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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第四章
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駿の予言

五月の週末、清彦のバンド、ビュレットナイトは高円寺のやや大きめのライブハウスでライブを行った。他のバンドも出るジョイントライブだ。藍子はビュレットナイトの演奏後友人と共に差し入れを持って楽屋に向かった。その途中でサックスと旅行鞄を持った清彦とすれ違った。

「あ、アイアイ、来てくれたんだ、ありがとう。俺帰るから」

清彦は血相を変えて出口へと向かった。藍子と友人は顔を見合わせる。

「清彦、実家で不幸があったらしくってね」

楽屋の中からギターの男、駿が声を掛けた。藍子は楽屋に入り駿に、

「これ良かったら皆さんで召し上がって下さい」

と例によって楓に焼かせたクッキーを差し出す。駿は包みを手に取り、

「ありがとう。アイアイが持ってくる差し入れっていつも美味しいんだよね」

「本当?妹に言っておくね」

マリイは藍子の姿を認めると嬉しそうな顔をして近づいて来た。

「これから他のバンドも集まって打ち上げするんだ。アイアイ達もおいでよ」

「私達みたいな一般人が行ったら場違いなんじゃないのかなぁ」

「実は清彦が帰っちゃったから飲み屋のキャンセル料がかかるんだよね。だから清彦の代わりに来てくれると助かるんだ。人数が増える分には構わないから」

マリイは懇願口調で実情を打ち明けた。

「なんだそう言うこと。じゃあ喜んで」

藍子は出席を快諾した。


友人はアルコールが苦手な事を理由に帰宅した。結局藍子一人が打ち上げに参入する事となった。ビュレットナイトのメンバーの隣に座る藍子を、

「この子誰?マネージャー?」

と初対面のバンドマンが揶揄う。

「ううん、うちの用心棒」

マリイも冗談で返す。

「前から思っていたんだけど、ビュレットナイトってどう言う意味?」

藍子は聞いた。マリイは

「ビュレットって弾丸って意味。ほら、新幹線ってビュレットトレインって言うじゃない?弾丸の騎士ってところだね。私等のバンドも弾丸の如くヒットチャートに駆け上りたいって思ってね。ま、私が付けたんだけど」

と些か自慢気に答えた。


「アイアイは清彦と付き合っているの?」

駿は聞いた。

「ううん、そんなんじゃないよ」

「ふうん、仲は良いのにね」

「そう見える?うふふ、実は清彦さんとは同じゼミを取っているんだ。あ、勿論偶然だよ」

「うん知っている。あいつがゼミ長でアイアイが副長なんでしょう?」

「そう、色々事情があって」

「益々カップルみたいじゃん」

「あはは」

「好きなの?あいつの事?」

藍子は周囲を見渡し、誰も駿との会話を聴いていないことを確かめてから、

「私の手の届く相手じゃないから」

と真顔で答えた。しかし、駿はその言葉に納得していない風だった。藍子は少し考えてから丁寧に自分の気持ちを伝える。

「私はあの人に多くのファンがついて、良いステージをしてくれる事が一番嬉しい」

「じゃああいつが他の女と付き合ったら?」

「いるの?」

藍子は不安になって聞いた。駿は煽るように、

「ほら、やっぱり他の女に取られるのが嫌なんじゃん」

清彦が他の女性を愛する、そう考えただけで藍子の胸は押しつぶされそうだ。藍子は暗い顔で

「もしそうなったら身を引くしかないよね」

と答えた。駿は煙草に火を付け、

「ま、客観的に見て、アイアイと清彦は上手くいかないように感じるけどね」

そう断言されると藍子は流石に悲しくなる。どうして?と不満気に理由を尋ねた。

「アイアイはやっぱり真面目な子だよ。清く正しく真っ直ぐでさ。あ、嫌味じゃないからね。俺自身はそう言う子じゃないと信頼できないし彼女にも出来ない。ただ清彦はどうだろう。あいつ、良いところの御曹司なんだよ。ずっと満たされて育てられて来たから、普通の女じゃ満足しないね。絶え間ない刺激がないと退屈しちゃうって言うか」

藍子は語気を強めて、

「だからさっきから言っているでしょう、私の手の届く相手じゃないって」

そう言った後、二杯目のジントニックを飲み干し、

「かー飲まずにやってらんないわよ」

と駿を睨みつけるのだった。


打ち上げが終わり、駿と藍子は同じ方面の電車に乗った。駿は顔を近づけ、

「一度俺と付き合ってみろ。俺が男の良さを教えてやろうか?」

と言って来た。藍子は改めて駿を見る。細い腕、薄い胸、背も高くはない。髪は明るい色に染め、ピアスは無数に耳朶にぶら下がっている。私より弱そうなくせに何言っていやがるんだ、藍子は思った。

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