二話05 違和感は研究の糧
「はぁはぁ、痛てぇ。いいのもらったなぁ」
数体のフレイムゴーレムを何とか振り切り、ジオとホシミは廃坑のさらに奥まで逃げ込んでいた。
崩れた木材の陰。
ジオはその場にどさっと座り込む。
その隣で、ホシミが愕然と立ち尽くしていた。
「どうした、よく泣かなかったな!」
「泣くわけないっ!」
「怪我はないか?」
「泣かないっ!」
「ほお、強いな。俺なんかしょっちゅう泣いてたのに。」
その時、ホシミの顔からさっと血の気が引いた。
自分の手元。
指。
もう一度、指。
「指輪ない…ぜったいさっき落とした…終わった…ふええええ」
「結局泣くんかい」
「えぐえぐ…どう責任とってくれる、むぐむぐ…」
気配。
「とりあえず、大人しくしろ…」
ジオは後ろから覆い被さるように、両手でホシミの口を塞いだ。
「むぐ、むぐぐっ!」
ジタバタ。
その時。
ズン…。
ズン…ズン…。
二人同時に動きを止める。
坑道の奥から重い足音。
暗がりの中、赤黒く仄めくフレイムゴーレム。
ジオはホシミの口を塞いだまま息を殺した。
ホシミもようやく大人しくなる。
ズン…ズン…。
暫くして、音が遠ざかっていった。
「ふぅ、行ったか。」
ガブッ!
「いだっ!」
ホシミがジオの指を躊躇なく噛んだ。
「離せ!このアフォ!」
声が上擦った。
ジオが噛まれた指を振っている横で、ホシミは魔杖を取り出した。
「……トーチ!」
ボゥ。
杖の先に小さな火球が灯り、暗い坑道がぼんやり照らされる。
「うお、すげぇな」
「誰でも使える魔法だと思います」
すん、とした顔。
「落とし物か?」
「…そうね、さっきの場所に行って指輪を見つけないと。あの指輪がないと魔法が使えないの。」
「指輪?そうなのか?」
…ぽふっ。
火が消えた。
「もう消えた…ふええええ」
「わははっ、ぽふっ、だって。ぽふぽふっ」
「えぐえぐ…」
涙目で俯くホシミ。
だがその顔は明らかに、こいつ後で必ずボコってやる、と言っていた。
「うははっ、俺もお前くらいの頃さ、覚えたての魔法を自慢したくて仲間にみせたんだ。そしたらぽふって。杖の先から火の玉どころか屁みたいな音しか出なくてよ。何度やっても。ぽふっぽふんぽふぽふぽふんって。んで皆大爆笑よ。恥ずすぎて最後は"ぷぅ〜っ"て放屁かましてやったわ。しかもトラウマ級に臭いヤツ、あれは俺の過去最強の魔法だったな」
「何だその下品な話は。一緒にすんな。」
「一緒に練習するか?放屁魔法。」
「アホか。誰がするか。アフォ!」
「あ…アホであってアフォではない。ふははっ」
「そう言えばお前魔法使いだろ?トーチくらいできるだろ?」
「ん?そうか?」
ジオは魔杖を取り出し、軽く振るった。
「トーチ」
ぽん。
小さな明かりが灯る。
小さい。
蝋燭よりさらに小さい。
「…ちっさ、ぷふっ」
「いいだろ、別に。こんな魔法普段使わないからな。」
ホシミはほくそ笑みながら、その小さな火をじっと見る。
ふと、杖先へ目が止まった。
火は小さい。
なのに、握った辺りからじわじわ熱が漏れている。
「……?」
「何だよ。」
「別に。」
ホシミはもう一度、小さな火を見る。
何となく変だ。
「…ねぇ、ちょっとファイアボール撃ってみて。」
「は?…構わんけど。」
ジオが魔杖を掲げる。
杖先に炎の魔力が集まり始めた。
ボウッ…。
一瞬だけ、ホシミの顔から笑いが消えた。
「……。」
魔杖の周りで空気が揺らぐ。
集まっている魔力だけなら、さっきのトーチとは比べものにならない。
だが――
「ファイアボール。」
バシュ!ヒュン!ボフ!
飛び出したのは、小さな火球。
十メートル程先の壁に命中し、あっさり弾けて消えた。
「普通以下だ…」
ホシミは壁を見る。
次にジオの魔杖。
もう一度、壁。
「……。」
撃つ前と、撃った後。
どう考えても釣り合っていない。
「でも、何だろ、この違和感…」
ホシミは少しだけ眉を寄せる。
そして何かを思いついたように、ジオを見上げた。
「お前、練習、してみるか?」
「は?」




