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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第四章
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天女降臨

その時玄関のチャイムが鳴った。

「親御さんかな?」

清彦はにわかに緊張した面持ちをする。藍子ははーいと返事をして玄関を開けた。

そこに立っていたのは薄紫のブラウスを着た麗華だった。既にアルミ製造の作業場は操業を終えている。麗華の背後から蝉の声が聞こえて来た。

「今日は。今日はおじいちゃまのご機嫌伺いがてらイタリアのお土産を持って来たの。これ、ほんのお口汚しですがどうぞ」

麗華は免税店の袋から包みを取り出し、藍子に渡した。敬三から金をせびってイタリア旅行か、そのお礼に土産を渡しに来たんだな。藍子はピンと来る。

麗華は一通りの挨拶を済ませると、清彦を見やり、

「お友達?」

と藍子に聞いた。清彦は玄関のたたきで直立不動である。藍子は清彦の横顔を見て、禍々しい前兆を感じる。清彦は既に麗華の美しさに心を奪われていた。

「初めまして。藍子さんと同じ大学の星野と言います」

清彦は腰を直角に折り曲げて礼儀正しく礼をする。藍子は、用が済んだらさっさと帰んなよと心の中で麗華に毒づいた。勿論藍子は清彦に麗華を紹介などしない。麗華は清彦のサクスフォンケースを見た。

「あら、お友達も何か音楽をなさっているのかしら?」

「はい、ブルースバンドでサックスを吹いています」

「私もバンドをやっています」

「あの、失礼ですけれど、藍子さんのご親戚でしょうか?」

「ええ、従姉妹です」

「従姉妹さんですか!実は前々から聞いていたんですよ、鵜飼保二先生のひ孫さんがバンド界隈にいるって」

麗華は清彦の言葉を微笑みながら聞いている。清彦は嬉しさを隠せず、藍子にまでありがとうと言わんばかりの笑顔を向けた。

「僕達、定期的に高円寺でライブをやっているんです。もし良かったら観に来て下さい」

清彦は麗華にライブの告知チラシを渡した。麗華はチラシに目を落とした後、

「あら、このライブハウスだったらうちのバンドも良く使っていますよ」

「そうなんですか。じゃあどこかで会えるかも知れませんね」

麗華はそうですねと相槌を打つこともなく、

「ライブ頑張って下さいね」

とうんと年下の少年を励ますように言うのだった。

「叔父様と叔母様にもご挨拶して来るわ」

麗華は藍子に告げ、清彦には丁寧な礼をして玄関を出て行く。

「僕達もそろそろ行かないとね」

清彦は藍子に行って、麗華に続くように出た。作業場に入る前、麗華はもう一度清彦に会釈をする。麗華の薔薇を思わせる香水が一瞬清彦と藍子を包み込むように匂った。


清彦と藍子はそれぞれの目的地に向かうべく、並んで駅に向かった。藍子には分かる、清彦の気持ちはもう自分に向かっていない事を。二人は先ほど参拝を済ませた観音寺前を通り過ぎる。日没近い境内に更に参拝者が増えた。屋台も多く開き、焼香の匂いに代わって食べ物を焼く匂いが漂って来た。清彦は観音像を横目で見ながら呑気な口調で

「今日は色んな偶然が重なるなぁ。念願のグランドピアノまで弾けて、しかも鵜飼保二先生の子孫の家で。流石四万六千日の御利益だ」

と言うのだった。藍子は僧侶の説教を思い出す。

「身の丈に合わない願いは叶わない、碌な結果にならないと観音様が考えたら願いは叶わない」

四万六千日の今日は観音堂は開け放たれ、通りからも観音像が拝めた。観音像の口元は固く結ばれ、藍子の願いを拒絶しているように見えた。

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