十七 十七才
「ママ、これも飾って!」
マドレーヌの詰め合わせに入っていた小さな木のプレートを持ってクリスマスツリーの元に走る。
赤、青、緑、金、銀。色とりどりの玉とキャンディやサンタのオーナメントを飾りつけている母親は、柔らかな微笑みでプレートを受け取った。
生クリームを泡立てて鼻に飛ばして笑ったこと。つまみ食いし過ぎて上に飾る苺が足りなくなったこと。マーブルチョコの糖衣が溶けてクリームが微妙な色に染まったことや、二段ケーキに成功して大喜びをしたこと。
ゲームや菓子を持って布団に潜り込み、サンタの正体を暴こうとしたのに、いつの間にか朝になってしまっていたあの日。
フルタイムで働いていた母が、クリスマスくらいはとスポンジを焼いて皆で飾ったケーキ。骨付き鳥のローストにサラダの献立は、毎年恒例の家族の思い出だが、もう二度とあの日々が戻って来ないことに改めて気づくキト。
エイラにせがまれて遅まきながらにクリスマスツリーを出したキトは、懐かしい思い出にグッと喉が締め上げられている。
「どうした? 母さんに何か言われたのか?」
遅くに帰ってきた父に見つかって、キトはモゴモゴと弁解をしようとする。……が、それより早く、エイラが父の前に躍り出た。
「パパさん、あたしが頼んだの! だってどこに行ってもツリーがあるのに、ここにないなんて寂しいじゃない? 本当にないなら仕方ないけど、キトに聞いたらあるって言うんだもん! だったら飾るっきゃないでしょ?」
鳩が豆鉄砲を食らった。
言葉を失い、金や青の玉を持って忙しなくツリーの周りを飛び交う小さな生き物の姿を木偶の棒のように突っ立って見守る父。
キトはやわりと唇を突き出し上目遣いで父に問いかける。
「まさか……? 見えてる?」
「あ? ああ。 キト、お前……?」
意図した母と違い、意図しない出会いとなった父に、キトは同じく髪を掻いてエイラを紹介した。優男の父は黙って頷き、母と同じく目を細めてエイラの白銀の髪を指でそっと撫でる。アクアブルーの小さな瞳がかまぼこを模れば、父は唇を引いてパタリ、冷蔵庫からビールを取り出した。
「僕らは、ずっと待っていたんだ」
座面を跨ぎ、椅子の背もたれに身体を預けた父は、冷えた缶ビールのラベルを無意味に眺めている。キトはエイラから目を離さず、無機質な相槌を打った。
「待ち人来る。そこから来るヒト。来人と名付けたんだ」
機会あるごとに何度も聞いたキトの由来。この人は寂しいのだとキトは悟る。
「不妊治療で七年。君に会えて十七年か……。僕らはずっと幸せで……、これからも幸せでいるはずだったのに……」
続く言葉が見つからない。昔は大きく見えたツリーが、今は腰丈すら届かずにそこにあることを確認したキトも父と同じ気持ちになっている。
カツンとぶつかるオーナメントの音が、シャララと擦れるプラスチックの葉の音がオレンジの光に満たされたリビングに小さく響いた。




