十四 西城
キトが西城と対面したのは、面談日から三日目のことだった。
しっかり者でいつも堂々としていて、社交性のある西城である。いくらキトが上達したからと言って不貞腐れるような奴でないことは小学校からの付き合いのキトには容易に想像できた。では何故キトに1stパートが譲られたのか?
バスを降りたキトは車で送られた西城と鉢合わせた。
(居た! やっと見つけた! どういうつもりだ? 西城ーーーー)
逃すまい。そう勇んで向かっていったキトは西城の母にペコリとお辞儀をし、そのまま動けなくなる。
胸に白い三角巾で腕を吊っている少年は、いつもの自信を何処かに置いてきたかのような情けない顔をしていた。
「やぁ、おはよう。 ごめん、キト。迷惑かける」
目を逸らした西城に、来人は慌てて彼の荷物を持ち上げる。
「何で? どうした?」
ただそれだけを発して黙った二人、教室に向かう。西城のクラスとは校舎が違うのだけれど、来人は構わず歩み寄る。
「自転車で転んでさ。情けないよな。見事にポッキリ」
やっと絞り出した言葉に、こくりと頷いてやる。西城はキトと違って器用に何でもこなす男だ。例え強風が吹いていたとしても簡単にバランスを崩すはずもなく、転ぶとしても大事になるとは思えない。
「笑うかもしれないけど……。俺は信じてるんだ」
不思議な言葉に首を傾げれば、たらり冷や汗が背を伝った。
「校門から伸びる緩やかな下り坂で、ふわっと光る小さな光を見たんだ。白銀色の髪に綺麗なブルーの瞳。薄いトンボみたいな羽根が忙しなく動いて、くるくる回って、透き通るような美しさだったんだ。そいつが急に進路を変えっから、ひきそうになって。避けたらこの様だ。相棒が無事だったのが幸いさ」
キトは思わず胸ポケットに手をやる。とろとろと寝入っている妖精は小さな膨らみとなって手に当たる。
「そうか……。ごめん」
思わず謝るキト。西城はキョトンとキトの目を見つめた。
「何でお前が謝る……?」
訝しげに問われ、どうしようかと迷ったキトは頭を掻きつつ授業後に会う約束をして、自身の教室に戻った。
こんな大怪我になってしまったのだ。西城には話そう、そう決めて。
面談を終えた高校は、受験の三年生に配慮し、短縮日課になっている。遅い昼食を食べ、十四時からの部活開始まで自主練習だ。昨日まで学校を休んでいた西城も、キトにパートを引き継ぐための練習に付き合ってくれる。
自主練の前にと人気のない校舎の狭間の通路で顔を合わせた二人は、ふわふわと空を漂う雪の妖精に会うのだった。




