二話06 壊れた遺跡は後の伏線
「何だこれは…」
地下空洞の奥。サーラは目の前に聳える巨大な建物を見上げていた。
「少なくとも数百年くらいは昔の建物みたいだね。どこかで見た気もするけど…。」
ネイディーンも同じく呆然。
何故こんな場所にあるのか分からない。岩盤に半分呑まれるようにして、荘厳な古代遺跡が鎮座している。
時は数刻ほど遡る。
フレイムゴーレム数体を何とかやり過ごした後、サーラとネイディーンは落盤で塞がった瓦礫から廃坑ての脱出を試みた。
だが、瓦礫、瓦礫、瓦礫で全く埒が明かない。
結局二人は早々に諦め、地下空洞の奥へ進むことにした。
それから小一時間。
じっとりと蒸すような熱気が、少しずつ体力を削っていく。
サーラは鎧の隙間に入った汗を気にしつつ、瓦礫を踏み越えた。そして行き止まり。
空間そのものを塞ぐ様に、半壊した巨大建造物が立ちはだかっている。
瓦礫を避けて巨大な扉のような隙間から建物の中に入ると、一気に空間が開けた。
岩の亀裂から漏れ出す魔力の粒が、薄暗い空間を僅かに照らしている。
まとわりつく熱気に、ネイディーンは額の汗を拭った。
「なんだこれ……少なくとも、数百年は前の建造物っぽい」
魔杖を掲げる。
「ライト・ライト」
ボゥ…。淡い光が頭上から照らす魔法。
「おお……これは……」
サーラが口を開けたまま固まった。
巨大な半球状のドーム。
その天井一面に、神秘的な絵が描かれている。
人間だけじゃない。
精霊、魔物、竜、さらには亜神。同じ大地で暮らし、争い、祈り、手を取り合う者たち。
古び、剥げ落ちている場所もある。
それでも魔光が横切る度、描かれた者たちの表情が浮かび上がっていった。
「ひゃあ~~~~……!これはすごい発見だよ!早く帰ってミモザ様に報告しなきゃ!」
先程まで疲れ切っていたネイディーンの目がキラキラ輝いている。
「ミモザ様?」
「……!」
ネイディーンの顔が一気に赤くなった。
「あ、えーと、私の師匠。
考古学も学んでて……その……」
「なるほど。それでか」
二人は再び天井を見上げる。
パラ…。パラパラ…。
砂埃が落ちてくる。
「ん?」
バサバサ。何かがサーラの頬に落ちる。
「うわっ。」
驚いて一歩後退。ズボッ。
「おっと」
片足が床の割れ目に綺麗に嵌った。
そのまま尻もちをついたサーラは、咄嗟に横の木柵へ手を置く。
「うおっ……」
ギ…。
「ん?」
ギ……ギギ……。バタン!腐り切っていた柵が倒れた。
「んんん?」
そして隣の柵へ。
バタン!そのまた隣へ。
バタン!バタン!バタン!
「んんんんん……?」
止まらない。
次々倒れていった柵が、奥の壁際まで一直線。
その先。
錆び付いた巨大なパイプオルガンの様な何か。
最後の柵がぶつかった。
ガン!留め金が外れる。
「……。」
ギギギギギ…。
巨大な金管の塊がゆっくり傾く。
「ちょっ。」
ドォーン!!!ゴロゴロゴロ!!
「おあああああっ!!?」
「きゃあ!!?」
どすん!どすん!落ちた金管のパイプが床を叩く。なかなか荘厳な音色だ。
パイプが倒れる度に地面が大きく揺れた。
ピシッ。
サーラの足元に亀裂が走る。
「……。」
しかも足はまだ嵌ったまま。
「ぐおおおお……っ!!」
抜けない。バゴンッ!!床の一部が抜ける。
「待て待て待て!!」
ドシュンドドドドド!!亀裂が足元に一気に走り、地面そのものがズズズ…と沈み始めた。
勿論サーラも一緒。
「マジかッ!!」
ドゴーン!!ドドドドドドッッ!!ガラガラガラ……!!!サーラを巻き込みながら十メートル四方の床が丸ごと崩落した。
土煙で何も見えない。
ネイディーンは口元を押さえながら穴へ駆け寄った。
「コホッコホッ……サーラさん!!」
暫く返事がない。
「サーラさん!?」
「大丈夫、だ……!」
ネイディーンは胸を撫で下ろした。
「やれやれ、ですね。今日は落ちてばっかり……!」
崩れた床の下で、サーラは片膝をつき、肩で荒く息をしていた。
「運良く柔らかいとこに落ちたみたいだ。ゴホッ……」
ぬうっ…。
「?」
足元が迫り上がってくる。ゴゴゴゴゴ…。
「え?」
サーラが上がってくる。
サーラごと上がってくる。
ネイディーンの目線を越え、さらに高く。
そうして、そいつは現れた。
「え……?」
ネイディーンは後退し、驚きの余りそのまま尻もちをついた。
サーラはまだ状況を理解できていない。だが足元だけは確実に迫り上がっている。
「や、待って、ちょっと待って!!」
ネイディーンが魔杖を構えた。
早口で詠唱。
「ギガントハンマー・スイープ!!」
バッ!巨大な魔法のハンマーが出現。
そのままサーラの足元目掛け、真横から薙ぎ払った!
同時に「ライト・ライト」が途切れた。
暗転。
ドッゴォォォン!!!ドーム全体に響く地鳴り。
パリ…。
パリパリパリ…。
頭上から嫌な音が鳴る。
バリィィィン!!遂にドーム天井に張り付いていたガラスが一斉に砕けた。
「うわっ!」
鈍い紅蓮の光を映した真っ赤な破片が、雨のように降り注ぐ。
パラパラパラパラ…。
暗闇の向こうで、何かが動いた。
ゴ…。ゴゴゴゴゴ…。




