↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う竜  作者: mashironotsuki
PR
29/34

003話07 怒号は猛る

小さな私設闘技場『ギャローデビルズ』。

かつて牢獄と処刑場だったこの場所は、今やエルステ随一の娯楽施設となっていた。粗末な観客席には平民から貴族、成金の元ギャングまでが詰め掛け、酒と汗の臭いが充満する中、怒号と歓声が飛び交っている。


「……うげぇ、凄いなこりゃ」


観客に紛れたウェルマーは、中央リングに目を向けた。


「やっほー!みんな元気ぃ〜?」


満面の笑みで手を振るアラル=エーテル。その向かいには倍近い体格の大男が立っていた。

ドゴン!!

大男の重剣が振り下ろされ、床板が大きく揺れる。


「はい残念〜!遅いよ〜!」


アルはひらりと躱すと懐へ飛び込み、両手のダガーで脇腹を打って背後へ抜けた。


「ほらほら、こっちだよ〜!お客さんも応援してあげて〜!」


相手の攻撃を巧みに誘い、死角から的確に反撃を繰り返す。あの小僧、ただ速いだけではない。相手の動きを見切り、殆ど無駄なく立ち回っている。


「くそっ!ちょこまかと!!」

「えへへ、じゃあ終わりね!」


大男が踏み込んだ瞬間、アルは足元を掻い潜り、膝裏へダガーの柄を叩き込んだ。

ドゴン!!


「ぐおおっ!!」


堪らず膝をついた大男の首筋に刃を添える。


「はい、おしまーい!」


ワアアアアアアッ!!


「……大した腕だな。あの歳であそこまでやるとは」


ウェルマーが感心していると、アルは両肘をぱたぱたさせながらリングを一周し、拡声器を手に取った。


「はいはーい!今日も勝っちゃったよ〜!じゃあ次の目玉企画!スペシャルゲストを紹介しまーす!」


俄にざわつく観客席。


「じゃじゃーん!そこにいるおっさんでーす!」

「……ん?」


アルが真っ直ぐこちらを指差していた。


「その名も怒号のフェルマーさん!なんとミノタウラスを素手で倒した伝説の超人だよ〜!」


(……は?)


「今日のメインイベントは、この人との即興バトル!みんな盛り上がっていこー!!」


ワアアアアアアッ!!


「フェルマー!フェルマー!フェルマー!!」

(……ちょっと待て!俺はウェルマーだ!!)


ウェルマーは思わず口元を押さえた。

かつて声がデカすぎて軍を除隊された男の中の男。通称『怒号のウェルマー』。以来、何を思ってもお口にチャックが癖になっていた。


「おっさーん!早く早く〜!」

(……落ち着け。今は任務中だ。挑発に乗るな)

「フェルマー!フェルマー!フェルマー!!」

(だからウェルマーだっつってんだろ!!)

「ねーねー、フェルマーのおっさーん!もしかして怖くなっちゃった〜?」

(……チャック。お口にチャック……)

「四つ腕熊に勝ったのに、ボクには負けちゃうんだ〜?まあ熊でも牛でも一緒だけどね〜!」


ブチッ。

ウェルマーの肩が小刻みに震え始めた。


「……おい」

「ん〜?」

「誰がフェルマーだあああああああああッ!!!」


ドゴオオオオオオン!!!


凄まじい怒号が闘技場に響き渡り、観客席の酒杯が震え、天井から埃が舞い落ちた。


「うわっ!びっくりした!!」

「俺はウェルマー=ロジーマルーアだあああッ!!ミノタウラスを倒したのも俺だ!!熊でも牛でも一緒だと!?全っ然違うわこのアホンダラァァァ!!!」


一瞬の静寂。

そして。

ワアアアアアアアアッ!!!


「怒号のウェルマー!!怒号のウェルマー!!」


観客総立ちの大歓声。


「上等だアラル=エーテル!!その勝負受けて立つ!かかって来いやあああああッ!!!」


ウェルマーは重剣を担ぎ直し、観客を掻き分けてリングへと向かった。


「やったー!ねーねー、もう一回さっきのやって〜!」

「断るッ!!!」


ドゴオオオン!!


再び震える闘技場。

かくして、数年来封印していた『怒号のウェルマー』が復活した。

本人の意思とは裏腹に、会場の興奮は最高潮に達していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。