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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第十一章
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その男、ジョルジョ

「麗華ちゃん、結婚したって」

母親の初子にそう告げられた藍子はテレビを見ながら

「あ、そ。お相手はどこのお金持ちかしらねぇ」

と投げやりに答えた。母親は芸能人のゴシップを語るような口調で、

「それがイタリア人で。しかも麗華ちゃんは妊娠しているのよ」

「え!」

藍子は驚きの声を上げ、母親に聞いた。

「もしかしてお相手はずっと腐れ縁が続いていたイタリアの人?」

「そうよ。ずっと千春さんは反対していたんだけど妊娠しちゃったからね。もう結婚させるしかなかったのよ」

初子は娘を持つ母親として、千春に同情を禁じ得なかった。今回の麗華の妊娠は二回目であった。しかしそれは片貝家だけの秘密で、藍子達が知るところのものではない。藍子は腕を組んで考える。つまり、麗華は清彦と付き合っている時もイタリア人との関係を切らなかったと言うことか。麗華と別れた後の清彦の荒れっぷりは麗華の裏切りが背景にあったのだろう。

「麗華ちゃん夫婦は隣に越してくるからね」

初子は言う。それを聞き藍子は

「勘弁してよ〜。なんで私が麗華とご近所にならなきゃいけないのよ」

と嫌な声で応じた。

「親所有のマンションに住めば家賃がタダじゃない。ほら、旦那さんは定職につかないからお金がないし。それに麗華ちゃんと近所付き合いをしたくないならばあんたが結婚して家を出れば良いでしょう」

と母親は正論で返す。話が自身の結婚問題に及びそうだったので藍子は立ち上がった。自室に戻り際、

「外国人とできちゃった婚か。離婚のリスクだらけだね。あーあ、こんな結婚だけはしたくない」

と捨て台詞を残した。


初子の言う通り、麗華は敬三住居跡のマンションに夫と共に越して来た。夕方玄関の呼び鈴が鳴ったので藍子がドアを開けると、そこには腹の膨らんだ麗華とその夫が立っていた。イタリア人の夫は見上げるような長身ではしばみ色の瞳を持ち、芸術作品として完成されたような男だった。藍子は彼の美しさに心を奪われ、一瞬言葉を失う。

「夫のジョルジョです」

麗華はご機嫌で藍子一家に紹介する。幸司は姪の妊娠と国際結婚にどう挨拶を返して良いのかわからず、

「おめでとう」

と言うのがやっとだ。初子は叔母としての役割を心得たもので、

「まあ素敵な旦那様ねぇ」

と賞賛の言葉を投げかけ、

「おめでとう、本当にお似合いの二人だこと。出産予定日はいつなのかしら」

と麗華から情報を引き出して行く。

「十二月です」

と麗華。

「男の子?女の子?」

「男の子です」

「お二人の子どもならばきっとハンサム君ね。困った事があったら何でも言って。お隣なんだから」

母親は世話好きの叔母の顔だ。玄関の上がり框に立つ藍子は自分が一瞬言葉に詰まったことを恥じた。まるでジョルジョの美しさに降伏したようだ。しかし肝心のジョルジョは引越しの挨拶に来たと言うのに不機嫌な顔をして黙っている。いやしくも隣家に住む妻の親族である。それなりの態度があろうに。麗華が間を取り持つようにイタリア語でジョルジョに通訳するも彼の反応は鈍い。

麗華は手土産を渡して、

「では叔父さま叔母さま、今後もよろしくお願いします。藍子ちゃんもよろしくね」

と頭を下げた。社会人生活と懐妊と言う事実が麗華を世知に長けた女にした。

 家族だけになると初子は

「嫌な感じの男だね」

とだけ言った。


藍子は新しい環境で人並みに恋をして、そして結婚して家を出て行った。


清彦はバック製造会社に数年勤務した後、故郷に呼び戻され、父親の会社に就職した。親は当然のように見合い話を持って来た。まだ二十代の清彦は身を固める気になれず、複数の女性を渡り歩く生活に未練があった。しかし見合い相手は年下の美しい女だった。清彦は親の勧めもありすぐに結婚を決めた。

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