第三十一話:選ばれた理由
白い光が世界を包んだ。
空も花の海も春人の身体もすべてが、淡く輝いいる。
「春人……!」
ひなは思わず手を伸ばした。
離れたくなかった。
ようやく知ったのだ。
この人がどれほど長い時間を生きてきたのか。
どれほど孤独だったのか。
どれほど陽菜を愛しているのか。
知ってしまから。
失いたくなかった。
春人はそんなひなを見て、小さく笑う。
「そんな顔するな」
「するよ……!」
声が震える。
「当たり前じゃん……!!」
涙が止まらない。
「勝手に終わろうとしないでよ……!」
春人は少し驚いた顔をした。それから、本当に困ったように笑った。
「そいうところ」
「え……?」
「陽菜に似てる」
ひなの胸が揺れる。
陽菜はくすりと笑った。
『うん。似てる』
風が吹く。白い花弁が舞う。
ひなは二人を見る。
何百年離れていても、変わらず親子だった。
『ひなちゃん』
陽菜が優しく呼ぶ。
『聞いて欲しいことがあるの』
ひなは顔を上げた。
陽菜の身体は少しずつ透け始めてる。
もう長くない。
それは誰の目にも明らかだった。
『わたしね、ずっと考えてたの』
白い花が揺れる。
『どうして、あなただったのかなって』
「……私?」
陽菜は頷く。
『世界にはたくさんの人がいるのに、どうしてあなただけだったんだろうって』
ひなは黙る。
その答えはまだ分からない。
自分は特別な人間じゃない。
ただ、村に残っていただけの少女だ。
『でも』
陽菜は微笑んだ。
『今なら分かる気がする』
風が吹く。
世界中の花がざわめく。
『優しかったから』
ひなの目が見開かれる。
『みんなが花を怖がった。逃げた。忘れようとした』
陽菜の声は静かだった。
『でも、ひなちゃんだけは違った』
村で一人っきりで、毎日毎日花に水をあげ続けた。
返事もないと思いながら。
意味も分からないまま。それでも続けた。
『ひなちゃんは、花の中にいる人たちを見捨てなかった』
涙が頬を伝う。
『寂しいからじゃない。誰かに褒めて欲しいからでもない』
陽菜は優しく笑う。
『ただ、その人たちを大切に思ったから』
風が吹いて白い花弁が舞う。
『花は願い。花は心。だから咲く花が違う。だから、声が残る』
ひなの胸が強く鳴った。
旅で出会った花たち。
泣いていた花。
怒っていた花。
笑っていた花。
全部が違っていた。全部が、誰かの心だった。
『でもね』
陽菜は少しだけ寂しそうに笑う。
『ひなちゃんだけは、自分の為に願わなかった』
ひなは息を吞む。
生きたい。
残りたい。
忘れたくない。そいう願いじゃなかった。
誰かを助けたい。
誰かを忘れたくない。
誰かを幸せにしたいそれがひなの願いだった。
『だから花にならなかった』
世界が静まり返る。
『だから最後の種になれた』
陽菜はまっすぐひなを見る。
『ひなちゃん。あなたは選ばれたんじゃない』
ひなの瞳が揺れる。
『あなたがそう生きてきたから、最後の花になれたの』
その言葉が胸の奥へ落ちる。
選ばれたわけじゃない。
運命だったわけでもない。
ただ、自分が歩いてきた道にの先に今があった。
胸の奥が熱くなる。
どくん。
心臓が脈打つ。
どくん。どくん。
白い光が体の奥で広がっていく。
陽菜が微笑んだ。
『だからお願い』
透ける指先を胸の前で重ねる。
『みんなを帰してあげて』
風が吹く。
その瞬間、世界中の花々がざわりと揺れた。
『ありがとう』
『ありがとう』
『ありがとう』
無数の声が響く。
ひなは目を閉じた。
聞こえる。世界中の想いが。
長い長い時間を生き続けた人たちの声が。
そしてひなの胸の光が、静かに花開き始めた。




