二十三 青い空と 母と エイラと
ジングルベルの軽快な音楽が明るく楽しげに響き渡る。週間天気予報は雪だったイブは、先日の雪のおかげか鮮やかなスカイブルーの空で始まった。
田舎にしてはそこそこ立派なコンコース。入り口には大きなクリスマスツリーが飾られ、有名店のキッチンカーが周囲を彩る。赤いサンタ帽を被った人は、近隣の店員か人員整理のスタッフで、早朝から弾けだす笑顔の相手でてんやわんやしている。
賑やかで華やかで、冬飾りで盛り上がる一角にエイラは大興奮。見つからないかとヒヤヒヤする西城を弄ぶかのように、歌い、笑い舞い踊る姿は、紛れもなく妖精そのものだった。
午後一時からのファンファーレで始まるオープニングに、キトは知れず指を走らせる。
輪廻に取り込まれた人の記憶に残るだろうか?
それとも現世の人の自己満足なのだろうか?
「その時になって知ればいいわ! だってキトは、その時になってわたしを知った。違う?」
ウジウジと考え始めた思考をエイラに叱責されたからだろう。吹っ切れた今は心が軽い。昨日、友らに伝えた言葉を幾重にも思い起こす。
『大事なことを間違えたくない』
ーーーーそう。夏からずっとここを目指してきた。心に染み入るレクイエム。新メンバーになって初めての大きな舞台だ。僕は、僕らはここに集中するんだ。
華々しいファンファーレと人々をつかむオープニング。高校生らのくだらない、だけど生き生きとした出し物たちが通り過ぎる人々の目を楽しませ、クリスマスムードを一気に高めた。ルリのクラリネットポルカが、響子先生の伴奏が手拍子を誘い、華やかで鮮やかな舞台が出来上がる。
剣道部の模擬戦と、お子様サッカー教室。ぐだぐだだけど、彩る子らの笑顔を引き出して沸いた。
チアリーダーは受験生や労働者、果ては告白する人の背中を押して盛り上げたし、新体操部はエイラを彷彿とさせる衣装で、エイラと共に妖精の舞を披露した。(エイラが勝手に割り込んで踊ったともいう)
潤達の軽音ライブは、路上ライブの効果からか、目当てで席取りをする人がいて、潤は楽屋代わりのテントから手を併せて拝み倒していた。もちろんライブは大盛況だ。
フィナーレまで三時間もあると思っていたキトたちだが、溢れ出る高校生らの渾身のパフォーマンスに飲み込まれ、気がつけば冬の夕暮れが迫るように、青空が白銀色に染まっていく。
四時が迫る時刻には、周囲の山は黒く塗りつぶされ、街灯やツリーの電飾が輝きを放ち、キトたちもカイロで指を温め始めた。
会場は二十分ほど押していて、まもなく演劇部の降誕劇がクライマックスを迎える。合唱部の伸びるような柔らかな声が神秘的に空に広がり、観客たちの心を聖夜に引き摺り込んでいった。
幕の代わりに団員が帯のように布を広げて演技者を隠す。
割れんばかりの拍手に、アンコールのカーテーシー(礼)を繰り返す裏で、役目を終えた生徒らが淡々と準備を手伝ってくれた。
ドラムやティンパニーを覆っていた衝立を外してパーカッションがスタンバイ。椅子と譜面立てを準備したキトは、座席に座り、最終の音を合わせる。
ブゥーーーーーー、トゥーーーーーーー。
階段上に反り上がった広場は最下層の舞台を見下ろす形になっている。最上段の小さなツリーの横でなびく旗が避けられると、スッと人が割り込んできた。車椅子の一行。ひっそりと、しっかりと目を合わす。
ーーーー母さん。
演奏は四時二十三分に始まった。




