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笑う竜  作者: mashironotsuki
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003話02 調査報告書は斯くも語りき

担当調査員: ウェルマー=アーマディロ

調査場所: 魔の森近郊の町エルステ

依頼主: ミモザ=カプリチオ殿

本調査報告書は、ご依頼に基づく対象者の素行調査について、その結果を下記のとおり報告するものである。


1.調査対象者

氏名:アラル=エーテル(15歳)

拠点:風の住処亭

所属:クラン名スレインドレイク

2.調査目的

対象者の経歴・身元、日頃の素行、生活態度、交友関係および社会的信用の有無を調査し、客観的な評価資料とする。


――数日前。

晴れた昼下がり。

魔の森近郊都市エルステの酒場『風の住処亭』に、スレインドレイクの八番目、アラル=エーテルが姿を現した。


「あれー?誰もいないじゃん。ちぇっ〜また仲間外れかぁ。いけずー」


クランで請け負った護衛任務の集合場所だったか、約束の時間から既に6時間が経過している。

仲間たちが待っていないのも当然だ。


「せっかくお昼持ってきたのに。まーいーや」


淡い黄色のおかっぱ頭をヘアバンドで雑に留め、だぶついた服の上から軽い胸当てを着けた小柄な少年。

腰には数本のダガーを携え、その両手には焼きたての手羽先串を十数本握っていた。


「待て待て待てえっ!手羽先ドロボー!!」


血相を変えた手羽先屋の店主が、通りの向こうから猛然と追いかけてきた。


「もぐもぐ……やっぱこれ美味しいのに勿体無いなぁ。あ、お金?はい、お財布ごとあげるよ。ほいっ!」


アルは器用に鞄から財布を取り出し、店主に向かって放り投げた。


「おお、金があるなら最初から……って、これ俺の財布じゃねぇか!お前ぇ!!」

「えー? せっかく返したのにぃ。じゃあ、この鞄も貰っとくね。バイバーイ!」


くるりと背中を向け、お尻ぺんぺん。


「あっかんべぇ〜!もう悪いことしちゃダメだよ〜ん!」

「あああっ!!それも俺の鞄だろうが!!待てクソガキ!中には大事なモンが入ってんだぞ!金はいいから鞄返せぇ!!」


アルは手羽先を頬張りながら路地裏へ駆け込むと、角を曲がったところであっという間に姿を消した。

遅れて駆け付けた自警団も、路地の先で立ち往生。いくら探しても見当たらない。


器用に手羽先串を頬張りながら、アルは建物の壁を蹴り上がり、屋根伝いに物見櫓へと登っていた。

軽業師も顔負けの身のこなしで屋根の上に立つと、大きく息を吸い込む。


「ぷっはー!!おーい!街のみんなぁ!聞こえる〜!?」


突然の大声に、往来の人々が一斉に顔を上げた。


「今夜!町外れの闘技場ギャローデビルズで、恒例デュエル準決勝やるよー!亥の刻に始まり始まり〜!決勝は明日!どっちもおすすめだから見にきてね〜!」


アルは満面の笑みで手を振ると、例の鞄を高々と放り上げた。


「そーれっ!はっ!!」


腰から抜いた二本のダガーが、くるりと宙を舞う。


ザシュッ!ザシュッ!


十字に切り裂かれた鞄から大量の札束……ではなく、ギャローデビルズ専用チップが飛び出した。


「美味しーものもたっくさんあるよー、それっ!」


折しも雲間から差し込んだ陽光を受け、色とりどりのチップが季節外れの桜吹雪よろしく街中に舞い散っていく。


「ぎゃあああ!俺の鞄がぁ!」


「うおおっ!チップだ!!」

「拾え拾え!こっちにも落ちてるぞ!」

「おい!押すなって!!」

「やぁめんかぁ!!俺のチップがぁ!!」


たちまち大騒ぎとなった街道では、我先にとチップを拾い集める人々が殺到。

追いかけてきた自警団も人波に阻まれ、身動きが取れなくなってしまった。


「くそっ!あのガキ何処行った!?」


時既に遅し。物見櫓の上には、もう誰もいなかった。

その傍ら、その騒ぎを、建物の陰からじっと眺めている男がいた。

ウェルマー。

アンドレア王国の小隊長として実戦経験を積んだ、生真面目で実直な重戦士だ。

彼の任務はアラル=エーテルの素行調査。

先程、物見櫓からこちらに視線を向けたアルに気付き、咄嗟に建物と建物の隙間へ身を滑り込ませた。

ところが、これがいけなかった。


「……ん?(抜けんぞ)」


肩幅が隙間にぴったり収まってしまい、前にも後ろにも動けない。


「……くそっ」


身体を捩ると胸当てが壁に引っ掛かり、ギリギリと嫌な音がする。

その時、足元で何かが動いた。


「……?」


一匹の猫がやって来て、ウェルマーの足元で立ち止まった。

尻を向け、尻尾をぴんと立てる。


シャー……。


「…………」


生温かいものが靴の中へ染み込んできた。


(ぎゃああああああああああああああっ!!!)


ウェルマーは目を見開いたまま、声も出せずに立ち尽くしていた。

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