三人で
第一章 英雄、地獄に落ちる
Ep.3 三人で
「ハァ…ハァ..ハァ…」
呼吸の音だけが鮮明に聞こえる。果たして自分は今、どこにいる。何を見ている。
そしてーー何を、受け入れなければならない。
「..い!」
「おい!!」
ふと目の前にいた人間の声に気づく。
「何ぼけ〜っとつっ立ってんだ。国王はどこに隠れた。さっさと居場所を教えろ。お前もこの二人と同じようにはなりたくないだろ」
「この二人…」
理解など、できるはずがなかった。それでも、動かない二人を前にして、思考だけが遅れて追いついてくる。
剣を握る指が、軋む。
「いいか?国王の首を持ってお前らの村の奴らに見せつける。そしたらきっと全員恐怖で俺たちアルベ軍に服従する。城も乗っ取りこの国は俺たちの物になる!!」
床が一瞬にして揺れる。今はただ目の前の悪魔をーー
「ウォッ!!」
「殺してやる…今すぐに俺の手でお前を殺す!!」
「はっ、やっと動くようになったかよ。ただそんな生身でボロボロの状態で何が出来る?」
「お前はもう喋るな。さっさと死ね」
金属音が次々と部屋中に響く。悪魔の鎧に休む間も無く剣を叩きつける。
(くそっ。一撃一撃が重いな。こんなボロのどこにそんな力が)
殺意が。怒りが。体の隅から隅までこの悪魔を殺せと叫んでいる。
その時。一筋の刃が腹部を貫通する。
「ただやみくもに剣を振ってちゃ隙が生まれるのはあっという間ってこと」
悪魔が笑う。
床に広がる血溜まり。意識が朦朧とする。
(俺は、仇すらも討てないのか…ごめんな、ごめんな、こんな弱いパパで)
体が無気力に立たされる。妻子を殺した手が首を抑える。
「威勢だけで、弱いもんだよ。ここまで歯向かってきた奴らも、お前も」
「…だ…ま…れ…。仲間を…家族を…侮辱するな」
「家族?あぁ、お前こいつらの身内だったか。子供はさぞ悲しいだろな。パパがこんなに弱くて」
言い返す言葉がない。家族すらも守れず何が英雄だ。それでも、これ以上、何も奪われたくなかった。
その思いだけが最後に英雄を動かした。
ガッ!
悪魔のかかとを引き、鋼に包まれた体が血の床に落ちる。
転がる剣を握り締め、床に伏した悪魔の顔へ振り下ろす。一瞬でも迷えば、形勢は逆転する。
この一瞬に全てをーー
ザンッ!!
悪魔の首が、纏いし鎧から離れた。
ふらつく足を進ませ、最愛の妻と最愛の息子の前に膝をつく。
最後までまともに顔は見れなかった。溢れる涙は血に染まり、二人に身を寄せ静かに眠る。
(三人で…三人で天国で幸せに暮らそう…)
白く薄く広がる霧。その向こうには果てしなく続く海。
(ーーここは…)
人の姿を捨て、炎のような物体が、この初めて見る景色に無数と広がる。
(体が軽い。いや、軽いというより重さそのものがない。…そうか俺はーー)
霧の中から波の音をたて、二艘の船が近いてきた。
無数の炎達が二艘の船に引きつけられる。
二艘の船は、それぞれ別の方角へと進みだす。
赤黒い雲が、ゆっくりと視界を覆っていく。
その色を最後に、意識は再び途切れた。
再び気がつくと、目の前には人の背中が映る。
手がある。足もある。感覚もある。
周りを見渡すと、そこには大量の人間達が無数の列をなしている。国も違う、人種も違う老若男女が、今の現実を確認しているようだ。
前に立つ男が歩を進める。大きな石橋のような道を、その感覚を足の裏で感じながら歩を進める。
(ここが天国なのか?それにしてはやけに景色が暗いな)
生前、天国と地獄を見たことがある人間なんていない。現世で語られている死後の世界は、全て想像にすぎない。
生前と死後の世界に形に戸惑いを感じながら、きっとこの先に神様が待っているのだろうと信じ、永遠に続く橋を進む。
もうどれくらい歩いただろうか。ライナとベールが無事に天国に着けているのかを考えながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
視線の先に、大きな門が待ち構えているのが見えた。もうすぐだ。きっとあそこが天国の入り口だろう。
前を歩く男が門の中へと入る。いよいよ自分の番が来る。空っぽであろう心臓に高ぶりを感じる。
しかしこの門は近くで見るとかなり禍々しい。
悪魔や、鬼のような姿をした者が門の至るところまで刻まれている。紫に染まるその模様からは恐怖さえ感じた。
(まさかな…)
先程までの希望が薄れていることに、無視は出来なかった。
門が開く。
門の向こうには、巨大なテーブルに大量に積み重なる書類。
その後ろに位置する玉座のような高みから、こちらを見下ろす大きな影が一つ。
その視線に触れた瞬間、
ウォーカーの足が、意思とは無関係に止まった。
「名を名乗れ」
低く、逃げ場のない声だった。
「ウォーカー・アルバートだ」
「国は?」
「オルデン王国」
山積みの書類から一枚の紙を取り出す。それを確認し、再びこちらに顔を向ける。
「ウォーカー・アルバート。貴様は生前、人を傷つけ、人を殺した。よって、炎血地獄行きとし、これまでの過ちに深く向き合うと良い」
「は?炎血地獄….?一体何をーー」
突然の宣告に狼狽えるウォーカー。そう、彼が行き着いのは天国ではない。
地獄なのだ。
この作品に目を通して頂き、本当にありがとうございます。
執筆は初めてで拙い文章表現ではありますが、面白い作品を作れるよう努力致します。
今後とも「英雄地獄譚ー国の英雄は地獄に堕ち、地獄を守るために抗うー」を何卒よろしくお願い致します。




