二話10 切り札は優しい嘘の誓約
ザザッ。
二人の進路を塞ぐように、岩陰から巨大な影が這い出した。
サラマンダーの幼生。
幼生と呼ぶには随分とデカい。岩肌を掻く太い爪、地面すれすれまで垂れた腹部。口元から漏れる息だけで、周囲の空気がゆらゆら歪んでいる。
ジオが小さく唸った。
「デカいな。さすがに。でも、フレイムゴーレムだけでも餌として十分なんじゃ?」
サラマンダーがゆっくり首を持ち上げ、大きく息を吸い込む。
ゴオオオ……。
「そうかも知れないけど、純粋な炎では無いから。実際目にすると、比べるのも烏滸がましい。サラマンとジオとどちらが上か、腕の見せ所よ。狙いは弱点の腹部!まずは出力10倍!」
ホシミが魔杖を構える。
ブオオオオオオオオオオオ!!!!
洞窟内の空気が震えた。
「おおよ!任せろ!」
ジオの全身から炎が噴き出す。
「ファイアボール10倍ッ!!」
「ファイアボール10倍!!」
二人の詠唱が重なった。
ズバババババババババババ!!!!!!
火球が立て続けに飛び、サラマンダーの腹部へ炸裂。
爆炎と熱風が一気に坑道を埋めた。
そして当然、撃った側にも来る。
「うおっ!?」
ドガッ!!
ジオは爆風に身体を持っていかれ、そのまま岩盤へ顔面から突っ込んだ。
「……。」
ずるっ。
岩壁から落ちる。
ホシミがそちらを見る。
「おい、血が出てるぞ。行けるか?」
ジオは鼻の下を拭った。
べっと血を吐く。
「やらいでか」
「よし。じゃあ……20倍!!」
「おう!」
ズバババババババババババババババババババババ!!!!!!
さっきの倍。
火球の群れがサラマンダーへ殺到し、また爆風が返って来た。
ドガン!!
今度は脇腹から岩へ叩き付けられる。
それでもジオはホシミの前から退かない。
吹き飛ばされる。
立つ。
また撃つ。
顔面、脇腹、足。
少しずつ傷が増えていった。
離れた場所ではサーラとネイディーンもフレイムゴーレムを相手にしている。
サラマンダーが息を吸う度にブレスを警戒しなければならず、目の前のゴーレムだけに集中できない。
ガンッ!
サーラの剣がゴーレムの腕を受ける。
「くそっ、やりづらいな!」
ネイディーンも魔杖を構え直す。
その向こうで、ジオがまた膝をついた。
ホシミの顔から笑いが消えた。
ジオのダメージが重い。
「ジオ、もう良い。一旦退こう。出直す手もある」
「馬鹿言うな。次は無い、だろ」
ジオは膝に手をつき、立ち上がる。
「近く……ここはマグマ溜まりになる。そうなりゃ、もうサラマンを拝むことすらできねぇ」
ホシミは何も返せなかった。
分かっている。
だから余計に止めづらい。
ジオは口元の血を拭い、その手を見て笑った。
「ははっ、大丈夫。俺は今、最高に絶好調だ。溢れる炎の魔力が“俺を出せ!”と体の奥底から殴りつけて来る」
「……」
馬鹿なのか、本当にまだ余裕があるのか。
多分両方だ。
サラマンダーが再び大きく息を吸い込んだ。
ゴオオオオ……。
ジオはそちらを顎で示す。
「ほれ、次が来るぞ。奥の手を出せ」
「……本当に良いんだな?」
「くどいなぁ。俺が規格外であるうちに、さっさとやれ」
ホシミは暫くジオを睨んでいたが、やがて親指を口元へ運んだ。
ガリッ。
噛み切った指先から血が滲む。
その血でジオの背中へ、小さな魔法陣を描いていく。
「……ホワイトライアー・プレッジ!」
ぼうっ。
血で描かれた魔法陣が淡く光り、そのままジオの身体へ吸い込まれて消えた。
ホシミは魔杖を握り直す。
「よし、ジオ。次は私の番だ!」




