ストーカー規制法該当事案
藍子は三年生になり、大学ではゼミが始まった。四月の初頭ゼミ開講日、藍子は昼休みのうちに教室に入った藍子は、そこに清彦がいる事に驚く。清彦は藍子の姿を認めると片手をあげて挨拶した。藍子は同じゼミ生になれる事を喜びつつも、これじゃ追っかけを通り越してストーカー扱いされると危惧する。そこで藍子は清彦への付き纏いの嫌疑をかけられぬように、聞かれもしないのに、
「親が自営業で、それでこの経営学のゼミにしたの」
と志望理由を話した。
「へー何のお仕事なの?」
「アルミ建具。玄関の外枠を作っているんだ」
清彦は藍子の言葉に興味を示した。
「うちも実は自営で。立ち話もなんだから座ったら?」
清彦の前席は空いていた。藍子はためらいつつも、そこに横向きに座わった。
「清彦さんの親御さんは何のお仕事をなさっているの?」
「バッグの製造販売」
「清彦さんが跡を継ぐの?」
「多分ね。一度は他の会社に就職すると思うけれど。アイアイのご実家は?アイアイが継ぐの?」
「まさか。力仕事だから男性の仕事かなぁ。うちは女兄弟しかいないから、父の代で終わりになるかも」
「だったら婿養子を取ればいい」
清彦の提案に藍子は笑いながら、
「うちの祖父と同じ事を言うんだね」
じゃあ貴方が私と結婚して婿養子になってよ、と藍子は言いたくなる。もっとも家業の次期社長である清彦は鵜飼アルミ建具製造を継いでくれる事はないだろうが。
チャイムが鳴るとすぐさま担当教授が教室に入って来た。年齢は六十歳前半といったところか。藍子は清彦の前に座ったまま授業を受けることになる。教授はゼミの概要を説明した後、教室を見渡した。生徒の数は十五人ほどだ。
「君達の中からゼミ長を立てて欲しいんだ。希望者がいるかね?希望者がいないのならばこちらから指名するが」
もちろん全ての生徒は指名から免れる為に頭を下げる。教授は名簿を見ながら、
「星野君、君確か二年のプレゼミからいたよね?君がゼミ長をやってくれないか?」
と清彦を名指しする。清彦は顔を上げた。
「え、僕ですか?僕、部活が忙しくって・・・・・」
「でも一年間プレゼミをやって、だいたいの事は分かっているだろう?」
「ええ、まあ」
「君が不安だったら副長を立てるぞ。それだったらできるだろう」
「そうですねぇ」
清彦は浮かない顔だ。
「誰か副長をやってくれる人はいるかな?」
教授は再び教室を見渡した。誰も名乗り出ない。藍子は清彦を振り返って聞いた。
「大丈夫?」
「うーん、今年はバンドのコンクールとか色々計画があって」
清彦は頭を掻く。
「私、副長やろうか?」
教授は二人の私語を聞き漏らさなかった。
「どうだ、君が副長をやってくれるかね?」
教授は藍子に聞いた。藍子はすぐには返事が出来ず、後ろの清彦を伺う。清彦はやってくれと言わんばかりに何度も頷く。
「はい、やります」
藍子は教授の提案を受け入れた。
「君、名前は?」
「鵜飼藍子です」
教授は名簿を見つつ、藍子の名前に印をつけた。
藍子は口には出さぬまでも、清彦にゼミ長になって貰いたかった。ゼミ長の肩書きは就職活動に有利であり、またいずれ社長になる人間は人をまとめる経験をして置いた方がいいからだ。とは言え、今更ながら副長を名乗り出た自分が恥ずかしい。ますますストーカー扱いされてしまう。藍子は一人頬を赤らめた。




