↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う竜  作者: mashironotsuki
PR
30/31

003話08 剣は凪のように軽く

試合開始の合図も、ルール説明もなかった。

ウェルマーがリングに上がると、アルは両手のダガーをくるりと回し、腰を落として構えた。対するウェルマーは重剣を肩に担ぎ、真正面から睨みを利かせている。

周囲を照らすのは観客席の松明だけ。二人の影が床板の上でゆらゆらと揺れていた。


「ねーねー、おっさん。準備いい?」

「俺はウェルマーだあああッ!!」

「うわっ!もう始まってる!」


ドン!!


ウェルマーが一気に間合いを詰め、重剣を振り下ろした。


「ぴょんっ!」


軽く跳び退いたアルを追って、横薙ぎ、切り返し、さらに踏み込んで突き。剛剣の連撃をアルはひらりひらりと躱し、最後の一撃を潜り抜けると、そのまま視界から消えた。


「こっちだよ〜!」


背後から耳元へ囁く声。

だが、ウェルマーは振り向かない。松明に照らされた影を捉え、剣を引く勢いに乗せて左の裏拳を叩き込んだ。


「グゥムンッッ!!」

「うわっ!」


ガッ!


辛うじて身を捻ったアルの頬を、拳が掠める。


「……っぶな!今のどうやったの!?」

「ムウッ!やるなああああッ!!」

「うわわっ!声デカッ!!」


至近距離で浴びた怒号に、アルは思わず耳を塞いだ。


「オラアアッ!薙ぎ払いいいッ!!」


ブオン!!


「うひゃっ!」

「下段からカチ上げええッ!返しで潰れろおおッ!!」


ガゴン!!


振り上げられた重剣が床板を叩き割り、間髪入れずに繰り出された刺突がアルを追い回す。


「上下横横下上斜め横斬りぃぃッ!!」

「ちょっ!うるさっ!耳元で叫ばないでよ!」

「上段じゃねえええええッ!!!」

「えっ!?」


振り被った剣を途中で返し、低い位置から渾身の一撃。


ドゴォン!!


「わおっ!怖い怖い!じゃあお返しっ!」


紙一重で躱したアルは、咄嗟に両手を床につき、四つん這いでウェルマーに向かって走り出した。


「わおーん!四つ手熊だぞ〜!」

「だから熊じゃねえええええッ!!!」


ビリビリビリッ!!


「うわわっ!?」


またしても耳元で炸裂する怒号。流石のアルも三半規管を揺さぶられたか、目を回して足がもつれた。


「……あれっ?」

「俺はウェルマーだああああああッ!!!」


ウェルマーは好機を逃さず、重剣を横一閃!


ブオン!!ォドゴーン!!!!


ところがアルは剣を仰け反って躱すと、そのままの反動でウェルマーの懐へ倒れ込み、下から顎を頭突きで突き上げた。


ゴッ!!


「ぐおっ!?貴様、ブゥラァフかぁぁ!!」


目の前に火花が散る。

堪らずたたらを踏んだウェルマーだったが、最後の意地でアルの額に頭突きを叩き返した。


ゴツンッッッッ!!


「いっだぁ〜!!」

「おおおっ!フェルマーが当てやがった!!」

「すげぇ!アルがまともに食らったぞ!!」


俄に沸き立つ観客席。先程まで一撃も捉えられなかった少年に、とうとう一矢報いたのだ。


「……痛たた。おっさん、頭かた〜い!」


アルは額を押さえながらも、嬉しそうに笑った。


「すっごーい!いい一発だったね!」

「ふん!まだまだこれからだああッ!!」


ウェルマーが重剣を構え直した、その瞬間。


ザッ!!


アルの姿が消えた。


「……!?」


慌てて足元を確認した時には既に遅く、背後へ回り込んだアルに片足を絡め取られ、踏ん張る間もなく体勢を崩されてしまった。


ドスン!!


「ぐおっ!?」


仰向けに倒れたウェルマーの喉元に、ダガーの切っ先がぴたりと添えられる。


「はい、おわりっ!」


満面の笑みを浮かべるアル。

ワアアアアアアッ!!


観客席から割れんばかりの歓声が上がった。


「……くそっ、やられたか」

「えへへ、次は本気出してねっ!」

「……十分本気だったわ!」


ウェルマーは仰向けのまま苦笑した。

速さもさることながら、こちらの動きを見切る勘の鋭さと、あの変幻自在の立ち回り。重剣で捉えるには相性が悪すぎる。

だが、なかなか面白い勝負だった。


「ほら、おっさん!立って立って!」


差し出された手を掴み、ウェルマーは立ち上がった。


「おっさんじゃねえ!ウェルマーだ!」

「はーい!フェルマーのおっさん!」

「だから違うっつってんだろうがああああッ!!」


ドゴオオオオン!!


再び闘技場を震わせる怒号。

観客たちは大笑いしながら二人に拍手を送り、アルはその声援に応えてウェルマーの腕を高々と掲げた。


「ありがとー!みんなまた来てね〜!」

「ああ、どうも……って、俺の腕で何してんだ!」


少年は楽しそうに笑っている。

この無法地帯で誰よりも自由に振る舞い、荒くれ者たちからも歓声を浴びる、小さな王子様。

ウェルマーは、そんなアルを少しばかり羨ましく思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。