現実
第一章 英雄、地獄に落ちる
Ep.2 現実
「一体どうなっているんだ?アルバ軍の数は?門番達は?状況は?」
「急な襲撃で、詳しい状況は把握できていません。ただ、すでに敵は城の前までーー」
ウォーカーの質問にはまともに答えることができずに、申し訳なさそうに視線を下に移すが、再び顔をあげ、
「ウォーカー隊長、今すぐに敵への応戦をお願いします。急がないとーー」
「ドォオン!!」城のどこかで、壁が砕ける音が響いた。敵はもうすぐそこまできている。
その時後ろのドアが開き、ライナとベールが不安そうにウォーカーの顔を覗く
「あなたこれは一体?」
「敵軍が攻めてきた!急いで身を隠すんだ!今すぐに!」
父親の緊迫した表情を見るに、ベールはライナの右手を強く握りしめる。
「君、ライナとベールを今すぐ安全な所に避難を頼む。絶対に二人だけにはするなよ」
「わかりました!」
兵士は二人を連れ廊下の先へ走り出そうとする。
「パパ、わるいやつをたおしてきてね。ぼくは、ママをおまもりするから」
「…絶対、生きて戻ってきてね」
ベールの言葉に微笑み返し、心配そうな目をするライナを見て軽く頷く。
「国王様!!」
荒く上下する背中を抑えながら、王の元へ駆けつける。周りには護衛の兵士がすでに取り囲っている。
「ご無事で!早く部屋の隠れ家へ!」
「ウォーカー、私のことは良いから早く応戦へ行くんだ。ただでさえ戦える者が足りてないのだ」
「ライナとベールは隠れさせています。後は、私達に任せて下さい」
「頼んだぞ。城を、皆を守ってくれ」
背中を向かい合わせ、城の外へと向かう。
荒れ狂う雨に打たれ、戦士達が己の剣を突き合わす。城壁は崩れ、戦士は地に伏せ、アルバの軍勢はすでに猛威を振るっていた。奴らは、我が軍が戦に帰ってくるや、この大雨に乗じて乗り込んできたんだ。
赤く染まった水溜りを駆け抜け、攻めてくる軍勢に一人、また一人と薙ぎ払う。
「我が城に足を踏み入れて、ただで帰れるとは思うなよ!!」
雨音にも負けない、叫びや呻きがこだまする。
(ダメだ、押し返してはきたがどうにも戦力が足りない。雨で大砲も使えない。このまま戦っていたらーー)
「…..オォ」
かすれた唸り声が、背後から聞こえた。
「ウオオォォ!!」
「隊長!遅れてすいません!応戦致します!」
「お前達!怪我は!?」
目の前を敵を抑えつけて、そのまま切り捨てる。
「そんなことを言っている場合ですか!城が攻められているのに呑気に休んでて何が戦士ですか!」
「城の中にも敵が侵入してきています。ここは俺たちに任せて、ライナ様とベール様の元へ向かってあげて下さい」
「国王様は無事なのか?」
「問題ありません!すでに安全な場所へ!」
この国は強い。熱くなる心を抑え、ウォーカーは戦線を部下に託した。
(二人は西の間へ隠れているはずだ。頼む無事でいてくれ…)
重くなる足を懸命に動かし、妻子達がいる部屋へと走る。先の戦で受けた傷、そして先程負った傷がウォーカーの体力を削っていく。急な襲撃で装備も整わぬまま戦った代償が、確実に体を蝕んでいた。
廊下には、血に濡れた兵が転がっていた。すでに城内で戦いは始まっていた。
西の間に着く手前、がむしゃらに駆け抜けた足が意識と反して止まってしまう。心臓の音が一気に早まる。痛みなのかそれともーー
目の前には、先ほどライナとベールの護衛を頼んだ兵士が倒れている。
「おい、しっかりしろ!ライナとベールはどこに隠れた!無事なのか!おい!」
返事はない。すでに息絶えているようだ。
緊張感が走る。「ライナ!!ベール!!もう安心してくれ!!今、パパが来たから返事をしてくれ!!」
雨にも負けない大きな声で叫ぶ。しかし、返事はない。
周りの部屋を確認するが二人の姿は見当たらない。周辺の部屋は酷く荒らされている。
崩れた瓦礫を飛び越えさらに奥を探す。その時だ。雨にかき消されそうな微かな叫び声が聞こえた。
鼓動がまた一段と早くなる。声のする部屋へ、一目散に走り出す。
(この部屋だ)
「ライナ!!ベール!!」
そこには部屋に佇む一人の男。黒ずんだ鎧。濡れた前髪の隙間から、冷たい視線が覗く。
その足元には、倒れ伏す二つの影。血に濡れた床。
「ライナ?…ベール?」
「あ?なんだお前?こいつらならもう死んでるよ。このちびがママを守るんだーって俺に歯向かいやがるから」
喉が、鳴る。
「だから、殺した。ついでにこの女もな」
「死んで……?」
目に前に映る景色が現実だと理解できない。
降り続く豪雨の音が、ふっと途切れた。
世界から、音だけが消えた。
この作品に目を通して頂き、本当にありがとうございます。
執筆は初めてで拙い文章表現ではありますが、面白い作品を作れるよう努力致します。
今後とも「英雄地獄譚ー国の英雄は地獄に堕ち、地獄を守るために抗うー」を何卒よろしくお願い致します。




