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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第四章
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細い絆

ねぇ麗華とは連絡を取っているの?もしかして好きになっちゃった?藍子はゼミで清彦と顔を合わせる度に、冗談めかして聞いてみたくなる。しかし人の気持ちを覗き見するような質問はできるはずなかった。不安を抱えたまま大学は夏休みに突入する。

藍子は合気道二段になった。夏休みは出稽古だ。同じ流派の道場や他大の部活に顔を出し、練習量を増やして行く。大悟は自分の大学で合気道部を立ち上げ、そこの主将になっていた。藍子も大悟の部活に顔を出して稽古三昧である。稽古中は余計な事、つまり清彦と麗華の関係を考えなくて済む。夏休み中はゼミの教授からの連絡もない。清彦と関わる機会は全くなくなった。


藍子の携帯にビュレットナイトのジョイントライブの告知が入る。バンドのメーリングリストに登録している藍子には、自動配信で告知が届くのだ。

ライブは土曜日の夜からだ。その日は夕方から天水道場で合気道の稽古だった。練習を早目に切り上げれば観覧出来なくもない。だが清彦から直接誘われたわけでもないのに出掛けるのはためらわれた。仮に行かなかったとしたら。藍子はその結果を考えると暗い気持ちになる。藍子と清彦の細い絆は切れてしまうだろう。藍子の気持ちは乱れに乱れた


ライブ当日、藍子がライブハウスに着いた時には、既にビュレットナイトの演奏は終わっていた。せめて顔だけでも見せようと楽屋を尋ねると、既に予想していた通りの展開になっていて彼女の息は止まる。開け放たれた扉の向こうに麗華の姿を認めたのだ。麗華はミントグリーンのワンピースを着ている。ウエストが絞られたそのデザインは麗華の細さを際立たせた。真夏だと言うのに麗華は陶器のように白い肌だ。対して清彦は頬を赤らめ、麗華への気持ちを抑えられずに弾けるような笑顔を見せている。二人の横でマリイとドラムの芸名ジョニーは退屈そうに携帯をいじったりタバコをふかしたりしている。

清彦の心に自分はいない、藍子は認めざるを得ない。清彦達に気づかれないように藍子は踵を返した。いつの間にか彼女の背後にはギターの駿がいた。駿は楽屋の中をちらりと見て、

「あれ?」

と親指で清彦と麗華を指し示す。藍子は微かに頷き、楽屋を離れた。駿は藍子の肩を抱くように藍子をライブハウス外へ連れ出した。

「大丈夫?」

路上で駿は尋ねる。藍子は黙ったまま頷く。

「後で少し話そうか?ちょっと心配だし」

駿は普段の軽さを見せず、藍子を気遣う。優しくされると藍子は泣きたくなる。

「高円寺じゃなんだから、荻窪まで来れる?他の人に聞かれたくない話があるんだ」

駿は荻窪駅前の居酒屋を指名する。

「片付けが終わったらすぐに行くから、先に店で待っていて」

駿はそう言い残すと駆け足でライブハウスに戻って行った。


荻窪は高円寺の二つ隣の駅だ。ここまでは清彦も麗華も来ないだろう。藍子は店に入って、テーブルに着いた。今夜の藍子はとてもジントニックを飲む気にはなれず普段飲まないワインを注文した。

麗華が私から清彦さんを取った?松洞音大に行けなかった腹いせに私達姉妹に復讐したの?

しかし藍子はその疑念を自ら打ち消した。麗華のあの美しさはどうだ。麗華にその気がなくとも全ての男は彼女に夢中になる。現に麗華が藍子の家に姿を現しただけで、清彦は麗華に心を奪われていたではないか。

あの日四万六千日ではなかったら、あの日清彦を家に誘わなければ。いいえ、私がもっと美人だったら、ピアノを続けていたら。

藍子は今や後悔ばかりだ。藍子の目にじんわりと涙が滲んだ。

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