表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備前宰相の猫・二巻  作者: 山田忍
27/30

猫と大太刀

 それから数日後、

「あの大太刀の正体が分かったって」

 孫七郎さんから、大太刀の正体が分かったのと、刀について気になる事があるので、来てほしいとの事だ。

「一体、あの大太刀は、どの様な物なのだろうか?」

「さあ……」

「何でもいいだろ。南蛮かぶれを倒せないのなら、金だ金だ」

「エリンギ……」

「小西殿の問題でないのならば、金と言う問題でもないと思うのだが……」

 エリンギの事は放っておいて、オレ達は孫七郎さんの屋敷に行く事にした。

「来たか。猫、宇喜多殿」

「来ました」

「大太刀について分かった、と聞きました。その事についての話ですが……」

「ああ、あれか。待ってくれ」

 孫七郎さんは奥に行き、大太刀を持って来た。

「「あっ⁉」」

 例の大太刀の柄や鞘は綺麗になっている‼

「この大太刀はな……」

 しかも孫七郎さんは、大太刀を抜き、美しく磨かれた刀身を見せた。

「苦労したみたいだぞ。ここまで戻すのに」

 孫七郎さんは嬉しそうに言っているが、オレ達には気になる事が、

「羽柴殿、この大太刀の正体は——」

「ああ、これか? これは、蛍丸(ほたるまる)だ」

「蛍丸?」

「元は、肥後国の阿蘇(あそ)氏の愛刀なのだが、何故、初めて見た時はボロボロになっていたのだ?」

「さあ……何でやろ」

「ふむ……」

 オレ達が考え込んでいると、孫七郎さんはいきり立ち、

「とにかく、阿蘇氏め! 雑に扱いやがって‼」

「えっ⁉ そうなんですか?」

「それに、肥後国には蛍がいないのか⁉」

「蛍?」

「ああ、俺が聞いた話では、蛍が傷ついた刀身を直した、と聞いているのだ‼ 何故、ここまでボロボロになっているのだ⁉」

「ふむ……あの二人がしたのか?」

 孫七郎さんは刀を抜き、

「だったら、許さねえ‼」

「いやいや、落ち着いて下さいよ‼」

「賊は今、ここにはいないのだ‼ また見つけた時に倒す‼」

「……はあ。そうだよな」

 孫七郎さんは刀を納め、座り込んだ。

「えっと……じゃあ、この蛍丸も名刀と言う事ですか?」

「そうだ。この蛍丸も名刀だ」

「名刀ならば、良い事ではないか」

「猫、宇喜多殿。これを」

 孫七郎さんが重たい袋を渡したので、中身を見ると、大量の金が入っていた。

「ふにゃああああああああああ‼」

 それを見たエリンギは羽の付いた扇子を持って踊り出した。

「蛍丸の礼だ。やる」

「そ、そんな。こんな大金……」

「そうだ。私達には、必要の無い物だ。蛍丸に礼はいらん。羽柴殿が受け取ってくれ」

「本当にいいのか?」

「ああ」「当然だ」

 孫七郎さんの目は輝いているのと同時に、あいつも輝いていた。

「ふぎゃあああああ‼」

「やめろ! エリンギ‼」

 暴れるエリンギを押さえつけていると、

「悪いな。ならば……」

 エリンギを無視して、孫七郎さんは二振りの刀を持って来た。

「これを受け取ってくれ。この打刀、分からなくてな」

「打刀ですか?」

 打刀の一振りを抜いてみると、

「あれ?」

 刀身の先端が折れている。

「ああ。それ、帽子の所が折れているだろ。相当、使い込んだ打刀だと言う事は分かる」

 帽子が先端であるのは分かる。色々な人に教えてもらったからな。ちなみに刀工の特徴が出やすいと言われている。

「この折れている打刀は加州(かしゅう)金沢住長兵衛藤原清光ちょうべえふじわらのきよみつと書かれているのだ」

「……長いっすね」

「何がだ? もう一振りは大和守安定(やまとのかみやすさだ)と言うが……」

「聞いた事が無い名だ」

「そうだろ。それで、二人にどうすればいいか聞こうと思って」

「ふむ。どうする?」

「孫七郎さんは、どうしたいのですか?」

「俺は二人に受け取ってほしいのだが」

「「えっ⁉」」

「受け取ったら、好きにしてくれていい。取りあえず、金を受け取らないのなら、この二振りを受け取ってくれ」

「でも……いいんですか?」

「構わん。猫と宇喜多殿の好きにしてくれ」

 オレ達は顔を見合わせて、

「八郎、どうする?」

「では、猫丸。この二振りは、お主の物にするのだ」

「えっ⁉ オレの⁉」

 オレが驚いていると、八郎は話を続けて、

「そうだ。猫丸の物にして、お主が好きなようにすればいい」

「オレの好きなように、って……」

「猫丸が使ってもよし、誰かにあげてもよし、それは猫丸の好きにするのだ」

「そうか。猫の好きなようにか。ならば、猫。受け取れ」

「そ、そうですか」

 オレは二振りを受け取ったが、孫七郎さんに、気になっていたあの事を聞いてみた。

「孫七郎さん。錆びた蛍丸を使って、ある男性の頭を殴ろうとしたヤツがいたんですけど……」

「なぁにぃ~~⁉ そんな奴が居たのか⁉」

「はい。います」

「猫‼ そいつが見つかったら、俺に言え‼ 俺がそいつを試し切りに使ってやる‼」

 それを考えた猫は遠くを見ている。

「まあ、見つかったら、ですよ」

「蛍丸で斬ろうではなく、錆びた蛍丸で殴ろうなんて、どの様な考えだ‼ 許さん‼」

 孫七郎さんは刀を振り回しているので、それを見たオレ達は、

「では、帰るとしよう」

「じゃあ、また。孫七郎さん」

「また会う時は、そいつを捕まえてくれよ!」

 孫七郎さんの屋敷を出たオレ達は、

「そんな事、考えるなよ。エリンギ」

「くそ‼ あいつめ。あんな奴、切腹でもして、晒し首になって、一族郎党皆殺しになればいいんだ‼」

「えりんぎ。何故、そうなる。羽柴殿が何か悪い事でもするのか?」

「そんな事する人じゃねえぞ」

「ふん。お前達は黙っていろ」

 エリンギは不機嫌にそっぽを向いた。

「さあ、数珠丸恒次や、他の刀をどうするか、考えるぞ」

 オレ達は宇喜多屋敷に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ