をして、いざ出発。
「じゃあ行ってくるね」
「ああ。気を付けるのだぞ、我が主よ」
ノルミは体が重く自力で動けないので、宿でお留守番だ。
「こちらが試験内容になります」
何だかんだ毎回利用するのでお馴染みになりつつあるクールな美人秘書風の受付の方に試験を受ける旨を伝えると、一枚の紙が手渡された。
ちなみに、彼女はダイアナという名前らしい。シュッとした印象を持つショートカットの黒髪。長めの前髪は流れるように斜めで分けている。全体的にスマートな雰囲気の顔立ちで、銀縁の眼鏡がエリートっぽさを際立たせている。そして、白を基調としたギルド女性職員用制服をピシッと着こなした姿は一つの理想形とも言えるだろう。
初めの頃は余りに人間味のない冷たい空気に萎縮してしまっていたが、今となっては隠れファンと言っても良い程だ。
試験内容はビッグ・ボアの討伐。それがEランクへ昇格するための条件らしい。
ビッグ・ボアとは魔力によって巨大化した凶暴な猪型魔物のことだ。今のレベルと戦力なら問題ないだろう。
ホシコは俺とパーティー登録してあるので、合格すれば二人とも同時に昇格できる。
ギルドでのパーティー登録とはメニュー画面で組めるパーティーとは別で、ランク一つ違いまでの冒険者で四人まで組むことが可能なギルド内グループのことだ。
依頼が一つでも四人分の達成状況を更新出来るので得だが、報酬は増えないので分配する必要が出てくる。
「みんな準備は良いか?」
「もちろんっす」
「「「ダイジョブ」」」
プルンッ
「ギャウッ」
「よし、じゃあ出発だ」
ビッグ・ボアはいつもの平原で出没するらしいのだが、今まで遭遇したことはない。
ネトゲでは肉を使って誘き出せたので、周囲の魔物を狩って一点にまとめておいた。
そのまま、遠くで身を隠していると……来た。
体もそうだが、牙も大きくて強そうだ。
ビッグ・ボアが食事をしている間に背後へ回り、飛び出す。
ハーピー三姉妹やホシコには後方支援を頼み、スーラとキャシーは待機。防御の高い俺が近接戦闘を仕掛ける。
まずは、背後からの斬り込み。
ザシュッ
「ピギャアァァアッ」
よし、十分効いているようだ。しかし、まだ傷は浅い。
そこへホシコが光線銃で、ハーピー三姉妹は魔力を込めた風を翼で放つ『ウィンド・ショット』を三発合体させた技『ブラスト・ショット』で追撃。
光線銃の命中した箇所は黒く焼け焦げ、ブラスト・ショットの威力で巨体が横たわった。
そこへ猛襲を仕掛け……終わった。
少し呆気ないが、こんなものだろう。
ビッグ・ボアの経験値を得て俺、ホシコ、スーラ、キャシーはレベル9に上がった。
スーラがまた少し大きくなったような気がする。
「やったっすね。これで昇格っす」
「そうだな。さっさと帰って昇格祝いでもしよう」
「「「パーティー、パーティー」」」
「ギャアッ」
プルンッ
戦闘が終わったのでキャシー、スーラもこっちへ来た。
ザッザッ
なんだ? 何か音が……え?
ビッグ・ボアが五体もっ!? なんで? ビッグ・ボアは群れを作るような魔物じゃないはず。お互いに反発し合って争いが起きてしまうはずなのに、五体が俺たちを取り囲むように向かってくる。
「マ、マスター!! 何っすかこれっ!?」
「「「テキ、イッパイ」」」
「お、俺にも分からん」
今はみんなが集まってしまっている。俺は大丈夫だろうが、この状態で戦うのは危険だろう。
「イーピー、ニーピー、サーピー、みんなを連れて崖上に退避するぞ。頼めるか?」
「「「マカセテッ」」」
ハーピー三姉妹に崖上まで運んでもらう。俺はスーラを抱えながらイーピーの足を片手で持ち、ホシコはニーピー、キャシーはサーピーにお願いした。
キャシーが少し心配だが、危なくなったらホシコがテレキネシスでフォローしてくれるようなので問題ないだろう。
バサッバサッ
何とか無事に退避は完了した。
崖の上からビッグ・ボアたちを見る……え? 他にもこっちに何か大きな影が向かってくる。
物凄いスピードで、そのまま一切減速することなく……。
ゴォオンッ……
「うわっ!!」
その大きな影は崖に対して突進をかましてきた。
凄い力で崖が振動する。
ビッグ・ボアよりもさらに大きく、二階建ての家ほどもある巨体。長く太く、一突きでゾウも殺せそうな牙。崖に強力な突進を放てる強固な体。
そして、金色に輝く体毛と立派な鬣を持つその姿は恐らく、ボア種の頂点に君臨する『グリンブルスティ』だ。
しかし、グリンブルスティはボスとして登場するような上級の魔物。こんな平原にひょっこり現れるなんて、どう考えてもおかしい。
ゴォオンッ……
「や、やばいっすよマスター。このままじゃ崖が崩れそうっす!!」
た、確かにこれはヤバい。しかし、今の俺たちが勝てるような相手ではない。ビッグ・ボアまで引き連れているのだ。
かと言って逃げることも不可能……。
そう、グリンブルスティにとっては陸、海、空、どんな場所においても等しく足場となる。
逃げようものなら突進をお見舞いされて、おしまいだ。
俺が戦うしかない。
俺なら何とか持ち堪えることが出来る。俺が惹き付けている、その間に街へ増援を呼びに行ってもらおう。
「ホシコ、頼めるか?」
「そんな、マスターとはいえ危険っすよ!! もしもの事があったら……」
「頼む。他に方法はないんだ。急がなければ全員死んでしまう」
「でも……」
「大丈夫だ。俺には未だ誰にも見せたことのない必殺技がある」
「……必殺技っすか?」
そうだ。使う機会がなくて一度も試していなかったが、俺にはまだ奥の手が存在する。
上手く行くのかも分からないし、それでどうにか出来るような相手でもないだろうけど、生き残る確率は上昇するだろう。
「みんなも見ていてくれ。俺が今からすることを。そして、納得したら街へ増援を呼びに行ってくれ」
「わ、分かったっす」
「「「ワカッタ、ワカッタ」」」
「ギャアッ……」
プルンッ
自分の体、その奥底に眠る悪魔の血。
そこへ魔力を注ぎ込むように意識する。
禍々しく邪悪で、どす黒い。
次第に全身を駆け巡り、魂を漆黒に染め上げて行く『力』。
――悪魔化
俺の肉体は“悪魔”と化す。




