二話12 祭りの後はまた祭り
灼熱の炎が消えたあと。
さっきまでサラマンダーの群れがいた場所には、ぽっかりと黒い穴が空いていた。岩盤も遺跡も何処まで吹っ飛んだのか分からない。巨大火球が通った跡だけ、丸ごと抉り取られている。
終わった。
誰もがそう思った矢先。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
再び地面が揺れた。
「……まだ何かあんのかよ。」
ジオが地面に寝転がったまま顔をしかめる。
岩盤の割れ目。その奥で赤いものがゆっくり鳴動していた。
どろどろと波打ちながら、下から上がって来る。
溶岩。
「火山帯が近いと言ったろう」
サーラが苦い顔で呟いた。
誰もまともに立てない。ジオは寝たまま。サーラも片膝をつき、ネイディーンとホシミに至っては完全に伸びている。
「おい、おっさん……転移魔法とか使えねぇのか?」
ジオがトレドへ声を飛ばした。
「それは無理な話ですね……」
トレドが困ったように眉を寄せる。
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「う……うん、はっ!こ、ここは?」
ネイディーンが突然跳ね起きた。
「お、起きたか?無理すんな」
サーラがゆっくり声を掛ける。
ネイディーンは目をぱちぱちさせながら周囲を見回した。
「ここは……私たち廃坑にいたはず、よね?あいたたた……」
どうも様子がおかしい。
天井がある。ベッドがある。揺れている。
ぐるるるるぅ~~。
腹も結構派手に鳴った。
「……。」
ネイディーンがお腹を押さえる。
サーラがふっと笑った。
「フッ……良かった。元気そうだ」
「……聞いた?」
「聞いてない。」
「絶対聞いたよね?」
「ここは帰りの船の寝室だ。見覚えあるだろ。安心しな、全員無事だよ」
ネイディーンは改めて部屋を見回した。
確かに船内。窓の向こうには海。
「え?えへへ、無事だったんだ……よかったぁ」
胸に手を当て、大きく息を吐く。
しかしサーラの顔は少し微妙だった。
「無事には無事だったんだが……ちょっと困ったことが起きてる」
「困ったこと……?」
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話は少し戻る。
巨大火球が消えた直後の廃坑最奥。
ガラ……。
崩れた空洞の奥から何かが動いた。
ジオが薄目を開ける。
「……おい。」
瓦礫を押し退け、サラマンダーの幼生が二匹這い出して来た。
さっきより小さい。人間よりも随分と小さくなっている。
だが間違いない。
あのサラマンダーだった。
さらに奥。
全部で五匹。
「……増えてね?」
そして、その後ろにもっとデカいのがいた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
母体と思しきサラマンダーが、空洞の奥からこちらを覗き込んでいる。
街の教会以上はある巨躯。
「冗談だろ……。」
サーラの顔が引き攣る。
巨大なサラマンダーが翼を広げた。
ぐおおおおおおおおお!!
地面が陥没。
地下から溶岩が噴き出し、そのまま割れ目へ流れ込み始めた。
「やはり。これではもう、この廃坑もおしまいですね」
トレドだけが普通だった。
そして、そのままサラマンダーへ何やら話し掛けた。
「@jnwmdxpmdm xjp?mag?」
「……?」
ジオとサーラが揃ってトレドを見る。
サラマンダーが首を傾げた。
「@tkymwuaphwd tjtpgt?」
何とも可愛い声で答えた。
「喋れんのかよ……。」
巨大な頭がゆっくり近付いて来る。
一歩ごとに地面が揺れる。鼻先だけでも人間数人分はある。
「二人とも動かないでくださいね。動くと死にますよ」
トレドが穏やかに言った。
ジオとサーラは動かない。
と言うより、
(動けねーよ!!)
全身が完全に固まっていた。
トレドは再び巨大なサラマンダーへ向き直る。
「@pt’jdugw jtjygbgtw?」
「@wakq'w jtptm.a mJwtp".j」
暫く何やら会話。
それからトレドが小さく笑った。
「……感謝します」
「何が?」
パクッ。
「……。」
サーラがネイディーンとホシミを抱えたまま、五人まとめて食われた。
真っ暗。
何も見えない。
鼻息が熱い。
胃酸臭い。
「うわああああああ!!食われた!!食われたぞ俺ら!!おいおっさん!!これどういう――!!」
サラマンダーの口腔内でジオだけが大騒ぎしていた。
トレドは相変わらず微笑んでいる。
走っているのか飛んでいるのか、激しい挙動に振り回される。
「ちょっ、まっ、誰かの足の指が鼻に入ってるって!いだだだだっ!俺まだ死にたくねぇぞ!!出せ!!出してくれ!!ふががっ!」
暫くして、騒ぐのも疲れ果てた頃。
オエッ。
ベチャッ。
「ぶへっ!!」
気付けば五人とも、クルクス島の海岸へ吐き出されていた。
波の音。
潮風。
「……。」
ジオが砂浜に突っ伏したまま動かない。
サーラもネイディーンもホシミも横で倒れている。
トレドだけが服についた砂をぱっぱと払っていた。
その直後。
遠く海の方から、
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
海面が盛り上がった。
ドオオオオオオオン!!!
巨大な水柱と黒煙が上がる。
海底噴火。
島の地下に広がっていた廃坑も遺跡も、そのまま海の底へ沈んでいった。




