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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第十一章
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君に会いたい

大悟は県警に就職した。すぐに警察学校に入学し、寮生活となる。教官は厳しかった。柔道、逮捕術、射撃訓練、法学講義。十ヶ月後の卒業まで詰め込まなければならぬことは山積みだ。入校後一ヶ月は外出を禁じられた。春とはいえまだ肌寒い夜、狭い個室で大悟は柄にもなく机に向かい、便箋に手紙を認めた。


「お手紙ありがとう。こちらは寝ても覚めても訓練です。合気道で失敗すると天水先生からよく『何やってんじゃこら』と罵声を浴びていましたが、警察学校の教官からも同じように怒鳴られています。

道場の事を懐かしく思い出します。何と言っても中学生の時から通っていて、家みたいなものなので。

残念ながら天水道場は解散してしまいましたが、天水先生や美紀先生が教えて下さった事を下の代に伝えて行けたらと思います。


君にとても会いたいです。

栗田 大悟

綿貫 紗羅様」


マリイは髪を黒く染めて全国にスーパーマーケットを展開する大手流通企業に就職した。しかし音楽の道を諦めた訳ではない。隙あらばこの会社を脱出してデビューを果たしたいと思っている。

  研修の一環としてマリイ自身がスーパーマーケットで売り子をする事が命令された。ビュレットナイトはアマチュアバンドにも関わらず驚異的な観客動員数を誇って来た、そのバンドを率いてきた私がレジ打ち?ハスキーボイスが私の売りなのに、甲高い声でいらしゃいませーとか言う訳?

 マリイは結局どこの音楽事務所からも声がかからなかった。バンドは解散して今や一人ぼっちだ。土日の活動だけでデビューまで漕ぎ着けるのか何とも心許ない。その前にスーパーマーケットを管理するようなサラリーマンと交わって自分の感性が鈍りやしないかと不安でならないのだ。



 入社して初めての金曜日、配属先の部署で歓迎会があった。上司の顔を見ながら飲むビールは不味かった。

歓迎会の二次会はカラオケである。上司は当然のようにカラオケで演歌を歌う。契りの盃とか一夜のほむら等赤面するような歌詞が続いた。こんな恥かしい歌を人前で歌えるとは恐れ入る。

「澤田さんも歌ったら?」

同期の女性がカラオケのリモコンをマリイに渡した。今のくさくさした気分を吹き飛ばすには歌うのが一番だ。幸いこのカラオケボックスでは洋楽も揃っている。マリイは曲を入れた。

マリイが選んだのは六十年代のパンクロッカーの巨星、イギーポップの『NO FUN』だ。勿論スーパーに就職するような人間はイジーポップなど知らない。マリイはマイクを掴むと立ち上がり、ステージ上さながらのハスキーボイスで歌い出した。上司を始め居合わせた社員達は瞠目する。マリイの声は廊下まで届き、他の客が何事かとドアの嵌め込み窓から中を覗き込んだ。


やっぱ歌はいいなぁ。本当の私に戻れる。よしもう一丁やるか。マリイはリモコンに次の曲を入れた。上司の歌う吉幾三の後、モニターに映ったのは、セックスピストルズの『ゴッドセーブザクィーン』だ。またパンク・・・・と同期から失笑が漏れる。

声を張り上げ歌いながら、マリイは周囲を見渡す。こんな会社にいたら私の将来は潰れちまう。

あー会社辞めよ。マリイは決心した。

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