告白
二人は公園脇の道路に出た。清彦は麗華の顔を覗き込み、
「本来ならばちゃんとしたレストランとかでプロポーズしたかったけれど、麗華さんは具合が悪そうだし・・・。すごく痩せちゃったけれど、気持ちが悪いの?」
麗華は頷いた。
「病院には行ったの?」
清彦は立て続けに質問をぶつけた。
「行ったわ」
「いつ生まれるの?」
麗華は質問には答えず、体を震わせて泣き出してしまった。清彦は麗華を抱き寄せ、
「ごめんなさい。こんな事にさせちゃって。不安だよね。俺じゃ頼りないよね。でも俺、絶対に麗華さんを幸せにしてみせるから。親御さんにもちゃんとお詫びするから」
「違うの」
麗華は身をよじって清彦の抱擁から逃れた。そして嗚咽を漏らしながら、言う。
「私、清君に悪い事をした」
「悪い事って?」
麗華はいつまでも泣き止まない。清彦は不安になる。
「ねぇ何があったの?話して」
「私・・・・」
麗華は泣きじゃくりながらも、
「私は、清君を裏切っていた・・・・」
「裏切るって?」
清彦まで泣きそうだ。麗華は一度涙を拭いた。そして
「私に今出来るのは、清君の前から消える事」
「え、何?何言っているの?」
清彦の問いに麗華は観念した様に言った。
「清君と別れたい」
清彦は耳を疑う。麗華の手首を強く掴み、
「別れることなんて出来ないよ。赤ちゃんだって生まれるのに。ねぇ、俺の事が嫌いになったの?俺と結婚したら名古屋に行かなきゃいけないから?」
麗華は目を閉じて、呼吸を整えた。落ち着いた口調で、
「十八の時にイタリアに留学して、それからずっと続いている男性がいるの」
清彦は麗華の告白を眉間がかち割られる気持ちで聞いた。
「今でも?」
清彦の声は震えている。
「うん」
「イタリアにはそいつと会うために行っていたの?ギャラ飲みまでして」
清彦は麗華のギャラ飲みを知っていた。麗華はたじろぐが
「それは違うわ。本当に音楽の為」
と答えた。そして一呼吸置いて、
「彼は音楽仲間で、同じ先生に師事していたから、顔を合わせる事が多くて・・・」
清彦は胎児の父親がだれであるか怖くて聞けない。しかし麗華は言った。
「お腹の子どもは彼の子どもだと思う」
その冷徹であられもない告知に清彦は我知らず泣いてしまった。そして
「麗華さんはイタリアから帰って来てから、俺に抱かれたよね?あなたは同時に複数の男と寝れる人なんだね」
涙を溜めた目で麗華を睨つけた。麗華は目を伏せて、涙をこぼしている。そして息を吐いて、
「もう私は清君と付き合う資格なんてないから」
と清彦から後退りする。清彦はまだ麗華の手首を掴んでままだ。
俺と別れる気か。で、別れた後は?麗華はお腹の子どもと共にイタリアの男と一緒になるのだろう。そう考えると麗華に裏切られた悲しみよりも怒りの感情が吹き出て来た。麗華の首は細く白い。清彦はその首から目を離すことが出来ない。
「麗華さんは俺と別れることなんかできないんだからね」
「でも他にどうすれば?」
「俺と別れてその男の元に行くなんて絶対に許されないよ」
清彦はそう宣言し、麗華の首に手をかけた。麗華は目を見開き清彦の手に爪を立て難から逃れようとするも、すぐに抵抗をやめて清彦に身を委ねた。瞳を閉じた顔は恍惚の表情にも見えた。それは否が応でも麗華とイタリア人の情事を連想させて、麗華への憎しみが増した。清彦は麗華の首を絞め続けた。麗華を逃してなるものか。この時間が止まれば麗華は永遠に自分の物になる。永遠を手に入れる為にはこうするしかないんだ。清彦は激しく嗚咽を漏らしながら麗華への攻撃の手を緩めなかった。




